「夫を看取った今、心は満足です」過去の相談者からの報せに毒蝮三太夫は「役に立ててよかった」|「マムちゃんの毒入り相談室」第29回
どんなに仲睦まじい夫婦にも(仲睦まじくない夫婦にも)、いつか必ず別れが訪れる。ガンと闘う夫を看病しているときに相談を寄せてくれた女性から、お礼の投稿があった。その後、夫は旅立ったという。別れを前にしたときに何ができるか。悲しみにくれている人にどんな言葉をかければいいか。マムシさんがやさしく語ってくれた。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「悲しい別れをして落ち込む人にどんな言葉をかけるか」
毎回読んでくれてる人は覚えてるかもしれないけど、去年の8月に「ガンを患う夫の暴言と暴力がつらい」という相談に答えた。旦那さんはまだ65歳なんだけどかなり重い症状で、奥さんはいろいろなことにまいってたんだよな。
その女性から、また投稿があった。前置きは省略するけど、こういう内容だ。
「あのあと、数カ月で夫は旅立ちました。その数カ月前、夫が看護師さんに『優しくされると、俺はもうダメなのかと、暗くなる』と打ち明けたと聞き、元気なときのように、ケンカをふっかけ、家事を頼み、家庭の悩みを話して過ごしました。でも、最期なのに、これでいいのかと迷いがでて……。『どう過ごしたいの?』と言葉短く尋ねると。『あなたを見ていたい』と言われました。思いもよらない言葉でした。
そのあとは、息子の結婚式にも出席し、ニコニコとごちそうをほおばり、『家で過ごしたい』という希望を叶えて、ヘルパーさんや訪問看護に支えられて、数週間であっけなく……。私が初めてのたん吸引をしてあげてる最中に、息を引き取りました。
毒蝮三太夫さんに励ましてもらえるなんて、夢のような奇跡にあい、いろんな人の助けを借りて看取りができました。ケンカばかりだったのに、涙が枯れるほど泣いてすっかり痩せこけてしまいましたが。心は満足です。あのとき励ましてくださって本当にありがとうございました。今でも夫は、ニコニコしながら、そばにいてくれているような気がします」
回答:「いつまでも悲しんでいたら大事な相手を悲しませることになる。そうと気づけば、元気を出そうってなるんじゃないかな」
俺の話が多少なりとも役に立ったとしたら、嬉しいよ。こうしてまた報(しら)せをくれて、いい話を聞かせてくれてありがとう。痩せるほど泣いたけど「心は満足」と言えるのは、ヘンな言い方になっちゃうけど、幸せな別れができたってことだな。
大事な人との別れは、誰にだってやって来る。夫婦だけじゃない。親子だってそうだ。この人の旦那さんの場合はガンだったわけだけど、心の準備ができるという意味では、恵まれた看取り方だと言ってもいい。事故や災害でいきなり別れるのとは、だいぶ違う。
人間は生まれるときはひとりで、死ぬときもひとりだよね。でも、ひとりで死んでいくんだけど、そのときにそばに誰かがいてくれるっていうのは、とっても心強いと思う。このご主人の「あなたを見ていたい」という言葉には、感謝とか愛情とか、たくさんの思いが凝縮されてるよ。
俺もいろんな人から「先が短い家族にどんな言葉をかけてやればいいですか」って聞かれることもある。悩ましいところだけど、本人も「もう自分は長くない」とわかっている状態だったら、「いずれ私もあなたのそばに行きますから。あなたをひとりにはさせませんから」ということを伝えてあげるといいんじゃないかな。
夫婦だったら、さだまさしちゃんの歌にもそんなのがあったけど「あなたのおかげでいい人生だった」と、看取るほうも先に逝くほうも言えるといいよね。親にも言ってやってほしい。いよいよ危なくなってからじゃなくて、日頃から伝えておくのがいちばんいいんだけどな。実際はそう思えない夫婦関係や親子関係もあるだろうけど、多少のことは目をつぶろう。そう言って看取れば、何より自分が気持ちいいじゃない。
ただ、よっぽど深い恨みつらみがあるなら、いまわの際に「あなたのことは絶対に許しません」って言ったら最大限の復讐になるよね。実際に俺の知り合いで、浮気性の旦那に苦しめられた奥さんが、もうあと何日かってときにそう言ってやったらしい。まあ旦那の自業自得ではあるんだけど、怖い話だなと思ったよ。
友だちが大事な人をなくして、見ていられないぐらい落ち込んでるなんてこともある。まわりとしては話を聞いてやるぐらいのことしかできない。「早く元気出せよ」なんて励ますのは、大きなお世話だ。だけど、泣きながらたくさん思い出話をしてくれて、「もう生きてても仕方ない」なんて言い出したら、こんなふうに言ってあげよう。
「亡くなった方は、あなたが悲しんでいる姿を見ても喜ばないと思うよ。毎日を元気に過ごすあなたを見たいんじゃないの。きっと空の上から、心配してると思うよ」
自分がいつまでも悲しんでいたら大事な相手を悲しませることになると気づけば、元気を出そうって気になるんじゃないかな。
でも、旦那が亡くなって元気をなくしてるババアは、めったに見ないな。急に元気になるほうが多いんじゃないか。逆は山ほどいる。奥さんに先立たれたジジイほど、か弱い存在はないよ。どっちが先かは「時の運」みたいなもんだけど、残されたほうは最後までしぶとく人生を楽しもうじゃないか。ハハハ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。86歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。4月からポッドキャストでスタートした大沢悠里さんとの80代コンビによるポッドキャスト配信番組「大沢悠里と毒蝮三太夫のGG放談」も絶好調(毎週土曜日午後3時)。ストリーミングサービス「スポティファイ」で過去の回も含めて無料で楽しめる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。