離れて暮らす認知症の親、呼び寄せない方がいい3つの理由
東京―盛岡の遠距離で、認知症の母の介護を続けている工藤広伸さん。息子の視点で”気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」や介護者の本音を紹介するシリーズ、今回のテーマは、離れて暮らす親を呼び寄せない理由。親に介護が必要になったとき、まずは、一緒に住まなくてはいけないと考える人も多いだろう。必ずしも一緒に住むことが親孝行とは限らない!?実体験にもとづく介護サバイバル術を伝授してもらう。
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認知症の母(73歳)は岩手県でひとり暮らし、息子のわたしは東京で暮らしています。
「くどひろさんは、お母さまを東京に呼び寄せようとは思わなかったのですか?」という質問をよく受けるのですが、わたしの答えは常にこうです。
「全く考えたことがありません」
なぜそうなのか、それには3つの理由があります。今日は「認知症の親を子の近くに呼び寄せる」ということについて、お話します。
理由1:認知症の人は環境の変化に対応しづらい
わたしが母を呼び寄せない一番の理由は、認知症の人が環境の変化に対応するのが難しいからです。母は73年間、岩手以外で生活したことがありません。東京の家に遊びに来たときは、人やビルの多さに驚いていました。旅行など、一時的ならばいいのですが、生活となると話は別です。
友人・知人が周りにいない、言葉のアクセントが違う、味噌汁の味が薄いなど、今まで慣れ親しんだ環境が一変してしまいます。新しいことがなかなか覚えられない認知症の人にとって、この変化はどう思うでしょうか?中には、外出の機会が減って引きこもり、認知症の症状が悪化してしまうというケースもあるようです。
岩手と東京という距離の離れた例をご紹介しましたが、同じ地域でも入院しただけで環境は大きく変化します。認知症だったわたしの祖母は、病院を家だと勘違いしていました。家では畳の上に布団を敷いて寝ていた祖母が、早朝に起き上がった場所は病院のベッドの上でした。布団と勘違いした祖母はそのままベッドから転落し、大腿骨を折ってしまいました。
施設への入所なども、環境の変化のひとつと言えます。できるだけ慣れ親しんだ環境を維持するために、嫁入り道具だったタンスを施設に持ち込んで利用するという工夫をするところもあるくらい、環境の変化には気をつかう必要があると思います。
理由2:使い慣れた日用品や電化製品がマスト
わたしの場合、日用品や電化製品まで気をつかっています。家の固定電話は30年以上前のものですが、未だに変えていません。認知症になった今、新しい電化製品の使い方を覚えるのが大変で、分からなくなると諦めて使わなくなってしまうのが怖いからです。このように日常生活を諦めて自分でやらなくなっていくと、どんどん活動量が低下してしまうことがあり、認知症の症状を悪化させてしまうとも考えています。
親孝行のつもりで買った足を暖める器具も、結局は使い方が分からず物置きに入っていました。新しい電化製品を購入する際も、できるだけシンプルで分かりやすい機能のものを選ぶようにしています。
食品に関しても、岩手にしかない牛乳、しょうゆなど、長年慣れ親しんだものが認知症の母には心地いいらしく、徹底して同じものを購入するようにしています。
住む場所という大きなものから、電化製品・日用品といった小さなものまで、できるだけ慣れ親しんだ環境を作ってあげることを、今でも大切に考えています。
ある遠距離介護セミナーに参加したとき、パネラーの方がこう言っていました。
「親を呼び寄せるという最悪な選択をして、後悔している」と。
環境の変化に対応できなかった結果、引きこもってしまったようです。
理由3:施設入居の優先順位が下がる
在宅介護を諦めて、特別養護老人ホームに入所を希望するときに、もし同居ならば、介護家族がいるとみなされ、独居と比べて、入所の優先順位判定が低く設定されてしまうのです。
また介護保険サービスも、原則として元気な同居家族がいる場合はサービス提供が認められません(介護の基礎知識<4>公的制度を参照)。
わたしは、介護サービスを利用しようといつも考えているので、呼び寄せて自分ですべて介護しようとは思いません。
また、東京の「特養」に入居を希望し、母を呼び寄せるかというと、その選択をする予定もありません。もし入所する場合は、岩手の施設にしようと思っています。
1つめの理由と同じで、周りの利用者さんとの会話も大切にしたいからです。認知症の方は、直近の記憶よりも昔の記憶のほうが鮮明です。他の利用者さんと昔あった百貨店や商店街の話、地域のお祭りの話など、岩手に居れば盛り上がるからです。
都心への人口流入が多いので、介護施設への入居待ち人数が多いという話も聞きます。地方の方が入所しやすいのではないかとも考えています。
まずは、現在生活してる場所で介護が可能なのか検討を
親が近くに居た方が安心という介護者の気持ちは、痛いほどよく分かります。また行き来する交通費が生活を圧迫するので、呼び寄せようと思うかもしれません。わたしの母もひとり暮らしですので、いろいろ心配なことがあります。
しかし、デイサービス、訪問リハビリ、訪問看護などの利用をして、絶えず誰かが家を訪れるようなケアプランを組んだり、Webカメラを使って見守りをしたりと、工夫して介護できています。
呼び寄せる前に、まずはケアマネージャーと相談して、今居る場所で介護が可能なのかを調べてみるといいと思います。わたしは呼び寄せることは、最終手段ではないかと考えています。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)