なにわ男子・大橋とシソンヌ・長谷川が注文に悩みまくる『黄金の定食』 最後はちゃんと食べる姿に観る側も幸せになる
全国規模で「まん延防止等重点措置」が拡大して、思うぞんぶん外食が楽しめない日々がまた続きそう。そんな時はせめて食の番組を観る。バラエティを愛するテレビっ子ライター・井上マサキさんがおすすめするのは『黄金の定食』(テレビ東京 毎週日曜深夜1時35分〜)。メニュー選びに悩んで悩んで悩み抜く幸せがそこにあります。
定食との出会いは一期一会
深夜番組に美味しそうな食べものが出てきて、出演者が美味しそうに食べている。見ているとものすごく食べたくなるけど、深夜だからどうすることもできない……。
そんな深夜のジレンマは、いつしか「飯テロ」と呼ばれ、特にテレビ東京では定番コンテンツとなっている。『孤独のグルメ』を見ながら己の空腹を恨んだ方も多いことだろう。
そんなテレビ東京の「飯テロ」に新たな1ページを刻むのが、今回紹介する『黄金の定食』である。
出演者はシソンヌの長谷川忍と、なにわ男子の大橋和也(先輩と後輩という設定)、企画・プロデュースは佐久間宣行。番組の流れはとてもシンプルで、2人が町の定食屋でテーブルにつき、定食と小鉢をひとつずつ注文して食べる。ただそれだけ。
だが、定食との出会いは一期一会。せっかくなら今この瞬間に一番食べたくて、お店がベストなパフォーマンスを出せる、最高の定食を頼みたい。それなのに、生姜焼きも、アジフライも、カツカレーも、全部全部美味しそう。いったいどうしたら……!
そう、『黄金の定食』は2人がメニュー選びに悩んで悩んで悩み抜く姿を、ひたすら見守る番組なのだ。
自分で悩んで自分で決められる幸せ
『黄金の定食』で苦悶する2人を見ていると、食べたいものを悩むことは、なんて幸せで贅沢なことなのだろうと思う。
例えば第1話で訪れた千駄木の「動坂食堂」。定番メニューに丼もの、天ぷら、カレーに至るまで膨大なメニューが壁に貼られ、絞り込むだけでも一苦労。第2話の新橋「伊萬里」は、エビフライや牡蠣フライ、唐揚げを軸に、パズルのように定食が組み合わされている。一回で全ては満喫できないが、どれを選べば満足度が100%に近づくのか……!
第3話で訪れた中野「野方食堂」は、赤ウィンナやナポリタンなど懐かしのメニューが目を引くが、魚系のメニューも充実。「寒ブリ照り焼きだって!」「たらのムニエル……!?」「小鉢にとりからありますよ!」と、2人は店内を見回しながら自ら迷宮に迷い込んでいく。
さらに番組側は2人を揺さぶり続ける。まずはディレクターからのオススメ情報。ディレクターが事前に店に通い詰め、全メニューを食べ尽くしたうえでマイベストを教えてくれるのである。よせばいいのに調理中の映像付き。その様子があまりに美味しそうすぎて泣いちゃう大橋くんと、オススメされたものにすぐ流される長谷川先輩。2人のかけあいも楽しい。
これで腹は決まったか……というところに登場するのが、お店の常連の皆さん。長年にわたり定食を食べ続けてきた常連さんが薦めるメニューは、「この時期なら絶対コレ」「上京して初めて食べた忘れられない味」とエピソード込みのもの。ノーマークだった小鉢(まぐろの山かけとか!)の情報が出てきたりして、「うわ~~!」と天を仰ぐ2人。
もちろん、テレビを見ているこちらも「うわ~~!」と同じ声を出しちゃうのは言うまでもない。豚生姜焼きなら間違いない、とは言え今なら牡蠣フライなんじゃないか、鶏からも魅力だけどそれは小鉢で良しとしようか、いやでも常連さんはオムライスだって言うし……。
たくさんの選択肢があることと、己の欲望をむき出しにしてもいいこと。それが許される場って意外と少ない。自分で悩んで自分で答えを決めていい、それってやっぱり幸せなことなのだ。
そしてその幸せを補強するのは、「最後にちゃんと食べられる」ことにある。
美味しそうに食べる2人に「良かったねぇ」と思う
この手のメニューを悩ませる番組は、「1位を当てないと食べられない」「食べられるのは勝者のみ」というルールが設定されがちだ。どうしても食べたい、負けられない、という感情が「真剣にメニューを選ぶ」という理由になり、番組を成立させる要素となる。
でも『黄金の定食』は、最後に2人がそれぞれ食べたいメニューを頼み、やってきた定食にかぶりつく。(テレビ的な理由でメニューがかぶると譲ることもあるが)2人とも最後にちゃんと食べられるのだ。ルールなんかなくても食べたいものを真剣に選んじゃうから、もうそれだけで成立してしまう。
注文した定食がテーブルに運ばれてくる。2人が実際の定食とご対面するのは、このときが初めて。「きた~!」という喜びと、口に運んだあとの「うめぇ~!」という笑み!
大橋くんは終始ニコニコしながらおかずを口にいれ、ご飯をかきこみ、うっとりした顔でモグモグと噛みしめる。長谷川先輩は「ん~!」と天を仰ぎ、うつむいて眉間を押さえ、じっくりと味にひたる。もう見ていて嬉しくなってしまう。
美味しそうなものを、美味しそうに食べてくれる。そこには「羨ましい」とか「俺も食べたい」といった妬みはなく、ただただ「良かったねぇ」という思いがある。実家に帰省した子にご飯をふるまうのは、もしかしてこういう気持ちなんじゃないか。
『黄金の定食』の放送時間は日曜深夜。TVerやParaviで見逃し配信もされている。2人の「ごちそうさまでした!」のあと、スタッフ含め全員が拍手で番組を終えるのも、この番組の幸福さをよく表していると思う。
構成・文/井上マサキ(いのうえ・まさき)
1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。