ドラマだけじゃない、Netflix韓国ドキュメンタリー3選 豪快グルメ、お宝争奪戦、恋愛模様!
ドラマもいいけどドキュメンタリーも熱い!『愛の不時着』『梨泰院クラス』『イカゲーム』など、韓国エンターテインメント作品の勢いが止まらないが、旅バラエティやリアリティショーなどドキュメンタリー系作品にも魅力がいっぱい。韓国留学も経験したライター・むらたえりかが、必見3作をNetflix配信からおすすめします。
韓国の人びとのより自然な姿に触れる楽しみ
韓国ドラマが世界を席巻している。最近では、社会で困窮した人びとが賞金456億ウォンのために命を賭けてゲームに参加する『イカゲーム』が、アメリカのゴッサム・インディペンデント映画賞(40分以上の長編部門)で韓国ドラマ初の最高賞を受賞。ゲームに参加するおじいさんを演じた俳優オ・ヨンスは、韓国の俳優で初めてゴールデングローブ賞の助演男優賞を獲得した。
しかし、韓国のアツいコンテンツはドラマや音楽だけではない。ドキュメンタリーやリアリティ番組は、韓国の人びとのより自然な姿に触れられる。彼らが話す韓国語会話もまた自然体で、語学を勉強したいひとにもおすすめだ。今回は、Netflixオリジナルシリーズから『腹ペコとモジャモジャ』『ニュー・ワールド 〜ここは新世界〜』『脱出おひとり島』と趣向の違う3作品を紹介したい。
『腹ペコとモジャモジャ』:済州島のおいしい海鮮料理にステーキに「う~ん!」
韓国といえば欠かせないのがグルメ。『腹ペコとモジャモジャ』(原題『食いしん坊と毛深いひと』)は、日本でもピ(RAIN)として音楽活動をしていたチョン・ジフン(=腹ペコ)と、「江南(カンナム)スタイル」のダンサーとして一躍有名になったノ・ホンチョル(=モジャモジャ)。男性ふたりの旅番組だ。済州島からはじまり、韓国各地で気ままにおいしいご飯を食べてまわる。
彼らの移動手段はバイク。日本でも『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)や『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)などのバイク旅番組は人気だ。しかし、それらの原付や電動バイクを想像していたら、本番組のバイクの豪華さに驚いた。なんとBMWで新車の大型バイクを購入するところからふたりの韓国旅ははじまる。番組のなかでノ・ホンチョルが何度も「Netflix!」と叫ぶのだが(しかも突然に)、ピッカピカなBMWの新車を見たときにはこちらも「Netflixマネー!」と声が出てしまった。しかも、その高額なバイクを購入するシーンはあまりにも一瞬で終わってしまう。高級車を鼻にかけないサラッと加減が、悔しいほどにオシャレだ。
ピ(RAIN)ことチョン・ジフンが日本で活動していたときは、洗練されたイケメンのイメージを持っていた。もちろんいまでもかっこいいのだが、本作での彼はあまりにも自然体だ。済州島のおいしい海鮮料理にもステーキにも、「う~ん!」と唸ったり拍手をして感嘆を表現するだけで、番組映えや上手な食レポコメントを気にかける様子がない。
日本のバラエティ番組では食レポが上手くできないタレントが笑われている姿をよく見る。しかし言葉を重ねなくとも、その料理のおいしさはカメラの接写やスローモーション撮影、ASMR(※)かと思うほどの音、光や、彼らが無心で食べ物にかぶりつく姿などで十分に伝わってくる。これが、ドキュメンタリーの「おいしさの伝え方」なのだ。
チョン・ジフンやノ・ホンチョルがカメラに「イ・サンスン! 音楽チュセヨ(=ください)!」と言うと、音楽監督のイ・サンスンがオシャレな音楽を流してくれる。ふたり旅でありながら、制作サイドとの仲の良さもうかがえる。また、かわいいフォントを使った大きなテロップは、全世界の韓国語学習者にとってありがたい字幕でもある。友人同士の会話、テンションが上がったときの咆哮。そんなときにどんな言葉を選んで叫んだらいいのか、この番組が楽しく教えてくれている。
※ASMR=「Autonomous Sensory Meridian Response」の略語で、聴覚などが刺激され心地良くなったりゾワゾワとしたりする反応や感覚のこと。また、その感覚を起こすコンテンツのこと。
『腹ペコとモジャモジャ』
原作・制作:キム・テホ、チャン・ウソン、イ・ジュウォン
出演:チョン・ジフン、ノ・ホンチョル
『ニュー・ワールド ~ここは新世界~』:知らないからこそ楽しめる出演者の魅力
次に紹介するのは『ニュー・ワールド ~ここは新世界~』(原題『新世界から』)だ。人気アイドルグループ・EXOのカイ、Netflixでも配信されているバラエティ番組『知ってるお兄さん』で活躍するSUPER JUNIORのキム・ヒチョルが参加。そのほか、韓国では大人気の有名人たちが出演している。
カイたち6人の出演者は「新世界」と呼ばれる無人島に集められる。新世界ではひとりひとりに希望通りの家が用意されており、そしてこの島でのみ使える電子仮想通貨「両(ニャン)」で1億両のお金が与えられた。100両=1ウォンとして島を出るときに参加者に与えられる。電子通貨を増やしていくことを目標に、宝探しや綱引き、不動産バトルなどバラエティに富んだゲームに挑んでいく。
韓国通でもないかぎり、知らない出演者のほうが多いかもしれない。小ネタや人間関係での笑いどころなどが拾いづらいかもしれない。というのも、配信当初はわたしもそう感じて途中脱落してしまったのだ。
しかし、『腹ペコとモジャモジャ』などの韓国ドキュメンタリー番組、リアリティ番組を経て改めて見ると、不思議と面白かった。出演者たちの仲の良さ、人間関係、韓国の芸能事情などを知っていたほうが理解できる。でも、ドキュメンタリー、リアリティ番組の良さはそれだけではない。多くの恋愛リアリティ番組などがそうであるように、まったく知らないひとであっても、回を追うごとに第一印象と違ったチャーミングな人物像を発見できる。最初は単なる宝探しゲームからはじまり、徐々に対決や騙し合いに発展するなど、ゲームの構成も人物像をあぶりだす過程を意識しているようだ。
ゲームが進んでいる6日間のうちは、賞金が仮想通貨で、しかも1億(両)という規格外な金額。だから、互いに通貨を奪い合っていても生々しくなりすぎない。新世界のファンタジックな世界観とあいまって、あくまでもフィクション、ファンタジーのなか。そんな設定も、タレントたちが嫌らしく見えないようによく考えてつくりこまれている。
『ニュー・ワールド 〜ここは新世界〜』
原作・制作:チョ・ヒョジン、コ・ミンソク
出演:イ・スンギ、ウン・ジウォン、キム・ヒチョル(SUPER JUNIOR)、チョ・ボア、パク・ナレ、カイ(EXO)
『脱出おひとり島』:キラッキラに演出される自信家男女9人の恋愛
最後に紹介する『脱出おひとり島』(原題『ソロ地獄』)は、無人島「地獄島」を舞台にした恋愛リアリティ番組だ。恋愛に自信があり負けん気の強い男女9人が地獄島に集められ、8泊9日をともに過ごす。1日のうち、ゲームの勝者が気になる異性ひとりを連れて「天国島」で1泊できるルールになっている。天国島ではホテルのスイートルームが用意され、好きなものを食べ、そして相手の年齢と職業を聞くことができる。
地獄島に集まった男性5人、女性4人は、10代後半から30代半ばまでの若者たち。これまで恋愛の相手にほとんど不自由したことがないという。臆面もなく「互いにセクシーでいられる関係が理想」「わたしの性格はかわいくてセクシー」と言い放つ。その自信が嫌味に感じられないほど、彼らは肉体的にも精神的にも真面目な努力家だ。
そんな自信家たちが、異性に選ばれなかったりアクティビティで活躍できなかったりしてへこんでいる姿がなんともかわいらしい。また、お互いの血液型を当て合ったりする場面は韓国(や日本)ならではの様子で親近感が湧く。天国島で過ごす時間はとても贅沢だが、地獄島の美術セットも写真映えしそうな場所ばかり。Netflixの潤沢な制作費の使いどころを心得ていて気持ちがいい。
メンバーたちの動向に一喜一憂し、それぞれと真剣に向き合おうとする彼らから出る言葉の数々は真似してみたいものも多い。ひげ面が印象的な男性・ジンテクが、年齢を気にする30代女性のソヨンに言った「(僕は)年上にもなれて、年下にもなれて、友だちにもなれる」というセリフにはキュンとした。他にも「(宗教ではなく)自分を信じている」「心に従った」、真似したいフレーズを見つけたくなる。
スタジオメンバーが、料理が苦手な女性や運動でビリになってしまった男性を馬鹿にしたり笑ったりせず、むしろ心配して見守るようなところも良い。過剰に心をかき乱されることなく、マイペースに恋愛を応援できる。派手な演出にワクワクしつつも、優しい気持ちで見終えられる恋愛リアリティ番組だ。
『脱出おひとり島』
原作・制作:キム・ジェウォン、キム・ナヒョン
出演(スタジオ):ホン・ジンギョン、イ・ダヒ、キュヒョン、ハネ
可能性に満ちた韓国ドキュメンタリーが世界へ
『腹ペコとモジャモジャ』『ニュー・ワールド』『脱出おひとり島』と、韓国ドキュメンタリー番組、リアリティ番組に共通しているのは、出演者たちができる限り自然体でいられ、その姿がチャーミングに見えることへの配慮だ。スタジオメンバーのコメントの仕方はもちろん、豪華でオシャレなセットや演出、ドカンと思い切りの良い制作費の使い方なども実はそれに一役買っている。「これは番組なんです!」と演出や美術で念押しされることで、出演者も視聴者も番組の世界に引き込まれ守られているのだ。
韓国ドラマが急速に世界へ広がっていったように、韓国ドキュメンタリー番組、リアリティ番組も、チャーミングな魅力に溢れた安心して見ていられるコンテンツとして、世界で愛されていく未来はすぐ近くだと感じる。
文/むらたえりか
ライター・編集者。ドラマ・映画レビュー、インタビュー記事、エッセイなどを執筆。宮城県出身、1年間の韓国在住経験あり。