65才以上の就業者数が過去最高に 「幸せな働き方」ができる“高齢者限定派遣会社”の活用例
人生100年時代と聞くと、年金だけでは心許ない。できれば体に無理なく働きたい。そして、できることなら働きがいも持ちたいが、年を取ってから仕事を探すのは難しそうに思える。ところが、帝国データバンクの調査では、いま、正社員も非正規社員も人手不足が懸念されており(2022年2月時点)、今後、シニアへのニーズが高まりそうだ。そこで、ひと足お先に「幸せな働き方」を実践している先輩たちに、その働き方を聞きました。
好きなことを極めるために働く
「現役世代の人手が足りていない業務や、時期を埋めることができて、人生経験も豊か。高齢者へのニーズは、今後も高まると思います」
そう語るのは、高齢者限定の派遣会社「高齢社」(東京都)社長の村関不三夫(むらぜきふみお)さん(66才)。高齢社は、東京ガスのOB25人でスタート。ガス機器の使用説明や点検作業は休日に行うことが多く、これまでは正社員が本業の合間に担務していたという。
「そこで、創設者の上田研二が『定年した先輩たちは経験も豊富で気力もあるのに暇を持て余している。彼らに手伝ってもらえばいいじゃないか』と考えたのが、高齢社の出発点です」(村関さん・以下同)
総務省が2021年に発表した高齢者に関する統計によると、65才以上の就業者数は年々増加し、2020年には906万人と、過去最高となった。
なかでも65~69才の女性の就業率(65~69才の女性人口に占める就業者の割合)は、約4割にも上る。さらに、70代を迎えた団塊の世代は「好きなことに積極的にお金を費やし、働けるうちは働きたい」というアクティブシニアが多い。そんな時代にマッチしたシニアの働き方はないものだろうか。
■65才以上の高齢就業者数の推移(2012~2020年)
資料:総務省「労働力調査」(基本集計)
※数値は単位未満を四捨五入しているため、合計の数値と内訳が一致しない場合がある。
■ワークシェアリングで週3日、自分の都合のよい時間に働く
「当社では、1つの業務を複数人で分け合うワークシェアリングを基盤としています。基本は週3日、自分の都合のよい時間に働く。年金と併用し、体に無理なく働いていただくスタイルです。ある雑誌に『元気で幸せな老後を送るためには3つ必要なものがある』と書いてありました。1つ目は健康、2つ目は社会とのつながり、3つ目が、お金をそこそこ稼げること。まさに当社の働き方そのものです。登録者のみなさんからも、この形がライフスタイルに合っているという声が多いんです」
業務内容は、当初は東京ガス関連が主だったが、現在、他分野の仕事が4割に拡大した。事務作業やスーパーの店員、制服の洗濯・アイロンがけ、ビル屋上緑化の維持管理など、仕事の強度や働く時間帯は個人の都合によりさまざま。ユニークなところでは、家電機器の修理サービス車に同乗して駐車違反を防ぐという業務もあり、人気の仕事の1つだとか。しばらく働いていないという主婦の登録も受け入れているそうだ。
「70才までの雇用努力義務や年金の繰り下げ受給といった“高齢者も働こう”という世の流れに押され、当社の登録者も“働かされ感”のある人が多いのでは?と疑問を持って取材に来たメディアのかたが、みんな元気で楽しそうに働いているのでびっくりした、とおっしゃっていました(笑い)」
■優先したい就業条件
高齢社のアンケートによると、仕事を選ぶ際の条件は「就業時間、就労日数、通勤時間や勤務地」が半数以上を占め、「給与額」は9%にとどまっている。
資料:高齢社による60才以上を対象にしたアンケート
「は・げ・あ・た・ま」がモットー
派遣を依頼する企業からはどういう評価なのだろうか。
「よく言われるのは、人生の先輩として、『さりげなくアドバイスをしてもらえるので助かる』ということ。また、社員が気づかないことを進んでやってくれるということです。たとえば、レンタカー会社に派遣している登録者さんは、誰からも言われていないのに、朝から草むしりをしてくれるそうです。こういう気遣いができるのが、高齢者の強みでしょう」
村関さんがモットーに掲げる「はげあたま」とは…?
「はたらいて/げんきになろう/あかるく/たのしく/まえむきに、という意味です(笑い)。私自身、役職のついた現役時代に比べ、いまの方が楽しい。何でも自分でやらなくてはいけませんが、率先して企画し、どんどん実行するようにしています。そうすると、前向きに楽しく過ごせるのです。元気だから働くのではなく、働くから元気になるんですね。高齢社に入ったかたにも、“昔のことはリセットし、若い人とも謙虚につきあえるようにしてください”と、お願いしています」
第二の人生に向けて気分一新、新たな夢も生まれそうだ。
高齢社は首都圏が中心だが、「スタッフサービス」「テンプスタッフ」など全国展開の派遣企業もあるので、ホームページなどでリサーチしてみるのも手だ。では、実際に高齢社で働く女性の声を聞いてみよう。