猫が母になつきません 第297話「へんしんする」
「迷惑メールのフォルダは開いちゃだめ」。いつもそう言っているのに母はすべてのメールを見たくてしかたないので、必ず開きます。いわゆる「出会い系」の迷惑メールに返信してしまった母…もとをたどっていくと、最初のメールは「あなたは男性ですか?」という相手の性別を確認するものでした。母は相手がだれかわからないまま「ちがいます」と返信し、その後何度かのやりとりしていました。母は退屈なのです…娘の顔は見飽きたし、電話もメールもたまにしか来ない。だから相手がだれでもメールをくれればうれしくていそいそと返事をしてしまう。私が「誰かわからない人の質問に答えるのおかしいよね?」と問い詰めると「そうよね…おかしいわよね…」とぼんやりした返事の母。きっとまた同じことを繰り返すでしょう。次は年齢を問われていましたが、もし母の年齢を知っても母が返信をし続けるかぎりこのやりとりは続くはずです。個人情報の流出、不正アクセス、詐欺、架空請求…気軽にメールに返信した先にそんなおそろしげなものが待っているかもしれないなんて母は想像もしていないのです。私にも人気男性アイドルの名前をかたったメールがきたことがありますが、きっと母だったらアイドルの名前がわからず「どちらさま?」って、とりあえず相手の出鼻はくじけるかもしれません。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。