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連載

85才、一人暮らし。ああ、快適なり【第26回 さらば友よ】

 齢、85。数年前からは、自ら望み、妻、子供との同居をやめ、一人で暮らしているという、伝説の編集者にして、ジャーナリストの矢崎泰久さん。

 1965年に創刊し、才能溢れる文化人、著名人などを次々と起用して旋風を巻き起こした雑誌『話の特集』の編集長を30年にわたり務めた経歴の持ち主で、テレビやラジオでもプロデューサーとして手腕を発揮、今なお、世に問題を提起し続けている。

 矢崎氏が、歳を重ねた今、あえて一人暮らしを始めた理由やそのライフスタイル、人生観などを寄稿しシリーズで連載している。

 猛暑だったこの夏、古くからの友人との永のお別れがあったと語る矢崎氏。旅立ってしまった友との日々を振り返り、思いを綴ってもらった。

 * * *

「安保反対」を訴えていた浅利慶太さんとの出会い

 酷暑の夏が災いしたのか、80才を越えた友人が7人も亡くなった。やはりショックは大きかった。

 弱冠20歳で劇団四季を旗揚げした浅利慶太とは、60年以上の交流もあり、年齢も全く同じなので、深い悲しみを味わった。

 60年安保に反対して、「若い日本の会」が結成されたのは1958年のことだった。小田実、福田恒存、石原慎太郎、谷川俊太郎、寺山修司、永六輔、大江健三郎、黛敏郎、武満徹たちと共に浅利慶太も名を連ねていた。全員が20代、それでいながら、すでにいろいろな分野で頭角を表しつつあった。

 私は新聞記者として、「若い日本の会」結成の取材に当たった。それが出会いでもあった。

 浅利さんが亡くなって、その時のメンバーでは石原、谷川、大江の三氏を残して、すでにこの世にいない。歳月は過酷なものだ。

 メンバー全員がデモに参加し、ビラを配り、街角に立って「安保反対」訴えていた日々を今も鮮明に覚えている。いわゆる昭和ヒトケタ生まれの私たちは、二度と戦争につながる道は選ばないという強い覚悟を持っていた。

 ヒロシマ、ナガサキの悲劇、沖縄の地上戦を平和への誓いとして胸に抱いてきた。「若い日本の会」の命題(テーマ)でもあった。

 1965年に創刊した『話の特集』は、1970年に独立して株式会社になった。株主のほとんどが私の友人たちだった。その中に黛敏郎、浅利慶太、石原慎太郎の3人もいた。

 ところが、この三氏はその後、次第に右傾化する。黛さんと石原さんは自民党員になったばかりか、政治的な立場を鮮明にする。

 リベラルを身上とする私としては、穏やかではない。そこで、株主から下りてくれるように要請することにした。すると、二人は激怒して

「株主を社長が拒否することは言語道断だ。増資にも応じるし、株主の権利は今後も守る」

 と、株券の買い取りに応じる気配はなかった。

中曽根氏と並んで観劇するハメに

 浅利さんの場合は、旗幟鮮明(きしせんめい)ではない。劇団四季を大きくするために、政商という誹りを受けながらも、上演する作品はリベラルの傾向が強かった。大衆から絶大な支持も獲得していたのである。

 ある日、『こどもの城』の中にオープンした『青山劇場』のコケラ落としで、劇団四季のミュージカルに招待され席に着くと、隣に当時の総理大臣中曽根康弘がいてビックリ。何と並んで観るハメになった。浅利さんは悪戯(いたずら)好きでもあった。

 アメリカのレーガン大統領が来日した際、中曽根首相は奥多摩の山荘に彼を招いた。その演出を浅利さんが担当したことが話題になった。非難する声の方が大きかった。『青山劇場』は後に中曽根シアターと呼ばれたりもした。当時はまだクリエイターが政治イベントを手がけることが珍しい出来事でもあったのである。

 浅利さんとは、麻雀やポーカーを楽しむことも若い頃は多かった。和田誠さんの住まいに若い俳優たちを連れて遊びに来て、ゲームをやったりした。

 ジロドゥやアヌイなどフランス演劇を地味にやっていた劇団四季が、ミュージカルを中心にした大衆路線に方向転換したのは、大阪万博(1970年開催)後だった。
 
 黛さんとは、生涯を通じて彼が出演していた『題名のない音楽会』のブレーンを私はやっていたので、週に一度は必ず会っていた。遊びではなく、仕事としての付き合いが主だったが、一緒に海外ロケをしたり、美食家の黛さんに誘われて、のべつ旨いものをご馳走になった。

反戦・平和の演出活動を続けていたと信じている 

 黛さんの右傾化が始まったのも、大阪万博がきっかけだったように思う。
 
 若い時代の友情は、そう簡単には壊れない。それでも、それぞれの辿る道で、疎遠になったりもする。石原さんとは少しずつ距離が広がったが、黛さんと浅利さんとは、何時も確かな接点があった。
 
 会えば芸術の話が中心だったし、会話を大いに楽しんだ記憶は今も残っている。外側から見ると分かりにくい交流だったかもしれない。私を非難する友人たちも少なくなかった。

「禿げ、カツラ、右翼のどこがいいんだ」とか、「演出家ではなく奴は幇間(ほうかん)だ」と黛や浅利と付き合う私に忠告する親しい友人もいた。

 浅利さんは勲章が嫌いだった。一切の叙勲を断ってきたのは、彼の矜持(きょうじ)でもあったのだろう。

 四季を去った後も浅利演出事務所を立ち上げ、反戦・平和の演出活動を続けていた。私はそう信じて疑わない。さらば友よ!

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矢崎泰久(やざきやすひさ)

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1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』など。

撮影:小山茜(こやまあかね)

写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。

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この記事へのみんなのコメント

  • イチロウ

    君子の交わりは淡きこと水の如し、と言いますか、殆ど、他人とは付き合いらしきことも無いのが私の癖でして、ただ、幼児の頃よりの悪友がたった一人ですが、居ることは居るのです。 親友や、学友の居られる方々は、ご自分の見識も広まり、ご見識も深められるのでしょうし、ご活躍の質も量も高められることでしょう。 比べて、私等のような市井の片隅で暮らす老い先短い者は、ただ過ぎ去った懐かしの時間を惜しむのみです。 ただ、共に暮らす猫は別でして、とても身近に居て、それで居て淡い付き合いが可能な存在ですので、大好きです。 長年の間、共に暮らしていますと、猫である存在が猫で無くなり、家族になってしまい、言葉が違えども、意思の疎通に何の障害も無くなり、他「人」との付き合いが煩わしく思えるようになります。 どうも猫の方でも、人間の私の心が読めるようになり、言葉が要らなくなるようです。 動作や動きで人間の心を読めるようになる猫が居まして、猫の方も自分の意思を伝えるように努めるので、啼き声の調子の変化で己の意思を伝えることが出来るようになるようです。 一昨年に空に昇った我が家の長男猫がそうでした。 鳴き声の変化で自分の意思を飼い主に伝えるのがとても上手な仔でした。 嫌いな御飯(腎臓病用の療法食)を拒否する時には、横を向いて「ニャ!!」と強く啼いていました。 それがとても可愛かったです。 色々と美味しく食べられる療法食を探したものでした。

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