「病気の夫の暴言、暴力が辛い」と苦しむ女性が打ち明けた熱烈な心情に毒蝮三太夫が吃驚
相手に嫌な部分があっても、簡単には別れられないのが夫婦の難しさでありややこしさである。しかも、相手が重い病と闘っているとなれば、なおさら話は複雑だ。夫からの暴力と暴言に悩まされている女性が、苦しい胸の内を打ち明ける。さらには、マムシさんへの熱烈な「愛のメッセージ」も。少しテレながらの回答やいかに。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み「ガンを患う夫の暴言と暴力がつらい」
新型コロナウイルスの感染者数は、ますます増え続けてる。困ったもんだ。俺も先月末に、2度目のワクチン接種を終えた。だからって感染しなくなったわけじゃない。これまでどおり十分に気を付けて過ごすことにするよ。政府には言いたいこともいっぱいあるけど、これ以上の蔓延を抑えるには、何はともあれひとりひとりの心がけが肝心だ。
今回の相談は、54歳の女性から。うーん、これはずいぶん深刻な内容だな。
「65歳の夫が、わがままでつらいです。 おととしガンが見つかり、治療と再発を繰り返していますが、小学生を抱えて不安な中、思いやって寄り添う私に、暴言ばかりで心が折れます。でも、脳幹にまで転移している夫を追い出すわけにもいかず、こちらが、追い詰められてしまいそうです。暴言と暴力は病気以前からで、ある日意を決して『次、暴力をふるったら、ヤクザを雇って、半殺しにしてもらう! 本気だから! そのあと私も殺されたっていい!』と言うと、ピタっと暴力をやめました。弱い者いじめの卑劣な人間だと思いました。でも再婚でもあり、もう離婚はしたくなくてここまで来てしまい、苦しい状況になってしまいました。どうしたらいいのか、もう考える力がありません」
回答:「暴言は、病気が言わせているんだよ。旦那のいいところを思い出してみて」
相談のメールでは暴言や暴力に怒ってるけど、旦那さんのガンが脳幹にまで転移してるっていうのは、かなりショックだし心配だと思う。しかも、子どもがまだ小学生か。自分でも書いてるとおり、たしかに「苦しい状況」だな。
ただ、俺はメールを読んで感心した。暴力をやめさせるために、言ったセリフがふるってる。「ヤクザを雇って半殺しにしてもらう!」なんて、発想が面白いし表現力が豊かだよ。真剣に言ったんだろうけど、光景を想像するとちょっとコントみたいだ。たぶん、意志が強くてしっかりと自分を持っている人なんだろうね。
たいへんなことが重なって、頭の中がしっちゃかめっちゃかになっているのかもしれないけど、きっと乗り越えられるよ。今やらなきゃいけないのは、病気で弱ってる旦那さんの面倒をしっかり見てあげることだ。ヘンな言い方になっちゃうけど、あと何十年も看病が続くわけじゃない。これまで一緒に過ごしてきたんだから、悔いがないようにしてくれ。
暴力はもちろんだけど、せっせと世話しているのに暴言を投げつけられたら。そりゃ「コノヤロー」と腹が立つ。だけど、以前はともかく、今は旦那さんは病気なんだ。本人もつらいだろう。65歳なんてまだまだ若いのに、さぞ悔しいだろう。「この言葉は旦那が言ってるんじゃない。病気が言わせてるんだ」と思って、広い心で受け流してあげてほしい。
この相談には続きがある。ちょっとテレ臭いけど、その部分も紹介しよう。
「幼稚園の時に中野の公園で、ラジオの収録に来られた毒蝮さんに恋をしてから、今でも大好きです。人生の色んな時代に、何度も毒蝮さんの言葉に勇気をいただきました。まともな大人とは毒蝮さんのような人だと、こんなにまともな大人がいるんだと、苦しい人生の中で人を信じることができて来ました。今まで一度も裏切られたと思ったことはありません。本当にありがとうございました」
おいおい、こんなホメ方されたら、どう返していいかわからなくなっちゃうよ。マムシ殺しだね。マングース級のインパクトだ。50年ぐらい思い続けてくれてるってことか。俺も罪な男だな。ハハハ。嬉しいことを言ってくれてありがとう。
人をホメるというのは、なかなか難しい。たとえお世辞が入っているとしても、ここまで言える気持ちと表現力を持っているあなたは、たいしたもんだよ。きっと人生を面白く前向きに生きてきたんじゃないかな。文句言ったりケンカしたりしながらも、旦那と丁々発止で楽しくやってきたに違いない。
もう離婚はしたくないからだけで別れなかったわけじゃなくて、長く一緒にいたってことは旦那にもいいところがあるはずだ。追い詰められると、そういうことも忘れてしまう。寝顔でも見ながら、楽しかったことや相手のいいところを思い出してみるといいよ。
そしたら持ち前の表現力を駆使したホメ言葉を、今度は旦那に言ってやってくれ。なんせマングース級のインパクトだから、きっとおとなしくなるよ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調! 毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。
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