兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし「第57回 誰かに救ってほしい…」
若年性認知症を患う兄と2人暮らしをするライターのツガエマナミコさんが綴る連載エッセイ。
父の突然の死後、母の認知症が進み、兄妹で介護を続けてきたが、母の死と時期を同じくして兄の様子にも変化が・・・。それから4年あまり兄をサポートしながら一緒に生活するツガエさんが、ときにくじけてしまいそうな胸の内を明かします。
「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。
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もう少し頑張って。絶対助ける!
ここ数か月、ゲーム実況配信なるものを見るようになってしまいました。昭和に大流行したスーパーマリオゲームですら触れたことがなく、ましてやオンラインゲームなどまったく興味がございませんでした。が、「あつまれ どうぶつの森」にハマっている人があまりに多いので、「どんなもんなん?」と実況配信を覗くようになってから、いろいろなゲーム実況配信の存在を知ることとなりました。
特にどハマりしておりますのが、1殺人鬼に対して4人が助け合いながら廃墟から脱出するというゲームで、気付くと深夜2時になることがしばしば。もちろん実践はせず、観戦一筋でやらせていただいているのですけれども…。
残虐シーン満載のこのホラー脱出ゲームになぜこんなにハマっているのか、自分でもわかりませんでした。終始ハラハラドキドキなのが醍醐味ですが、先日ふと、実況者のこんな言葉が胸に刺さっていると感じたのでございます。
「もう少し頑張って。絶対助ける!」
殺人鬼につかまってしまった仲間を思い、身を挺して救いに行くその瞬間がたまらないのです。わかっていますよ、ゲームなのですから得点を稼ぐためだということは…。
とどのつまり、わたくしも誰かにそんなことを力強く言ってもらいたいのだなと自己分析。「夢見る夢子かっ!」と一人ツッコミいたしました。
年甲斐もなく誰かに頼りたいとか、救われたいとどこかで思っているのでございます。まぁ、この身一つでも重いのに、兄まで背負って生きるのですから「そうなります」ってことでお許しください。
そもそも妹というものは、長年兄姉の庇護の下で生まれ育った生き物です。具体的に庇護されたわけではなくても、「困ったときはお兄ちゃんがいる」という精神的な逃げ道を持っているのが妹の強みでございましょう。そんないわゆる末っ子体質を半世紀かけてじっくりがっつり熟成させてまいりましたのに、ああ、それなのに、わたくしはここへ来て妹の強みを失ったばかりか、逆に「困ったときはマナミコちゃんがいる」とベッタリネットリ頼られてしまう立場になったのです。
自分がこんなことになってみて、世の中の兄姉のご苦労ご心労に思いをはせるようになりました。運命とはいえ兄姉の方々はその存在だけで偉大でございます。
わたくしの周りには兄妹間で介護をしている同世代はいないのですが、ネットを検索すると障がいのあるきょうだいを持つ人は思いのほか多く、「学校から帰ると妹の世話をさせられ、友達と遊べなかった」とか「親は兄にかかりきりで私には無関心だった」とか「一生面倒をみなければならないのか」「親がいなくなったらどうすればいいか」「結婚は諦めないといけないのか」という切実な投稿を目にいたしました。
比較するのは失礼なことですが、物心ついたときからずっと背負わなければならないきょうだいがいて今後も終わりの見えない介護が続くお若い方々に比べれば、人生も後半まで気ままに暮らしてきたわたくしなどは恵まれているケースでございます。そうわかっていても尚、不満が尽きない自分に呆れかえるばかり…。
でも思うのです。「ならば、わたくしはどうなったら幸せなのか?」と。
「見捨てて一人で暮らせば幸せか?」「施設に入れてしまえば幸せか?」「誰かが代わってくれれば幸せか?」「消えてくれたら幸せか?」
どれもピンとこないのは、罪悪感が付いて回るからにほかなりません。結局、このまま自然の成り行きにまかせるのがベストで、先回りして悩むのはやめようというところに落ち着きます。このトラックをいままで何周回ってきたことか。
「もう少し頑張って。絶対助ける!」
今日もまたこの言葉が聞きたくてゲーム実況配信の沼にハマってしまうツガエでございます。
つづく…(次回は9月10日公開予定)
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性57才。両親と独身の兄妹が、6年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現61才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。ハローワーク、病院への付き添いは筆者。
イラスト/なとみみわ
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