注目!シルバー人材センターを通じた働き方が進化中「独自事業の提案も可能に」
シルバー人材センターをご存知だろうか。60才以上を対象とした仕事を紹介している団体だ。なかには、105才にして現役で働いている人もいるという。自らが築いた経験や知識を生かしたり、地域のために貢献したりと仕事内容もさまざま。進化し続けているシルバー人材センターを通じていきいきと仕事をする人たちの実例から、今どきのシニアの働き方を学ぼう。
シルバー人材センターの働き方は多彩に
本格的に働くのは難しいけれど、何もしないで家にいるよりは地域のためになり、少しお金も得られたらありがたい。そんな働き方を望むなら、地域で見かける「シルバー人材センター(以下、センター)」を検討してみてはどうだろう。
全国の市区町村の8割に約1300団体(2022年3月現在)が設置され、60才以上の会員に臨時的・短期的・軽易な就業を提供している。
「健康寿命を延伸し、医療費の削減を目指すという現在の潮流に先駆け、1975年の発足(前身は高齢者事業団)から一貫して、働くことで生きがいを持ち、元気な老後を送ろうという目標を掲げています。生涯現役を目指しており、105才で賞状を書く仕事を続ける会員もいるんですよ」
そう語るのは、全国シルバー人材センター事業協会の本橋昇さんだ。
「草むしりや駐輪場の管理みたいな作業がメインでしょ?」と思われがちだが、時代の変化とともに業務内容も多彩になっている。
「たとえば空き家の維持管理業務。コロナ禍で帰省できない家主からも喜ばれ、町の治安維持にも役立っています。
また、故郷にいる親御さんの話し相手になる仕事も。これらのサービスをふるさと納税の返礼品にしているセンターもあります」(本橋さん・以下同)
ほかにも、パソコンが使えない高齢者に代わり、ネットスーパーの買い物やワクチン接種のネット予約を行う仕事もある。センターによっては、スキルアップ支援にパソコン講習を開催しているという。
女性会員「シルボンヌ」活躍の場も広がる
「いまもっともニーズが高いのが、人手不足が社会問題になっている介護・福祉、保育業界。実はこの業界で、シニアの人材、特に女性の力が発揮されているのです」
たとえば、要介護者宅の掃除や食事作り、放課後児童クラブや保育所での子供の世話といった業務は、家事や育児経験を生かしながら、介護士や保育士の膨大な負荷を軽減するのに大いに役立っている。
「社会で女性に求められる仕事が増える一方、センターの女性会員はいまだ全体の約34%にとどまっています。そこで、近年は女性の入会を促すPR活動に力を入れています。かつての“シルバー”というイメージを払拭するため、女性会員に『シルボンヌ(※)』という愛称をつけ、全国で活躍するシルボンヌたちの取り組みを発表するイベントも行っています。
また、センターごとに企画しているサークル活動も盛んで、働くだけでなく “シニアの居場所”としての役割もセンターにはあるんです」
●女性会員の入会動機
資料:シルバー人材センター 2020年度新入 女性会員3万1547人へのアンケート
入会動機の「生きがい・社会参加」は男性でも1位で、約10年間トップなのだとか。現在は、働くことの健康面への影響についてのリサーチが始まったところだという。
会員との交流で生きがいが見つかる事例も
東京から沖縄に移住後、知り合いもできず孤立していたところ、地域の広報紙でセンターの存在を知り、学童クラブの仕事を得たというシニア女性もいる。その後、彼女は子供たちとのふれあいや会員との交流を通して、ふたたび働きがいや生きがいを見つけたそうだ。
このように、センターは「誰かとつながりたい」「生きがいがほしい」という人に手を差し伸べる場でもあるのだ。
「シニアが働くというと、経済的な理由が大きいと思われるでしょう。確かにその側面もありますが、会員の就業は、月10日程度以内または週20時間を超えない程度というルールがあり、平均収入も月3万5000円ほど(業務または地域差あり)と、生活の基盤になる額ではありません。入会する動機は、圧倒的に“生きがいや社会参加”なんです(下グラフ表参照)」
たとえば、腐葉土作りやガイド業務を行う女性(北海道・60代)は、「生活にメリハリがつき、周りの人から『生き生きとして楽しそう』と言われるようになった」とか、保育補助に携わる女性(山口県・70代)は、「世話をした子供たちが、大きくなっても『先生』と声をかけてくれるのがうれしい」など、働くことで得られるメリットも大きい。
兵庫県芦屋市「独自事業」の提案も
さらに興味深いのが、「独自事業」というプロジェクトだ。
「各センターの地域色を生かした事業を独自の裁量で創出し、運営する取り組みです。たとえば兵庫県芦屋市では、会員が3人集まれば新たな独自事業を提案でき、センターの承認を経て事業化できるのです(運営はセンターが担う)」
それで立ち上げた「小町カフェ」では年間延べ1200人、「キッチンカフェなりひら」では年間延べ3000人の就業が実現したという。
「既成の仕事を待つだけでなく、60才を過ぎて新しい分野にチャレンジできるチャンスもある。シルバー人材センターも進化しているんです」
入会できるのは、自分が住んでいる地域のセンターのみで、活動内容もそれぞれ違うが、何かの可能性が見つかる場所かもしれない。
(※)シルボンヌとは、「シルバー」と「ボンヌ」(フランス語でお手伝い、親切、優れたという意味)を合わせた造語。
◆シルバー人材センター 基本データ(2021年3月現在)
全国の加入会員数 69万8000人(うち女性23万6240人)
入会可能年齢:原則60才以上
女性会員の平均年齢:73.4才(最高年齢105才男性)
就業率:74.2%(請負・委任)、66.0%(派遣)
就業の程度:概ね月10日程度以内の臨時的・短期的業務または概ね週20時間を超えない軽易な業務
会費:年2000円程度(地域により異なる)
収入例:1日4時間、週4日スーパーマーケット(労働者派遣形態)で働いた場合 月に6万円前後
URL https://zsjc.or.jp(全国シルバー人材センター事業協会)
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2022年6月2日号
https://josei7.com/
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