もし『桃太郎電鉄 』の世界に税金があったら?税理士と真剣に考えた<1>
大ヒットゲーム『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ 』はお金のイベントで盛り上がる。お父さんが大金持ちになったり、おじいちゃんに貧乏神がついたり、孫が人気観光地の物件を買い占めたり……。家族でハラハラドキドキするゲーム内のできごとに、税理士・髙橋創さんが介入。3月の決算期、確定申告の真っ最中「もし『桃太郎電鉄』の世界に税金があったら」という設定で、ゲーム大好きライター・井上マサキさんが税金の基本についてじっくり教わります。
「電鉄会社の社長」は法人税を払うはず
電鉄会社の社長になって、日本全国をめぐるすごろくゲーム「桃太郎電鉄」シリーズ(通称“桃鉄”)。昨年11月にNintendo Switchで発売された最新作『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~ 』は、累計販売本数250万本を突破する大ヒットになっています。
桃鉄の醍醐味といえば、ダイナミックなお金の動き。サイコロひとつで億単位のお金を稼ぐのも、はたまた失うのも当たり前。日本全国で物件を買い集め、3月の決算でホクホク(またはシクシク)するのもおなじみの光景です。
……しかし、ちょっと待ってください。これってちゃんと税金のことを考えたらどうなるんでしょう……?
プレイヤーは「電鉄会社の社長」なので、法人税を払うことになるはず。でもゲームのなかでは仙人からお金をもらったり、貧乏神が勝手に物件を売ったりします。「徳政令カード」で借金がチャラ、なんてことも。こんなのどう申告したら……?
そこで、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)の共著者である税理士の高橋創さんと、「もし桃太郎電鉄の世界に税金があったら」を一緒に考えてみました。
3月に決算がある桃鉄は、税金的にちゃんとしている
桃鉄の舞台となるのは、鉄道路線が描かれた日本地図。プレイヤーはサイコロを振り、駅(マス)に止まりながら目的地の駅を目指します。
青いマスに止まるとお金がもらえ、赤いマスに止まるとお金が減少。他にもカードがもらえるマスや、物件が買えるマスなど、止まる場所によってさまざまなイベントがあります。
こうして目的地に最初に到着した人は「援助金」をゲット。再び次の目的地に向けて旅は続き、最終的に総資産が一番多い人の勝利です。
……ということで高橋さん、青マスや援助金は会社の「収入」と考えていいですよね?
高橋:「そうですね。法人税は、その年のプラス(益金)から、マイナス(損金)を引いた額にかかります。青マスや援助金は益金、赤マスは損金と考えていいでしょう。この益金と損金を通算するタイミングが『決算』なわけです」
確かに桃鉄にも「決算」がありますね。桃鉄ではサイコロを振るたびに1か月が過ぎ、毎年3月に決算がくる。
高橋:「この仕組み、税の視点から見ても“ちゃんとしている“んです。桃鉄の決算は、会計でいうところの『フロー(一定期間の増減)』と『ストック(一時点の残高)』をちゃんと表現しているんですね」
えーと、その年の収支が「フロー」、その年の総資産が「ストック」というわけですか?
高橋:「はい。桃鉄は総資産が増えたり減ったりする一方で、収支については1年単位で精算をしています。現実世界の税金も年単位で課税して精算するわけですから、実態に即しているなと思いました」
年単位の精算はちゃんとしている……とはいえ、桃鉄では税金を取りませんもんね。
高橋:「そうなんですよ。職業柄、『ここまで収益がクリアなのに税務署の人が来ないなんて』と、どうしても思っちゃうんですよね……。次回作にはぜひ”マルサの銀次”を入れてほしいくらいです」
エンジェルからもらうお金、贈与税がかかる?かからない?
さて、桃鉄では青マスや援助金以外にも、さまざまな収入があります。そのひとつが物件から得られる「収益」。
物件にはそれぞれ「収益率」が決まっていて、1000万円の物件で収益率が50%なら、500万円が年間の収益になります。事業による儲けなので、文句なしの益金でしょう。
ん?……物件を買って利益を得る……ということは、物件を買うときに払ったお金は「経費」ってことになりませんか……?
高橋:「いえ、経費にはなりません。購入した物件は『資産』です。いわば、現金が土地建物に姿を変えただけ。農地を買ったら、貸借対照表といった帳簿に『土地』として載るでしょうね」
他に益金になりそうなものだと、誰かからもらうお金がありますよね。「記念仙人からのボーナス」とか、「エンジェルがそっと置いていくお金」とか、「他プレイヤーから奪ったお金」とか。
これって「もらうお金」だから「贈与」ってことですよね…… 。ということは、贈与税がかかっちゃうのでは!?
高橋:「安心してください。贈与税の対象になるのは、受け取り側が個人の場合なんです。桃鉄の場合は法人が受け取るので、贈与税はかかりません。単なる益金になります」
なるほど。個人か法人かで、税金の扱いって結構変わっちゃうんですね。
高橋:「桃鉄だと『宝くじ駅』でもらえるお金なんかも、受け取り側が個人か法人かで変わってきますよ」
宝くじ駅に止まるとスロットが回り、見事当たれば賞金がもらえます。くじは1等から6等まであり、6等でも数億円がもらえますが……。
高橋:「宝くじの当選金は、当せん金付証票法(通称宝くじ法)によって、個人の所得税は非課税とされています。でも、法人が宝くじを買った場合は、非課税のルールがないんです」
そうなんですか!? 「宝くじの当選金には税金がかからない」って聞いたことがありますけど、あれって個人の場合だったんですね。
高橋:「桃鉄はプレイヤーが法人なので、『宝くじ駅』でもらったお金は、他の収益と同様に益金になります。つまり、法人税の課税対象になる」
宝くじなんて、個人が買おうが法人が買おうが結果は同じなのに、なんだか解せませんね……。
高橋:「まぁそういうわけなので、宝くじは社長さん個人で買うことをオススメします」
桃鉄で最も脱税が起こりやすいのは「黄色のマス」
青マス、援助金、物件収益、他からもらうお金……収入になるのはだいたいこれくらいですかね。
「いえいえ、大事なものを忘れています。黄色のマスに気をつけてください」
え、黄色のマスって、カードがもらえるマスですよね? お金は関係ないんじゃないですか……?
高橋:「とんでもない! 黄色のマスでもらったカードは『現物での収入』と見なされます。カードって、カード売り場で売買ができますよね? 市場での流通価格が決まっているわけですから、カードもひとつの『資産』と考えられます」
カードをもらっただけで資産になるって、ちょっと大げさじゃないですか?
高橋:「現実世界に置き換えると、商品券をもらったのと同じなんです。たとえば、働いてくれたお礼にと商品券を渡されたとするじゃないですか。Amazonギフト券でもいいですけど」
僕はAmazonギフト券のほうが嬉しいですね。
高橋:「商品券でもAmazonギフト券でも、もらった人にとっては立派な『収入』です。きちんと確定申告しないと、申告漏れになってしまいますよ」
そういえば、黄色いマスでもらえるカードは、ものによっては数億円の値が付くものもあります。これが申告漏れと判断されたら……と思うと、ちょっと背筋が寒くなりますね……。
高橋:「カードは決算で収益として扱われないので、資産だと思っていない人も多いでしょうね。この類いの申告漏れは、現実世界でも起こりやすいんです。この機会に『黄色いマスは桃鉄で最も脱税が起こりやすい』ことを覚えてもらえたら幸いです」
まとめ
・法人税はその年のプラス(益金)からマイナス(損金)を引いた額にかかる
・青マスは益金、赤マスは損金
・物件の購入代金は経費にならない
・法人は宝くじの当せん金にも税金がかかる
・カードには資産価値があるので課税対象。現物の収入もきちんと申告しよう
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教えてくれた人/高橋創(たかはし・はじめ)
1974年東京都生まれ。東京都立大学卒業後、専門学校講師、会計事務所勤務を経て、高橋創税理士事務所を新宿二丁目に開設。 開業したものの顧客を増やしていく為の営業方針が定まらず苦戦する中、酒好きが高じたためかドリンクをオーダーすることで税理士に相談をできるイベント「確定申告酒場」を新宿ゴールデン街のバー「無銘喫茶」で開催。そこで、相談者の素朴な疑問に触れるうちに「税金のことを楽しく伝える」ことに喜びを感じ、雑誌のコラム、YouTube、プロレス興行での「確定申告マッチ」などであまり堅苦しくない税金ネタを発信するようになる。 著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』(中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本20-21年版』(ナツメ社)などがある。
構成・文/井上マサキ(いのうえ・まさき)
1975年 宮城県石巻市生まれ。神奈川県在住。二児の父。大学卒業後、大手SIerにてシステムエンジニアとして勤務。ブログ執筆などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。企業広報やWebメディアなどで執筆するかたわら、「路線図マニア」としてメディアにも出演。著書に『日本の路線図』(三才ブックス)、『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』(ダイヤモンド社)など。