「施設入居者の暴言、暴力が辛い」女性の悲痛な叫びに毒蝮三太夫は「介護職は神に近い仕事である」【連載 9回】
「介護の仕事をしている人は神に近いんだよ」とマムシさんは言う。やりがいがある仕事であり、世の中に欠かせない大切な存在である。しかし、介護職を取り巻く現実は、極めて厳しい。今回の相談者は、介護職を始めて1年という58歳の女性。暴言や暴力に疲れたという悲痛な叫びに、マムシさんがあたたかく実践的な言葉を贈る。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「入居者様の暴言や暴力で心が折れそうです」
介護の仕事をしている人には、本当に頭が下がる。体力的にハードなだけじゃなくて、精神的にもハードなことばっかりだからね。なかには認知症で話が通じない年寄りもいる。俺にはとてもできないな。すぐ「うるせえなババア!」って言っちゃいそうだ。
しかも、老人ホームは病院と違って、病気がよくなって外に出るということはない。ほかの施設に移ることはあるけど、基本的に出るのは死んだときだけだ。高齢者の医療で有名なフレディ松川先生の本には、「介護職は神に近い仕事である」と書いてあった。ハードである上に、あの世に導く役割を担っている崇高で尊い仕事ってわけだ。
今回の相談は、そんな神のひとりである58歳の女性から。うーん、かなり精神的に疲れてるみたいだな。
「介護の仕事を始めて1年になりますが、入居者様への対応に悩んでいます。暴言は当たり前、暴力を受けたことも一度や二度ではありません。そういう方の介助には、腰が引けてしまいます。仕事はきちんとやりたいと思っているのですが、このままでは仕事へのやりがいもなくなってしまいそうです。どうすればいいでしょうか?」
回答:「日本の介護を取り巻く状況はまだまだ問題だらけ。ともかく今はストレス発散する方法を見つけて気分転換してほしい」
1年前からだから、57歳で新しく介護の仕事を始めたわけか。たいへんだってことはわかった上で、それでもやってみようと思ったわけだ。エライよ、ものすごくエライ!
実際に暴言や暴力を受けたら、そりゃ人間だから平気ではいられない。ただ、年寄りがそんなことをしてしまうのは、いわば一種の病気なんだ。悪意があるわけじゃないし、こっちが憎いわけでもない。暴力からは全力で逃げたほうがいいけど、暴言でダメージを受けないためには、心に頑丈なバリアを張ることも必要かもしれないな。
介護職の人は、どんなに嫌なジジイやババアに対しても、笑顔でやさしく接しないといけない。それはわかっていても、時には忙しさに追われて、言葉遣いや態度が雑になることもあるだろう。そうすると相手も荒っぽい気持ちになる。悪循環だよな。身内の介護をしている場合も、同じことがありそうだ。
この人に必要なのは、息抜きと気分転換だね。仕事が終わったあとで「今日もいい仕事をしたな」とホッとする時間を持ったり、買い物でも料理でも映画でも何でもいいけど、自分が楽しめることでストレスを発散する。「もっとちゃんとやらなきゃ」と生真面目に自分を追い詰めていたら、ますますつらくなるばかりだ。上手に気持ちを切り替えて、いいコンディションを保っていないと、また明日も頑張ろうと思えないからね。
ただ、個人の頑張りでは解決できない部分もたくさんある。とくに日本の介護を取り巻く状況は、問題だらけだ。まず何より、介護職の給料が安過ぎる。看護婦さんに比べてどころか、いろんな職業の平均よりもかなり低いっていうじゃないか。神に近い仕事なんだから、少なくとも今の倍は払ってもいいよ。
介護施設の経営にしても、たくさん予算を使えない構造になってるから、ひとりで多くの入所者の面倒を見なきゃいけない。さっきの話じゃないけど悪循環だ。ヨーロッパなんかだと、ひとりの入所者を2人、3人で見る施設も珍しくない。まだまだ日本の介護は、発展途上だよ。給料が安くて仕事がハードだから、志望する若者もどんどん減ってるんだよな。
介護施設で実習中の学生がしたたのもしいふるまい
悲観ばっかりしてても始まらない。どんな状況だって希望はあるよ。俺は20年ぐらい前から聖徳大学で客員教授として、介護の仕事に就きたい女子学生に講義をしてる。実習で特別養護老人ホームに行った学生が、入所者のおばあさんの食事の介助をしているときに、こういうことがあったらしい。あとから別の先生に聞いたんだけどね。
その子が、スプーンに味噌汁を入れておばあさんの口に持っていったら、「熱いよ!」って言ってスプーンをはねのけられた。そしたらその子の顔に味噌汁がかかって、具のワカメかなんかも顔にくっついちゃった。熱いし、汚いよね。だけどその子は怒らないで、「熱くてごめんなさい。少し冷ましますね」って言ってニッコリ笑ったっていうんだよ。そういうエライ子がいて、介護職に就くための勉強をしてくれている。たのもしいじゃないか。
こうしているあいだも全国で、たくさんの介護職の人たちが身を粉にして働いてくれている。相談者の人も、もう一回あらためて「自分は神に近い尊い仕事をしているんだ」ってことを思い出してほしい。まずは明日の元気のために、自分をいたわってやってくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『土曜ワイドラジオTOKYO ナイツのちゃきちゃき大放送』内で毎月最終土曜日の10時台に放送中。85歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。最新刊『たぬきババアとゴリおやじ 俺とおやじとおふくろの昭和物語』(学研プラス)は幅広い年代に大好評!
YouTubeでスタートした「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、たちまち絶好調!毎月1日、11日、21日に新しい動画を配信中。
取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「【超実用】好感度UPの言い方・伝え方」。この連載では蝮さんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。●「認知症の義父が”犬食い”する姿を見ると辛くなる」悩める女性に毒蝮三太夫がかけた愛あふれる言葉