有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』3話。幸せな風景に気後れする人たちを癒やす
NHK朝ドラ『ひよっこ』の脚本家・岡田惠和とヒロイン・有村架純がタッグを組んだ話題作『姉ちゃんの恋人』3話。過去の不幸な出来事を引きずっているらしい青年真人(林遣都)と桃子(有村架純)の恋は進展するのだろうか。ライター・大山くまおさんが解説します。
くっつきそうでくっつかない有村架純&林遣都
有村架純&林遣都主演のドラマ『姉ちゃんの恋人』。コロナ禍の現代を舞台に、それぞれ重いものを背負いながら懸命に生きる若い男女の恋愛を、ほのぼのとしたタッチで描く。脚本は日常を描く名手・岡田惠和。
先週放送された第3話では、主人公の桃子(有村)と真人(林)が働くホームセンターでのクリスマスの飾り付けがついに完成。徹夜仕事を終えて、ニコニコ笑いながら帰り道を歩く2人の姿は本当に爽やか。仕事を通じて、グッと距離が近づいたようだ(距離を縮めていくのはだいたい桃子のほう)。
カフェでモーニングサービスを食べた後は、頭を寄せ合って眠ってしまう。いや、本当は眠っていなくて、寄せ合っていただけなのかもしれない。これ、完全に付き合うでしょ? と思ってしまうが、くっつきそうでくっつかない。
真人は母・貴子(和久井映見)に「終わった。今日からは今まで通り」と宣言したように、何事もなかったように元の日常に戻っていく。過去の傷が彼にこんな行動をとらせているようだ。さっきまで心から楽しそうな笑顔を見せていたのに、急に思いつめたような目になってしまう。林遣都の目の表現力につくづく感嘆させられる。
一方、恋の予感に浮かれ気味の桃子だったが、どこか踏み込めない真人のことを「何かを諦めている感じがする」と語る。「何か」とは「幸せになること」。真人のさりげない表情や仕草から、こんなことを読み取ることができる桃子は、コンビニの前でストロング系のチューハイを飲んでいるけど、けっしてがさつな人間ではない。桃子だって辛い過去を抱えているからこそ、真人の気持ちが読み取れるのかもしれない。
みんな繊細で、みんなどこか傷ついていて、みんな誰かのことを想っていて、みんな幸せを求めている。『姉ちゃんの恋人』はそんなドラマだ。
実は謎めいている藤木直人&高橋海人?
第3話のサブタイトルは「2人の恋が急展開! ラブの大渋滞」だったが、桃子と真人の間にはそれほど「急展開」は起こっていない。では「ラブの大渋滞」はどうだったかというと、こちらはたしかにちゃんとあった。
まずは桃子の上司・日南子(小池栄子)と真人の職場の先輩・悟志(藤木直人)。バーで偶然出会った2人だったが、その後、同じ職場で働いていることが判明して、日南子の恋心が一気に燃え上がる。
仕事はできるが恋には不器用な日南子に対して、悟志はいつも明るくて調子が良いが実は何を考えているかよくわからない。このままやすやすとカップルにはならないような気がするがどうか。サラッと描かれた悟志の欠勤の謎もひっかかる。
もう一組は、桃子の弟・和輝(高橋海人)と桃子の親友のみゆき(奈緒)。和輝は仕事で落ち込んでいるみゆきを励ましつつ、いきなり「俺の初恋の人なんだから」と告白。口の端についていたカフェラテの泡を指ですくって、チュパっと舐めてしまった。
そういえば和輝はにこやかに「誰かが姉ちゃんを傷つけたりとかしたら、絶対許さないっす」と語っていたこともあった。爽やかそうに見える彼の正体は、まだちょっとわからない部分がある。イケメン2人はまだ謎が多い。
3人の気持ちは自然につながり合う
第3話のハイライトは、真人の母・貴子がホームセンターを訪れる場面だった。貴子は息子が仕事仲間たちと力を合わせて完成させたクリスマスツリーを見上げて、ひとりで涙ぐむ。
真人の過去にどんなことがあったか具体的には語られていないため、貴子の心に何が去来していたのかはわからない。涙ぐむ貴子を見かけて「えっ?」と思った桃子のほうに近い。貴子と桃子はクリスマスツリーを見ながら言葉を交わす。
「本当はもっとキラキラしていたほうがいいと思うんですけど……素朴ですよね」
「そこがいいな」
「そうですか?」
「うん、何かニュースに出てくるようなキラキラしたツリーもやっぱり素敵だけど、幸せなカップルさんとかね、だったら見に行けるけど、ちょっと気後れしてしまう人もいて。クリスマスだからって、はしゃげない人も世の中にはいて。そういう人でも見に来れるしね、触れるしね」
クリスマスツリーのコンセプトを貴子に言い当てられて驚く桃子。桃子と真人が考えたのは、寂しい気持ちや辛い気持ちを抱えた人でも見て安心できるような、本物のモミの木を使ったクリスマスツリーだった。
世の中にはまぶしすぎる幸せな風景に気後れてしまい、つい目を背けてしまう人たちがいる。目を背けてしまえば、ますます寂しい気持ちになる。貴子も真人もそうだし、桃子も両親を事故で亡くしてから今まで幾度もなくそういう気持ちを味わってきたはずだ。だからこそ、3人の気持ちは自然につながり合うのだろう。
『姉ちゃんの恋人』と『ひよっこ』の共通点
有村架純と和久井映見の共演を見て、2人が共演した朝ドラ『ひよっこ』を思い出した視聴者も多いかもしれない。
苦しいことや辛いこともあるけど、みんな地味で、地道で、懸命に生きていて、そこにはささやかな幸せがある。極端な悪者は出てこなくて、ドラマのテンポはゆっくり。『姉ちゃんの恋人』は『ひよっこ』ととてもよく似ている。やついいちろう、光石研ら、共通している出演者もいる。主人公がどちらも父(母)を亡くし、家計のために働き続けてきた女性というのもまったく同じ。
『ひよっこ』は高度経済成長の頃のお話だったが、登場人物の多くが戦争の悲惨な体験を胸に抱えて生きていた。一方の『姉ちゃんの恋人』は新型コロナウイルスという新たな災厄の中で暮らす人たちの生活を描いている(コロナ禍はよく戦争に例えられてきた)。
平穏そうに暮らしている人たちでも、実はどんな辛い気持ちを抱えているかわからない。コロナ禍にあって、そう思うことは増えてきたんじゃないかと思う。実際、辛い気持ちを抱えている人も増えているだろう。そんな人たちを少しでも癒やしたい――。桃子たちのクリスマスツリーのコンセプトは、そのままこのドラマのコンセプトに重なっている。
第4話では、真人の過去についての詳細がついに明らかになりそうだ。2人が過去にどう向き合い、どう乗り越えていくか。いくつものカップルの恋路とともに見守っていきたい。
新『姉ちゃんの恋人』これまでのレビューを読む
→コロナ禍の家族ドラマ『姉ちゃんの恋人』1話『ひよっこ』脚本家と有村架純の名タッグが嬉しい
→有村架純×林遣都『姉ちゃんの恋人』2話。しゃがみ込む桃子、触れようとした手を下ろす真人。過去に何が?
『姉ちゃんの恋人』は配信サービス「FODプレミアム」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●『北の国から』は父の視点、子の視点、母の視点…あらゆる視点を内包する傑作である