手話を交えた児童コーラス、アンドロイド登場…多様性と芸術性が共存するオペラの見どころ、聴きどころ
新国立劇場オペラパレスは、日本で唯一の本格的なオペラ専用劇場。上演される演目は『カルメン』や『椿姫』といった誰もが知る名作オペラが並ぶ一方で、新たに制作されたオリジナル作品も積極的に発表されている。そのひとつ『スーパーエンジェル』の公演映像が、現在、新国立劇場ウェブサイトで無料配信中だ。オペラ未体験でも楽しめる見どころお伝えする。
アンドロイドが主役のひとりとして登場する新しいオペラ
「子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ」という副題がついている新制作オペラ『スーパーエンジェル』。今年の8月21日~22日の2日間、新国立劇場オペラパレスで世界初演の幕を開けた舞台には、主役の“ひとり”としてアンドロイドが出演。アンドロイドとは人工知能=AIをもった人型ロボットのこと。人間とアンドロイドが手を携えて新しい時代の扉を開ける、そんな作品なのだ。
オペラ、と聞くと、難解なのでは、とか、敷居が高そう、と思いがち。そんなオペラ未体験の人たちに向けて、新国立劇場オペラ芸術監督の大野和士さんから、こんなメッセージが届いている。
「この公演の目的のひとつに、まだオペラを観たことがない方を劇場にいざなおうということがあります。ですからあまり筋をおうことができない小さなお子さんでも、ロボットが出てくる、スピード感のある驚くような映像が出てくる、というような視覚的なバリエーションで大いに楽しめる内容です」(新国立劇場 情報誌 ジ・アトレ8月号より)。
そうしたワクワクするような“見どころ”に加えて、アンドロイドがコンピューターで生成された声で歌うという、これまでのオペラにはない“聴きどころ”もある。
物語の主人公はアキラとエリカという男性と女性。そして「ゴーレム3」という名前のアンドロイドが、その二人と並ぶ主役的存在として登場し物語が展開していく。ちなみに「ゴーレム3」を演じるのは、2019年に日本で誕生した「オルタ3」という名前の本物のアンドロイド。
物語は、ある学園の卒業式から始まる。15歳の卒業生たちは適性検査によって、その後に進路を決められていく。勉強がよくできて優秀なエリカは科学者への道に。
一方のアキラは「異端」と選別され、“開拓地”に送られていく。そこで「異端」な少年たちを教育していたのが、アンドロイド「ゴーレム3」。そのメンテナンス係になったアキラは「ゴーレム3」と心の交流を図るようになり、「ゴーレム3」は人間の感情や夢見る心を理解するようになっていく。時は流れ、離れ離れになっていたアキラとエリカが20年振りに再会するところで、物語が大きく動き出すのだが……。
多様性と共生のメッセージを観る人の心に届ける
『スーパーエンジェル』の台本は作家の島田雅彦さん、作曲は渋谷慶一郎さん、総合プロデューサーは前出の大野和士芸術監督。舞台が出来上がるまでには「AIと人間の共存」をテーマに、どのようにオペラを組み立てていくか、どのように見せていくかについて、2年以上もの間、3人による侃々諤々の議論があったと言う。なにしろ前例のない新しいかたちのオペラだ。その上演は、世界中のオペラファン、音楽&舞台ファンの注目を集めました。
幕が上がると聴こえてくるのがコーラス。とくに観客の心をつかんだのが、子どもたちの歌声と合唱するその姿だった。壇上の児童合唱団は、世田谷ジュニア合唱団とホワイトハンドコーラスNIPPONによる特別編成。ホワイトハンドコーラスNIPPONは、聴覚や視覚に障がいのある子ども、その友達も、多様な子どもたちが互いの力を合わせて活動するユニークな合唱団で、手の表現で歌う「サイン隊」と、合唱で歌う「声隊」で構成されてる。子どもたちのそれぞれの表現で、作品に込められた多様性と共生へのメッセージを客席に届ける。
そんな児童合唱団に新国立劇場合唱団が加わって歌い上げるフィナーレは圧巻で、その感動は、我が家で観る配信でも伝わってくることだろう。
さらにこのオペラでは、バレエも大きな役割を担っている。アキラとアンドロイド「ゴーレム3」の心の交流や運命を、新国立劇場バレエ団の5人のダンサーが表現しているのだ。オーケストラピットに入るのは東京フィルハーモニー交響楽団で、指揮は芸術監督である大野和士氏。配信では、オーケストラピットの様子も観ることができる。
2021年11月26日(金)15時からスタートしている配信は、2022年1月31日(月)14時まで視聴することが可能。繰り返し何度でも観ることができる。観て、聴いて、とにかく楽しもう!
【データ】
新国立劇場 子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ『スーパーエンジェル』映像配信
配信メディア:新国立劇場ウェブサイト https://www.nntt.jac.go.jp
配信期間:2021年11月26日(金)15時~2022年1月31日(月)14時
視聴料金:無料
新国立劇場オペラサイト:http://www.nntt.jac.go.jp/opera/
写真撮影:鹿摩隆司 提供/新国立劇場 取材・文/堀けいこ