兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第92回 妹、何役もやってます!】
若年性認知症の兄と同居、2人暮らしをするツガエマナミコさんには、いくつもの顔がある。職業はフリーライター。しかし、仕事はそれだけではない。この春は、例年に増して忙しい毎日…。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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世帯主と介護家族と理事会長とフリーライター
進学も就職も異動もないフリーライター風情ではございますが、春は年度末なので、いささか忙しゅうございました。なによりフリーランスの一大イベント確定申告がございました。賞与もチップもない我々にとって還付金は大事な収入源(?)。今年もe-TAXでチャチャッとやらせていただきました。
ひとつ失敗したのは、兄の確定申告がe-TAXにアクセスできなかったことでございます。昨年、わたくしが兄の代理で確定申告をしに税務署に行き、利用者識別番号と暗証番号が確定したので、「これで楽勝」と思っていたら、何度やってもアクセス不能。よくよく思い返しますと「一度ご本人と一緒に来ていただいて、本人確認ができましたらご利用いただけます」と言われていたのを忘れておりました。
昨年分は半年間のお給料収入を申告しましたが、今年分は失業保険とコロナ禍の給付金以外1円も収入のないプー太郎。確定申告は、兄の無収入をお知らせするために是非しなくては…と思っているのですが、未だに手付かずのまま。兄を扶養家族にするのか?といった案件にも取りかかれないまま、またいたずらに時間が過ぎてしまいました。
兄の入っている保険屋さんが「ご契約のご確認」という名目で来訪されるのも春ですし、兄の障害者手帳と自立支援医療受給者証の更新も今年は主治医の診断書が必要(2年に1回)だったので申請したり、取りに行ったり。自分のゴールド免許証の更新もあり、区役所やら警察署やら病院を往復するのに時間を取られました。障害者手帳と自立支援医療受給者証の受け取りに関しましては「〇月〇日、〇時頃取りに来てください」と指定されてしまうので本当にやっかいです。
マンションの理事会長としてのお仕事もチョコチョコとありまして、そのたびに確認して理事長印をつくのも地味に面倒でございます。毎月の理事会費の出納確認はもちろんのこと、やれ「車を買い替えます」、「リフォームします」、「給湯器の入れ替え工事で…」といった各ご家庭の営みに許可を出すのも理事長のハンコでございまして、車検証や設計図を見せられてもチンプンカンプンですが、とりあえず押印しまくっております。
→兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第76回 理事長に就任いたしました」
先日は、住民のクレームから、理事会としてピンポイントのお宅にお手紙を書くことになり、理事長のわたくしが一筆書かせていただきました。なるべく穏便に、クレームを言い出した個人が特定しないように、また言われた方が「なるほどね」と納得していただけるようにと神経を使いました。なんならお仕事の原稿よりも気を使いましたっけ(笑い)
本業のお仕事では取材日程がギリギリの自転車操業で「やばい、このままじゃ原稿が間に合わぬ!」と焦ること多数で大ピンチの春でした。しまいには「このスリルがたまんないのよね」と開き直り、見かねた周囲の方に助けていただいてしまいました。
ひとつひとつはありがちなことですが、積もり積もるとなかなかのストレス。でもストレスだと自覚できているだけわたくしは大丈夫なのでしょう。危ないのはストレスをストレスと思わず頑張り続けてしまう真面目で几帳面なお方。わたくしは「むしろ入院でもしたいわ、ボケ!」と思っているくらいの粗雑な人間なので、たぶん大事には至らないと思います。
先日来訪された保険のおねえさまが、兄の受け答えや容易に名前も書けない様子を見て「成年後見人になられたら、こういったご契約更新も妹さま1人でできるようになりますよ」とポソッとおっしゃいました。成年後見人をどうするかもかねてからの案件ですが、何が正解なのか調べる時間も気力もなく、もうすべてが後回しの先送りで、次第に減っていく通帳の残高に溜め息をついた春でございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ