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千鳥・大悟がヤギを連れて歩く謎の散歩番組『ヤギと大悟』 行き当たりばったりだけどすごいのは大悟の「愛」

 おさまってきたかと安心してたのに、コロナがまた不穏な動きを見せてきた年末年始。この連休もやっぱり、ステイホームでのんびり過ごすのがよさそうです。膨大なお正月番組から、観逃したくない秀作を、バラエティを愛するテレビっ子ライター・井上マサキさんに教えてもらいました。配信サービスでまだ観られます!

タイトル通り『ヤギと大悟』の番組

 テレビっ子にとって年末年始は「宝の山」だ。

 もちろん『紅白歌合戦』『SASUKE』といったビックコンテンツも、『爆笑ヒットパレード』『ウルトラマンDASH』のような正月特番も楽しみなのだけど、ここで言う「宝の山」は昼間や深夜にひっそりと放送される実験的なバラエティ特番のこと。

 このタイミングでしか試せない、攻めた企画や緩い企画がたくさん見られるし、『モヤモヤさまぁ~ず』や『99人の壁』のようにレギュラー番組として昇格するケースも少なくないのです。

 そんな「宝の山」の中から、今回ひとつ選ぶとしたらもうこれしかない。20211228日、年末の昼下がりに放送された『ヤギと大悟』(テレビ東京系)である。出演者はタイトル通り、ヤギ(動物)と大悟(千鳥)。雑草に困っている人を助けるため、大悟がヤギを連れて雑草を食べさせる、行き当たりばったりの散歩番組だ。

 舞台は埼玉県唯一の村、東秩父村。赤いバンダナを首に巻いたヤギと、鮮やかなブルーのガウンを身にまとった大悟が、畑が広がる冬の田舎道をてくてくと歩く。その様子をドローンで空撮したオープニング映像だけで、もうなにか物語が始まりそうな予感がする。BGMはウルフルズの「笑えれば」だった。

「素敵な名前の付け方するか」

 ヤギと大悟が顔を合わせたのは、ロケ当日の朝。スタート地点の公園でヤギは無心で雑草を食べている。ちょっと離れたところで、すべり台の先端にちょこんと腰掛けている大悟。

 番組の趣旨を聞いて「昔話か」「ビックリしてたわマネージャーも」と笑い、雑草に夢中なヤギに「今日一日ロケをすることになりました、大悟と言います。よろしくお願いします」とご挨拶。

 ヤギは1歳半のオス。出発前、大悟は「素敵な名前の付け方するか」とつぶやき、「お前と出会って最初に見つけたお花の名前を付けましょう」とヤギに語りかける。ヨシヨシ、行こう行こう、とヤギを引っ張ること10m、最初に見つけた花はタンポポだった。

「素敵な名前ついたな!」「嬉しい?嬉しそうやん」と、大悟はヤギに対して終始優しい。

 目を細めてジッとしていれば「眠いか?」と気づかい、ヤギの視界はほぼ360度あることを知れば「(肉食動物から)逃げるため?苦労したんやな、お前の先祖」とねぎらう。

 道の真ん中でフンをすれば「堂々としたもんや」「そんな芸人になりたいワシも」と羨み、みかんの味を覚えたタンポポに「島から出てマクド覚えたてのワシみたい」と自分を重ね合わせる。タンポポという呼び名は途中から「ポポ」になり、「ポポ行くよ!」と連れ出す姿はこの日が初対面とは思えない。

 ポポも次第に大悟に馴染んでいく。道中、クジャクを飼っている家にお邪魔したときのこと。大悟がクジャクにエサをあげていると、遠くで柵つながれていたポポが突然「めぇ!」と叫んだ。

 この日一番の大きな鳴き声に、大悟はすぐにポポの様子を見に戻る。「ワシがクジャクと遊んでたから嫉妬したか」「ちょっと怒った?可愛いとこあるやん……」「あんな顔で見られたらワシお前のとこ行っちゃうのよね」と、ポポの背中をなでるのだ。

 犬や猫ほど、ヤギは人間の行動に反応しない。話しかけてもどこか遠くを見ているし、基本的に草にしか興味がない。そんなポポに振り回されながらも、優しい言葉をかけて可愛がる大悟に、「愛」そのものを感じる。

撮れ高」なんて気にしない

 大悟が「愛」を向けるのは、ポポだけではない。旅の途中で出会う人たちにも、すっと懐に入り、いつの間にか友達のようになってしまう。

 大悟のファンだとうお母さんが「いつ死んでも悔いないわ」と漏らせば、すぐに「そんなこと言うなよ。もうちょっと生きよ」と返すし、もらったみかんが酸っぱくても「ワシこんなん好きやねん。これがみかんや」と顔を歪めながらも否定しない。

 たった1人の散歩ロケ、さらにwithヤギという予測不能な状況でも、焦る様子は全くない。なんなら訪れた民家の裏手でタバコを吸わせてもらうほどの余裕っぷりである。

 そんな堂々とした姿を見ると、ロケで「撮れ高(取材、撮影した映像のなかで、実際に番組として使用できそうな分量)を気にする」という素振りは、現地の人へのリスペクトに欠ける行為のように思えてくる。その場その場のコミュニケーションを楽しみ、出会う人の心に橋を架けていけば、もうそれだけでいいのかもしれない。

 後半は三宅健が合流して、ポポの同行者は2人に。訪れる場所も中学校や道の駅と、賑やかさを増していく。それはそれで楽しいのだけど、人間が2人になっただけで途端に「旅番組」になってしまうのが不思議だった。それが普通のことなのだろうけど、じゃぁさっきまで我々が見ていたものは何だったのか…… 

 年末の放送だった『ヤギと大悟』だが、まだTVerなどの見逃し配信サービスで視聴できる。攻めた企画でもあり、緩い企画でもあり、日曜の昼間のような、平日の深夜2時のような、独特の空気感をぜひ確かめてほしい。また1人と1匹が、日本のどこかをてくてく歩く姿を見たい。

構成・文/井上マサキ(いのうえ・まさき)

井上マサキ

1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。

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