本のバリアフリー最前線「拡大読書器」「読み上げ支援」ほか注目サービス6選
2019年に「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律(読書バリアフリー法)」が成立したのはご存じだろうか。全盲の人達だけでなく、ロービジョン(弱視)の人や、発達障害によって読み書きが困難な人でも楽しく本が読めるようにさまざまな取り組みが行われているという。早速、その内容を見てみよう。
→点字版『ぐりとぐら』ができるまで 読書バリアフリーの普及に向けた制作者たちの思い
1.拡大読書器:豊富な機能で読書をアシスト
ロービジョン(低視力や視野が狭いなど、眼鏡などで矯正はできないが全盲ではない状態)に向けたさまざまな用具がある。
ルーペ(下写真)は2倍・5倍・10倍など拡大率は多様。読書用にはライトつきが適している。
拡大読書器は持ち運びに便利な携帯型や、自宅に設置できる卓上型などがあり、卓上型は約100倍まで拡大可。
白黒反転やコントラスト強調など読書に便利な機能を多数搭載している。視覚障害者は日常生活用具給付等事業への申請が可能だ。
2.手話DVDで人気作品を読む
「手話を第一言語としている人は、手話を使った動画があれば情報を得やすい。そうしたニーズに応える手話DVDもあります」
と、教えてくれたのは読める・読みやすい読書環境を目指す出版社『読書工房』代表の成松一郎さん。
2020年に偕成社から発売された手話DVDは『ノンタンがんばるもん』(キヨノサチコ/作・絵)など3つのお話を収録。映像では『みんなの手話』(NHK)で講師を務めた早瀨憲太郎さんが手話で絵本を読んでいる。「声のみ」「声と手話」、そして「字幕の有無が選べる手話」で読むバージョンを用意。聞こえる人も聞こえない人も、繰り返し楽しめる。
3.録音図書:地域に伝わる昔話も収録
視覚障害などで読書が困難な人のための“録音図書”が「マルチメディアDAISY(デイジー)図書」で、パソコンやタブレット端末、スマホや専用再生機などで利用できる(※)。
音声・テキスト・画像がシンクロし、読書の際には音声スピードや文字の色・サイズ、背景とのコントラストなどが変更可能だ。読み上げているフレーズをカラー表示するハイライト機能も搭載している。
公益財団法人 伊藤忠記念財団は、2012年よりマルチメディアDAISY化した児童書を『わいわい文庫』とし、CDやDVDに収録。学校や図書館などの団体に限って、無償配布している。都道府県図書館等と共同で、日本全国に伝わる昔話などのオリジナル作品も製作しており、千葉県の『雨を降らせた竜』、福井県の『嫁威(おど)しの面』、三重県の『大入道ものがたり』などがある。
※「DAISY(デイジー)」とは、「Digital Accessible Information System」の略。障害のある人が利用しやすいデジタル図書の国際標準規格だ。
4.青い鳥文庫:大きな文字で読みやすさに配慮
1980年に創刊された小中学生向けの『青い鳥文庫』(講談社)は、漢字にふりがながつき、さし絵も入る人気のシリーズだ。
2009年には、ロービジョンの子供たちにも読書の楽しさを味わってほしいという願いから『大きな文字の青い鳥文庫』シリーズが刊行された。文字は通常の約2.5倍の大きさの22ポイントを使用、フォント(書体)は読みやすさに配慮した。
「漢字は画数が多く、明朝体とゴシック体では同じサイズでも視認性に大きな違いが生じます。その点、このシリーズで採用しているゴシック体は、縦横が同じ太さなので、多くの人が読みやすい形です」(前出・成松さん)
成松さんが代表を務める『読書工房』は、このシリーズの発売元でもある。現在118タイトルの本を発行し、『赤毛のアン』『フランダースの犬』などの名作に加え、累計発行部数500万部の「クレヨン王国」シリーズ、同400万部の「黒魔女さんが通る‼」シリーズ、同300万部の「若おかみは小学生!」シリーズなど、人気シリーズも網羅している。
5.LLブック:大人向けテーマの本も充実
「LL」とは、スウェーデン語で「読みやすい」という意味の「レットレースト」の略。「LLブック」は、誰もが読書を楽しめるように工夫された、やさしく読みやすい本のことだ。外国にルーツがあり日本語が得意ではない、知的障害がある、読み書きに困難がある、認知症の人―― などが読者対象だ。
文章の分かち書きや絵記号(ピクトグラム)・写真の多用、仮定や抽象的な表現を避ける、時系列に沿うように構成する、といった工夫が施されている。とはいえ一律のルールはなく、テーマから想定される読者対象に合わせ、表現方法を変えている。
主な読者は中学生以上のため、仕事・趣味・恋愛など大人の興味に合わせた内容となっている。人気の『仕事に行ってきます』シリーズは写真やピクトグラムを多用し、さまざまな業種の一日をなるべく時系列を追って紹介している。
<やさしく読める3つの工夫>
【1】分かち書きにする、直接的な表現にするなど、文章を工夫し、ふりがなも振る。
【2】写真などを使い、内容を直接的に表現する。
【3】内容理解を助ける絵記号(ピクトグラム)を使用する。
6.スマホの活用も! 読書に特化した読み上げ支援サービス
スマホの活用も始まっている。今年3月に始動した「読書支援サービス YourEyes(ユアアイズ)」は、光学文字認識技術とテキスト音声合成技術を組み合わせ、iPhone(もしくはiPod touch)が書面を読み上げる新しい試み。日本初の読書に特化したサービスだ。
「スマホのカメラで本や文書を読み取れば、人が朗読しているような自然な読み上げをしてくれます」(ポニーキャニオン・黒澤格さん、以下同)
もっとも、書面を撮影し変換しただけでは誤変換や読みがなのミスがあったり、イントネーションや「間」の取り方に違和感を覚えることもある。そこでユアアイズでは、“ボランティアツール”を用意している。
「ボランティアのかたが読み上げデータを修正・申請してくださると、審査後にそれが反映され、以降、正しく朗読されるようになる仕組みです。ボランティアのかたにご協力いただき、多くの作品を送り出したいですね」
また、別売りの『YourEyesボックス』(写真下/6600円・送料別。6月上旬~中旬発売予定)を使えば、目の不自由な人でも簡単・正確に撮影でき、スマホに取り込める。
教えてくれた人
成松一郎さん/出版社『読書工房』代表 https://www.d-kobo.jp/
取材・文/藤岡加奈子
※女性セブン2021年6月10日号
https://josei7.com/
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