【認知症介護】つらい理由はこれ!軽減できるコツとは
認知症の母を、東京―岩手の遠距離で介護している工藤広伸さん。家族の目線で”気づいた””学んだ”数々の介護心得をブログや書籍などで公開し、リアルな実体験が役に立つと評判だ。
当サイトでもシリーズで、工藤さんに介護にまつわる知恵、心の持ち方などをエピソードを交え、アドバイスしてもらっている。
今回のテーマは「認知症介護のつらさを軽減するコツ」。”理系の介護をする”と称されたこともある工藤さんならではの視点で、介護がつらいと感じる理由を探っている。理由がわかれば、悩みも解決できる!?
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約6年の認知症介護生活の中で、わたしがいつも意識してきたのが「ギャップ」です。ギャップが大きいと認知症介護はつらく大変なものになるし、小さいと介護生活は安定します。
この「ギャップ」とは何か? わたしや介護者仲間の体験をベースに、3つパターンのグラフを使って説明してみます。
パターン1:症状はそれほど悪くないのに、家族が必要以上に悲観してしまう
まずは、こちらのグラフをご覧ください。
縦軸は認知症の症状を表していて、上にいくほど良く、下にいくほど悪い状態です。横軸は時間で、右へ行くほど歳を取るという意味です。
青色の線は認知症ご本人の症状の推移で、オレンジ色の点線は介護者が想定している症状の推移を表しています。(※実際の症状は不安定なので、グラフはジグザグになると思いますが、説明のため直線にしました)
現実を表す青色線のグラフが右肩下がりになっているのは、認知症と診断された直後が、その方の人生の中では認知症の症状は軽く、次第に理解する力や判断する力がなくなって症状が悪くなる場合が多いからです。
一方、介護者想定の症状は、介護する側の心情の変化とリンクするので、オレンジ色点線グラフのように山型になるとわたしは考えます。
多くの介護者は、介護を始めた当初、認知症の知識がまだ少なく、そのうえ、自分の家族が認知症と診断されたショックなどから、実際の症状をとても重く受け止めてしまいがちです。
しかし、介護者が認知症という病気を理解し、受け入れて、その症状に慣れてくると、最初ほど認知症を重く感じないようになるのではないでしょうか。
深刻に考え過ぎると、介護者自身のメンタルが保てなくなることに自分自身で気づき、次第に楽観的になる場合が多いと思います。
そのため、オレンジ色点線のグラフは、しばらく右肩上がりになっています。
認知症と診断されてから時間が経過し、病気への理解が進むと、ある時点からは、実際に症状が進行するスピードと、自分が想定している進行スピードが近づいてくるので、現実と想定との間にギャップがなくなってきます。途中から青色直線とオレンジ色点線が重なっているのは、そういう意味です。
認知症カフェやわたしの講演会でお会いした方々から聞いた話をまとめると、認知症介護の初期のギャップで苦しんでいることが多いように思います。
ちなみにわたしの場合は、このギャップを介護が始まった直後から小さくすることができたので、他の人よりも認知症介護で悩む時間は短かったように思います。その方法は、最後にご紹介します。
パターン2:症状が急激に悪化して、家族の想定するペースを超えてしまう
介護に慣れてきた頃に、ギャップが生まれることもあります。それが次のグラフです。
認知症の症状が自分の想定通りのペースで進行していたところ、突然、想定以上に症状が悪化してしまうケースです。
この場合も、自分の想定と現実で大きいギャップが生まれてしまうため、介護者はあわてますし、介護の悩みも急に増え出します。
実は、今のわたしがこのグラフと同じ状況です。
認知症の母の症状が少し加速し始めたので、症状を改善すべく、かかりつけ医と新しい薬やサプリメントのテストをしている最中です。できることなら、お薬の変更や母との接し方を工夫して、実線のグラフを上に持ち上げることでギャップを埋めたいと思っています。
しかし、うまくいかなかった場合、「止められない認知症の進行」や「老い」と考え、自分の中で受け入れるという方法も考えています。点線のグラフを実線のグラフに近づけ、ギャップを小さくするのです。
介護する側が「認知症はよくなる、改善する」という気持ちを持ち続けることは大切ですが、認知症は基本的には根治する病気ではないので、どこかで「諦め」の気持ちを持つ必要もあると、わたしは思っています。
認知症の症状の改善への期待が大きすぎると、今度は現実とのギャップで苦しむこともあると思います。
パターン3:介護当初のギャップを小さくする
わたしが実践したギャップを小さくする方法とは、認知症の勉強をするということでした。
認知症という病気の進行スピード、介護者の初期の葛藤とはどういうものかなど、介護者としてたどる道を理解しようと努めました。
また、認知症カフェや介護のつどいに参加して、先輩介護者の話を聞くのもいいと思います。多くの先輩方は、介護初期の大きなギャップで苦しんだ経験をお持ちです。そのギャップを知識として持っているだけで、介護のつらさはだいぶ違うものになると思います。
稀に20代、30代の介護未経験者が認知症カフェに参加して、先輩介護者の話を聞く場面を見かけます。まだまだ多くはありませんが、もしこの方たちが介護者になった時には、小さいギャップで済むと思います。認知症の情報を集め、認知症カフェなどで勉強することによって、最初のグラフはこのように変化します。
「自分の家族が認知症になってしまった!」というショックは、認知症の知識がなければ本当に大きいものです。家族のことを忘れてしまう、何もできなくなるといったことばかりを考えてしまいがちだと思います。
しかし、亡くなったわたしの祖母は、認知症がある程度進行しても孫のわたしを忘れませんでしたし、むしろ最後は穏やかなくらいでした。
認知症介護はどの時点においても、「現実と想定のギャップを小さくする」という意識で介護すれば、つらさは軽減されるのではないでしょうか。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士、なないろのとびら診療所(岩手県盛岡市)地域医療推進室非常勤。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)
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