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暮らし

「シルバー人材センター」活用の実例に学ぶ60才からの働き方・生きがいの見つけ方

 全国の市区町村の8割に約1300団体(2022年3月現在)が設置されている「シルバー人材センター(以下、センター)」では、60才以上の会員に臨時的・短期的・軽易な就業を提供している。地域の中で働きながら、生きがいを得られるという。実際に、働く人たちの体験とセンターの取り組みについてお話をうかがった。

未知の分野にも仲間とともに楽しんで挑戦<福井県大野市の場合>

 全国のセンターの「独自事業」の中で抜きんでた活動をしているのが、福井県の大野市シルバー人材センターだ。

 2002年に野菜直売所「ねんりんの里」を開設し、女性を中心とした高齢者の雇用を創出した。その後も事業を発展させ、農産物の生産→加工→流通・販売という6次産業化の仕組みを確立したのだ。長年の取り組みが評価され、2021年には内閣府男女共同参画局「女性のチャレンジ支援賞」を受賞した。

「福井県の面積の20%を占める大野市は、おいしい食材の宝庫。そこで直売所『ねんりんの里』を開いたのですが、会員であれば誰でも野菜の持ち込みができるという点が、当時としては画期的なシステムでした。その後、残った野菜を無駄にしないため、旧小学校の給食室を利用して梅干しなどの加工品を作りました。

 この活動を評価してくださった大野市から、使われていない会議室を有効活用してほしいと要請を受け、お休み処『ねんりん茶屋 のーそん』を作り、さらに新事業の弁当店『まごころ食堂』も始動。いまあるものをよりよくするために行動した結果、事業が拡大していました」と、同センター事業課長の山田歩弓さんは言う。

 昨今話題になる女性の活躍やSDGsのはるか先を行く進取の精神に驚くばかりだ。

「大野市は、昔から女性が外で働くことは当然という傾向があり、1987年のセンター開設から女性会員が半数以上を占める希有なセンターなんです。独自事業に力を入れるのも、市民に求められるセンターでありたいという思いが根底にあるからで、元気な高齢者が得意分野で活躍し、地域発展に寄与していくことを常に目指しているんです。

 以前、地元の看護学校生が『ねんりんの里』へ就業体験に来た際、学生さんから『会員のみなさんを見て、老いることが怖くなくなった、自分も老後はこうなりたい』という感想をいただきました。こうした声は、会員さんのやる気にもつながります。仕事を通じて学び続けることで地域も成長し、自分自身も成長するのだと実感しました」(山田さん・以下同)

 現在、大野市シルバー人材センターの女性会員は60~80代の329人。「ねんりんの里」「ねんりん茶屋 のーそん」「まごころ食堂」ほか、センターが手がける施設で働く人のなかには、それまで専業主婦だった人や、経験外の業務に携わる人も多い。

「初めてのことに挑戦できるのも独自事業のよさですね。収入は少ないですが、みなさん『楽しいから』と働き続けてくださっています。理由は、空いた時間を使って働けるとか、お客さんとの交流が好きだからなど。そこに行けば仲間に会えるという楽しみもあるようです」

 個々の活動では事業の継続が難しくなるが、センターが運営面を支えてくれることで会員は安心して働くことができ、活気ある場所には客も集まり、センターも持続可能な事業展開ができる。みなが幸せな循環ができているのだ。

「現在は、17の事業を行っています。最初の独自事業の1つである1995年の刃物研ぎは継続中で、95才の男性会員も活躍していました。センターのモットーは『人生100年 生涯現役 大野人』。創意工夫で、これからも前例のない事業に挑戦したいですね」

 “もう年だから”と、あきらめることがもったいないと思える場所が、探せばあるのだ。

■ねんりんの里

本店:福井県大野市大和町3-7 営業時間:年末年始8~16時

収入目的だったのに仕事が生きがいに!<福岡県大木町の場合>

 福岡県南西部に位置する大木町は人口1万4000人足らずの小さな町。穀倉地帯の筑後平野の中央に位置し、米、いちご、アスパラガス、きのこ類などの産地だ。

「都市部と違い、大木町シルバー人材センターの仕事の中心は農作業です。最初は農作業の経験のある会員がほとんど担っていたのですが、それでは人が増えていかない。その中で、未経験からの道を開いてくれた会員のひとりが、杉道子さん(73才)です」と、同センター事務局長の猿渡知子さんは語る。

 いちごの苗の植え付け、収穫期の手入れを行う杉さんは、60才で定年後、年金を補うためにセンターに入会した。それまで農業経験は皆無だった。

「60才を過ぎて未知のことに挑戦するなんて頭が下がりますよね。初めは苦労されたようですが、教えたことをきちんとやってくれるとお客さまから評価をいただきました。いまではすっかりベテランですが、後輩へのアドバイスも優しく丁寧で、素晴らしいお手本になっています」(猿渡さん・以下同)

 10年以上経ついまも、元気に畑に立つ杉さんは、「農家のかたに感謝されることがうれしい。当初は収入目的だったのが、70代になったいまは働くこと自体が楽しく、生きがいになった」と言う。

「農家のかたもシニアの戦力はありがたいと言ってくださり、最近では、大木町に新規就農の若い移住者が増え、図らずも世代間交流といううれしい副産物もできました。当センターの会員は200名弱で、うち女性会員は60名。会員さんの協力もあって、昨年は女性の入会者が増えました。うちの場合、女性会員がとにかく明るくて元気。元気だからセンターに来ているのか、その逆なのかはわかりませんが、同世代のかたがたの話を伺うと、うちの会員さんは若々しいなと思います。1時間ほどのホームヘルプの仕事でも、きちんとお化粧をして出かけるかたもいて、みなさんが生き生きとしているのはうれしいですね」

働きがいを後押し、社会参加も実現<東京都狛江市の場合>

 全国シルバー人材センター事業協会の本橋昇さんは「“シニアの居場所”という役割もある」と語る。各地のセンターでは、仕事の提供だけでなく、さまざまなサークル活動が行われている。なかでも、東京都の狛江市シルバー人材センターでは、派手なかつらをかぶって国内外のポップスを踊る女性ダンス部「チャーミーズ」が、センター以外でも活動の場を広げているという。

「NiziU(ニジユー)のダンスを80(ハチジュー)がノリノリで踊っています(笑い)。30名いる部員は60~80代で、つい先日もAKB48の『ヘビーローテーション』のサビ部分を教えたのですが、みなさん覚えが早い! 若い頃に社交ダンスの経験があるのと、1980年代のディスコブームで踊っていたかたも多いので、リズム感がいいんですよ。テンポが速くたって、しっかりついてきますよ」と、同センター事務局長の池田あけみさんは笑う。

 「チャーミーズ」は、ダンス好きの会員数名が申請して結成したという。

「かつてのサークル活動は会員主体で運営していましたが、高齢者に『自分たちでやって』と言っても難しい。そこで、私たち職員も携わり、ダンスの振り付け指導や動画撮影などで協力しています。ふだんは着ないような派手な衣装もそろえ、『ヘビーローテーション』用にはタータンチェックのミニスカートを用意しました。恥ずかしがるかな?と思ったら、『この年でこんなにかわいいものを着られるとは思わなかった。ありがとう!』と感謝されました」(池田さん・以下同)

 会員には、孫と共通の話題ができて喜んでいる人も多い。

「最初は『えっ、ダンス部?』といぶかる声もありましたが、いまでは市のイベントへの出演依頼も来るようになり、入部希望者も増えました。“シニアだからこうあるべき”と型にはめるのではなく、何でも挑戦していただくことで、高齢者の今後の可能性は広がるのだと思います」
 
 70代のある部員は、「ひとりでは恥ずかしくても、大勢で踊ればとても楽しい。部員のみんなが若返った気がします」と語る。

 狛江市では、毎夏「狛江古代カップ多摩川いかだレース」という、手作りいかだでアイディアやスピードを競うレースが行われているが、同センターでも毎年参加している。

「会員さんには元大工さんもいれば漕(こ)ぎ手もいる。人材の宝庫です。ほかのチームから『シニアなのにすごい』と一目置かれています(笑い)」

 池田さんは、「いまこそセンターの出番だ」と力説する。

「超高齢化社会、物価の高騰、年金問題など、暗いニュースが多く、シニアには厳しい時代です。会員さんには配偶者に先立たれてひとり暮らしのかたも多い。だからこそ、センターに集まれば仲間がいて、仕事も遊びも一緒に頑張れる、夢と希望がいっぱいの場にしたいんです。その一環としてサークル活動を充実させていますが、センターの主目的は働いていただくことですから、入会したらすぐに仕事を提供することは最優先事項です。仕事がなければ会員さんはあきらめて来なくなってしまいますから。そのために、創意工夫で仕事を創り出す努力もしています」

 多くのセンターでは、1つの仕事を切り分けながら、なるべくたくさんの会員へ仕事を提供しているという。このやり方でいけば、まだまだ社会で必要とされるニッチな仕事を生み出せそうだ。

「当センターでは、軽度の認知症の会員さんもいらっしゃいますが、グループでサポートしながらしっかり働いてもらっています。101才の男性もいらっしゃるんですよ! ポスティング(チラシ配布)をお願いしていますが、配布に伴う計算や集計も間違いがないし、スマホも使いこなせるスーパーシニアで、このかたに会うと、私たちが元気になるんです」

 仕事を得るだけでなく、地域の中で趣味や友人まで得ることができれば、リタイア後の暮らしも豊かなものになるだろう。あなたの地元のセンターにも、面白いサークルがあるかも!?

取材・文/佐藤有栄

※女性セブン2022年6月2日号
https://josei7.com/

●豊かな老後と健康のために”生きがい”の見つけ方3か条「思いがけない偶然を大切に」

●年取って仕事辞めたくても辞められないー高齢者の生きがい就労は「絵に描いた餅」か?

●60才からの就活に必要な心構え シニア女性がふたたび働くのに必要な3つ準備とは

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