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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第63回 わたくしのMCI疑惑」

 若年性認知症を患う兄と暮らすツガエマナミコさんの仕事は、雑誌などの取材や執筆。家事全般や兄のハローワークや病院への付き添いもツガエさんがやっているのだが、最近、ツガエさん自身も「もしかして私も…」と落ち込んでしまったというのだ。多忙な日々の中でうっかりしてしまうことは誰にでもあるものだが…。

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。 

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 * * *

ミスの連続に不安がよぎるこの頃…

 食後はたいてい「洗うからそのままでいいよ」と言ってくれるやさしい兄と2人暮らしでございます。でも食器に水を張ったままテレビに引き寄せられてしまい、洗うのは結局わたくし…という諦めの日々を送るツガエでございます。

 兄の行動ばかりつっついておりますが、最近わたくしも立て続けにしくじっておりまして我ながら心配です。

 まずは連絡ミス。取材のアポイントメントをカメラ斑にメールしたつもりが、時間になっても現れないので連絡してみると「そのメール入ってませんね」と言われ、真っ青! 幸い近くで取材があって30分後なら行けるというカメラマンがいてくださったので救われましたが、焦りまくりの事件でした。どうにも解せなくて自分の送信メールを確かめるとやはり大事なカメラ斑のメールアドレスだけが抜けておりました。

 次は、場所の勘違い。取材場所を微妙に間違えて待ち続け、開始3分前にカメラマンから「どこにいるの?」と電話をもらって気づくというケアレスミス。
さらに、メールの宛先間違い。出来上がった原稿を別の事務所に送ってしまい、「メールの宛先が間違っておられるようです」とのご一報をいただいた赤っ恥案件。お恥ずかしいやら、失礼やら、申し訳ないやらで自分が情けなくなりました。

 極めつけは、兄の病院の日、診察券など病院グッズ一式をまとめたポーチを忘れて出かけてしまった痛恨の悲劇。朝食後、珍しく兄がわたくしの手助けなしに自力で着替えてリビングに登場したので「お?今日は調子いいのね」と思って機嫌よく出発した結果、15分ほど歩いたところで「あ!忘れたぁ」と気づき、汗だくになりながら家まで戻ったのでございます。家から病院までは徒歩とバスで計50分というルートです。出直したのでは到底間に合わないので、奥の手タクシーを使い3200円の痛い出費となりました。

 これらのことが1か月の間に起こり、「これはもうMCIかも」と落ち込んでおります。

 MCIは軽度認知障害のこと。つまり正常と認知症の中間。物忘れはあるけれど日常生活に支障はないというグレーゾーンでございます。わたくしの場合、すでに仕事に支障をきたしていますけれども…。

 思えば、兄がアルツハイマー型認知症と診断されたのは57歳、今のわたくしの年齢です。この年齢で兄は自宅の住所や電話番号を書けなくなっておりましたから、わたくしは兄より少しマシな軌道をたどっているのでしょう。

 MCIから認知症に進行するか、正常化するかの二股に分かれるそうな。兄ぐらい認知症ベテランクラスになると治らないようですが、MCIの段階なら60%の人に正常化の道があるということです。ただし、MCIから認知症の中間ではなく、健常者とMCIの中間で何かしら対策をすることが正常化への鍵とのこと。

 MCIかもしれない…と思っているまさに今が、運動や食事、コミュニケーションや脳トレなどを積極的にやらなければいけないタイミングです。アルツハイマー型認知症へ人材を大量に輩出しているサブレッド家系ですので、放置すればこのまま兄と同じ軌道をたどるのでございましょう。

 運動はウオーキングなどの有酸素運動、食事は野菜とお魚中心…さんざん聞いていることですけれども、これがなかなか実行できないのでございます。できないから進行してしまう。そしていつしか自宅の住所や電話番号が書けない事態になって慌てるのでございます。

「膝が痛い」とか言ってないで歩くべし!「肉料理の方が簡単だから」とか言ってないで魚料理のレパートリーを増やすべし!

 ただ、そう書いているこの瞬間にも「自分は大丈夫なんじゃないか」と俯瞰する小悪魔がいて、不安と楽観の狭間で揺れております。

つづく…(次回は10月22日公開予定)

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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