認知症の予防力を上げる行動とリスクを上げる要素|最新調査でわかった8つのこと【医師解説】
2030年時点で830万人、2050年には1000万人超えの見込みといわれる認知症。年を重ねるほど発症リスクが高くなる認知症だが、発症しない人もいる。その違いは「認知予防力」。専門家によると、認知症を防御する抵抗力が強いかが重要となり、「認知予防力」を上げる3つの行動があるという。それは一体どういうものなのか詳しく話を聞いた。
「認知予防力」が高まる3つの行動
認知症という立ちはだかる壁を越えるために、どんな準備が必要なのか。
これまで約3万人の認知症患者を診療してきた認知症専門医でおくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さんはこう話します。
「2020年に医学雑誌『ランセット』に掲載された論文によれば、<趣味・人とのつながり・運動>の3つによって認知予備力が高まり、発症する確率を40%減らせることが明らかになっています。ナン・スタディーでも、アミロイドβがたまっていながら認知機能の低下が見られなかった修道女に共通していたのは、日々多くの人とコミュニケーションを取り、土を耕したり作物を作ったりと体を動かし、多くの書物を読んでいたこと。無意識のうちに<趣味・人とのつながり・運動>をコンプリートした生活を送っていたのです」
【1】趣味
趣味を見つける際に意識するべきポイントは、他人と一緒にできるものかどうかにある。続けて奥村さんが説明する。
「一時期、認知症予防を謳った脳トレのドリルやパズルが流行しましたが、こうした趣味にひとりで黙々と取り組むよりも、対戦相手と向き合って行うゲームの方が認知予備力を高めやすい。囲碁や将棋、麻雀などがそれに該当します」
【2】人とのつながり
人とのつながりは、仕事や社会貢献を通じて見つけることが有用だ。奥村さんは、臨床経験から仕事を継続することの大切さをこう話す。
「65才で定年を迎え、人との会話や外出が極端に減った結果、もの忘れが激しくなって来院する患者は少なくありません。家にこもってスマホやテレビとにらめっこする生活は、認知機能を落とすだけでなく脳疲労も促進させ、認知症リスクを大幅に上げてしまう。“65才の壁”を越えるためには、現役時代から継続してできる仕事やボランティアを探しておくべきです」
医学博士で日本応用老年学会理事長の柴田博さんも声を揃える。
「認知能力の低下を予防するには仕事やボランティア活動などを通じ、脳や体に刺激を与えることが肝要です。人事課で働いていた人なら、引退後はボランティアで人を手配する業務を探すなど、以前働いていたときと似た内容なら、スムーズに始められます」
【3】運動
継続が大切なのは3つ目の要素の運動も同様だ。年間600人の認知症患者を診療する東京メモリークリニック蒲田院長の園田康博さんが言う。
「運動の継続が認知症を遠ざけることは疫学的にも証明されています。筋肉を動かしているのは脳。そのため、筋力が落ちればそれに比例して脳の機能も低下し、認知症を発症しやすくなったり、症状の進行を早めたりする原因になります。特に“第二の心臓”といわれ、全身に血液を送り出すポンプの役割を果たすふくらはぎを使う運動や水泳、ウオーキングなどを推奨します」
奥村さんは、運動にコミュニケーションを“ちょい足し”することをすすめる。
「趣味と同じく、運動も黙々とひとりで走るよりも、誰かとおしゃべりしながらウオーキングする方がいい。あるいはゴルフやテニスなど相手がいるスポーツを選ぶことで、効果はまったく違ってきます」(奥村さん)
65才を過ぎたら飲酒と喫煙は控える
認知予備力の鍛え方とともにアミロイドβの蓄積そのものを防ぐ方法についても、研究が進んでいる。東京大学薬学部教授で認知症治療の研究に携わる富田泰輔さんは言う。
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「認知症発症のリスクについては、いくつかの要素が明らかになっており、具体的には肥満や喫煙が5%、うつが4%、高血圧が2%、過度のアルコール摂取が1%などが挙げられます。また、睡眠抑制をしたマウスの脳内にアミロイドβがたまっていたという研究結果もあり、良質な睡眠をしっかり取ることも脳の“ゴミ出し”能力に関係するといえます」
WHOが発表している認知症予防のガイドラインの中にも、喫煙やアルコール、生活習慣病がリスクを上げることが明記されている。65才を過ぎたら、特に飲酒と喫煙を控えるよう意識すべきだろう。
頑固タイプも要注意
「長年の診療経験を振り返ると、こうした生活習慣や病歴といった共通点に加え、患者の性格傾向にも同一のものを感じます。それは、『頑固で“白黒思考”をしがちな人』。自分の非を認めず、他人の意見に耳を貸さない人はそれだけストレスをためやすく、脳も疲労しやすい。自分にも他人にも厳しく、白か黒か、0か100かを常にジャッジしようとする性格は小さな失敗や不調にもつまずき、マイナスに捉えがちになる。
こうした考え方はうつ病にもつながりやすい。“頑固タイプ”に当てはまる人は、若いうちから白黒思考のクセを改めるよう意識した方がいい。年を重ねたら、自分の弱みを見せられることに免疫がある人こそ本当に強いのです。失敗談を笑って人に話す練習をするといいでしょう」(奥村さん)
睡眠の質も大切
年を重ねて変化するのは睡眠の質も同様だ。
「高齢者の睡眠におけるいちばんの問題は、睡眠と覚醒のメリハリがなくなってくること。昼間からうとうとしていることが多いと夜の睡眠が浅くなったり、何度も目覚めてしまい、アミロイドβの排出を妨げてしまいます。日中の活動量を増やし、夜にしっかり眠れるよう心がけてほしい」
認知症予防のためにできる8つのこと【まとめ】
大規模調査と最新医学でわかった、認知症予防のためにできること一覧。
【行動/理由】
■趣味を見つける
ひとりで黙々と取り組むものよりも、囲碁や将棋、麻雀など対戦相手とコミュニケーションを取りながらできるものが理想的。
■人とのつながりを絶やさない
65才で定年を迎えた後、もの忘れが激しくなる人は少なくない。現役時代から継続できる仕事や社会貢献を早いうちから探しておくといい。
■運動習慣
筋肉を動かしているのは脳であるため、衰えれば認知機能も下がる。特に全身に血流を巡らせるふくらはぎの運動は重要。定期的なウオーキングを。
■喫煙・飲酒を控える
アミロイドβを増やす要因として、喫煙が5%、過度のアルコールが1%とされている。
■白黒思考をしない
頑固な性格で、「白か黒か、0か100か」の考え方をする人は認知症だけでなくリスクファクターであるうつ病にもなりやすい。
■質のいい睡眠を取る
アミロイドβの排出は睡眠時に行われる。日中しっかり活動し、夜は質のいい睡眠を取ることを意識したい。
■たんぱく質を摂る
血中のたんぱく質の値を示す「アルブミン値」が低下すると認知機能も低下する。アミノ酸スコアの高い卵や鶏胸肉、大豆などを食卓へ。
■やせすぎない
米ハワイで行われた大規模な追跡調査によれば、アルツハイマー型認知症が発症した人にみられた兆候は、共通して体重減少だった。
教えてくれた人
奥村歩さん/おくむらメモリークリニック理事長、柴田博さん/日本応用老年学会理事長、園田康博さん/東京メモリークリニック蒲田院長
取材・文/土屋秀太郎 取材/小山内麗香、伏見友里、三好洋輝
※女性セブン2022年6月9日号
https://josei7.com/
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