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退職金を”一括”で受け取るときの注意ポイント4つ みんなの平均支給額を公開【FP解説】

 退職金は老後の貴重な資金だ。一括でもらうか年金でもらうか、どっちが得なのか。読者の反響が大きかったこの問題を深掘りしてみたい。「一括」を選択したいという意見が多かったので、「退職金を一括で受け取るときの注意ポイントや損しない方法を、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説してもらった。

退職金は一括で受け取る派が多数

 介護ポストセブンで取り上げた「退職金の受け取り方法は『一括』と『年金』どっちがお得?」を解説した記事に、多くの反響が寄せられた。

→退職金の受け取り「一括」と「年金」どっちがお得?メリット・デメリットをFPが解説

 コメントには「一括」で受け取るという意見が多く見られた。そこで、一括でもらう場合の注意ポイントや退職金を受け取るときに損しない方法について、深掘りしていきたい。

 前回の記事で退職金2000万円を例に解説したところ、「そんなにもらえない」という声も多く寄せられた。まずは、退職金の平均額について確認してみよう。

 厚生労働省の調査※によると、定年退職者の退職金の平均は、以下のようになっている。

※参考・グラフ出典/厚生労働省 平成30年就労条件総合調査。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/18/dl/gaiyou04.pdf

退職金はみんなどのくらいもらっている?

■学歴・退職事由別 退職者1人平均退職給付額

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)

定年:1983万円

会社都合:2156万円

自己都合:1519万円

早期優遇:2326万円

高校卒(管理・事務・技術職)

定年:1618万円

会社都合:1969万円

自己都合:1079万円

早期優遇:2094万円

高校卒(現業職※)

定年: 1159万円

会社都合:1118万円

自己都合:686万円

早期優遇:1459万円

※生産、販売など現場作業に従事する職種。管理・事務・技術職以外の職業。

退職金は勤続年数が増えるほど多くなる

 退職金の金額は、企業の規模や退職事由、最終学歴などによって異なる。また、勤続年数が長いほど退職金は多くなり、勤続年数が25~30年を超えると上がり方は急になるケースが多い。

■勤続年数別・定年退職者の退職金 平均給付額

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)

勤続20~24年:1267万円

勤続25~29年:1395万円

勤続30~34年:1794万円

勤続35年以上:2173万円

高校卒(管理・事務・技術職)

勤続20~24年:525万円

勤続25~29年:745万円

勤続30~34年:928万円

勤続35年以上:1954万円

高校卒(現業職)

勤続20~24年:421万円

勤続25~29年:610万円

勤続30~34年:814万円

勤続35年以上:1629万円

退職金を一括で受け取るときの注意ポイント

 退職金を一括で受け取る際は、それなりの金額になるため、節税のためにも、以下の注意ポイントを抑えておきたい。

【1】退職所得の受給に関する申告書を提出しているか?

 退職金を受け取る際、勤務先に受給に関する申告書の提出を求められ、勤務先を通して提出することがほとんどだ。申告書を提出していれば、退職所得にかかる税金は源泉徴収のみで終了し、確定申告する必要はない。

【2】申告書を提出していない場合は確定申告が必須

 上記の申告書を提出していない場合、退職金に対して一律20%源泉徴収されてしまい、ほとんどの人が税金を収めすぎになってしまうので注意が必要だ。申告書を提出していない場合は、確定申告をして税金の還付を受ける必要がある。

【3】ふるさと納税で税控除を受ける注意ポイント

 退職金には、給与と別で所得税と住民税がかかるケースがある。所得税がかかっている場合は、ふるさと納税を活用する方法もある。

 ふるさと納税は、所得に応じた上限額まで寄附することができ、実質2000円で返礼品を受け取ることができる。2000円を超えた分は翌年の所得税と住民税から控除される。

 ただし、退職金でふるさと納税を行う場合は、以下の注意点がある。

・所得税のみが控除対象

 退職金にかかる住民税は控除対象にならない。退職金に所得税がかかっていない場合には、ふるさと納税は活用できない。

・ワンストップ特例制度は利用できない

 ふるさと納税をする場合、「ワンストップ特例制度」を利用すれば、確定申告をせずに税控除を受けられる。ただし、退職金は、控除対象が所得税のみとなる。住民税に対してのみの控除が対象のワンストップ特例制度は使えないので、別途、確定申告が必須になる。

【4】翌月に住民税の支払いが生じる

 退職金に所得税がかかっている場合は、源泉徴収されるので所得税を別途支払う必要はないが、住民税の支払いが生じる点に注意したい。

 退職金に対してかかる住民税は特別に翌月の10日ごろに支払うことになっている。住民税の税率は10%(県民税4%市民税6%)となっている。それなりの金額となるため、納付準備をしておいたほうがいいだろう。

退職金の節税には勤続年数5年が分かれ道に

 退職金をできるだけ多く受け取るためには、同じ会社で働き続けることがポイントとなる。勤続20~25年のときに辞めてしまう場合と35年で辞めた場合とで退職金の金額が大きく差が出る場合が多い。

 そもそも退職金は老後の生活に備える資金となるため、大幅な税優遇がある。

 税優遇の内容は、勤続年数が長いほど退職所得控除額が大きくなり、課税されずに済む場合もある。仮に所得が生じたとしても、その金額を1/2として税率が計算される。

 ただし、勤続年数が5年以下の場合は、300万円を超える部分は、1/2の制度が利用できない。また、勤続年数5年以下で役員など役職者の場合も、1/2制度は利用できない。

 退職金の節税のためには、勤続年数が5年以上ある状態で退職するのがベストだ。退職所得計算時の勤続年数は、5年を1か月でも超えれば1年とカウントされるので、5年1か月でも勤続年数は6年として計算される。

 退職金は老後の暮らしのためにも、なるべく賢く節税しておきたい。

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

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