コロナ禍でがんと戦う免疫力と抵抗力の話…専門医・近藤誠さんがマスクを外して語る
日本人の2人に1人が生涯に一度はかかるといわれる「がん」。同じ病気でもその進行度合いや症状は千差万別だ。だからこそかかった人はみな、治療に悩み、選択を迫られる。そんなときもし、「治療しない」という決断をしたらどうなるのか――コロナ禍のいまだからこそ、考えたい。
がんの「標準治療」にひとり異議を唱える医師
体調を崩したら病院に行って診察を受け、医師の指示のもと薬をのんだり、処置を受けて治すのが当然――そう思っている人がほとんどだろう。それだけに「治療すると悪化する」といわれている病気や手術がこれだけあるのは驚きだ。日本人の死因第1位のがんもまた、その1つだという。
2014年に慶應義塾大学病院放射線科講師を定年退職し、現在は「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」を開設する医師の近藤誠さんは40年にわたって手術や抗がん剤のデメリットを主張してきた。
コロナ禍における家ごもり生活で病院から足が遠のいているいまこそ、全国で行われているがんの「標準治療」にひとり異議を唱える医師の言葉に耳を傾けたい。
「マスクは取ってください」
新型コロナウイルス感染予防の観点から、記者は当然マスクをつけて取材場所に赴いた。だが、近藤さんの第一声はこうだった。
「マスクは取ってください」
近藤さんはあえて感染リスクが高いところに身を置き、免疫をつけようと試みているのだと笑い交じりに話す。
●どんな症状が出るのかを自分の体で体感したいという気持ちもある
「新型コロナウイルス感染症にかかったら、どんな症状が出るのかを自分の体で体感したいという気持ちもある。いわば人体実験です。コロナだけではなく、逆流性食道炎のときも、帯状疱疹のときも一切治療せずに経過を体で感じていました」(近藤さん・以下同)
当然そのスタンスはがん治療にも適用される。症状や体の状態にもよるが、初期のがんが見つかった場合、外科手術が最も有力な選択肢となることが多い。だが、近藤さんはこう述べる。
「そもそも手術とはメスで皮膚を切り裂き、胸やお腹に人の手を入れる行為。これは体に大きな負担をかける。特に臓器を摘出するような内容であれば、それだけで相当な負担になります。がんそのものが体に及ぼす危険性と、手術によってかかる負担を天秤にかけると、必ずしも手術をすることが正解ではない」
胃がんとの診断が下って胃の摘出手術を受ければ食が細くなり、人によっては激やせし、体力が一気に低下する。一般人からすれば簡単な手術と思う盲腸の手術ですら、人体には非常に危険なことなのだという。
「さらに恐ろしいのが、手術をきっかけとしてがんが暴れ出すリスク。元千代の富士の九重親方(享年61)や、前沖縄県知事の翁長雄志さん(享年67)などの例を見てもわかるように、がんの手術を受けて成功したように見えたのに、1年以内の短い期間で転移して亡くなるケースが少なくありません」
手術を受けるとその傷を治すために白血球をはじめとする免疫細胞が動員され、サイトカインという刺激物質が分泌される。この物質がもともと血管など体中に散らばっていた“眠っているがん細胞”を目覚めさせ、一気に増殖させてしまうというのだ。
現在のような医学が発達する以前から「手術をするとがんが暴れる」ということは医師らの間では指摘されてきたと近藤さんは続ける。
「たとえば大腸がんの場合、がん細胞が全身に回らないよう血管を縛ってから手術をして患部を切除しても、転移が出てくるケースを減らせない。これは、手術をすることで“眠っているがん細胞”を起こしてしまったと考えるのが妥当でしょう」
→光免疫療法、ネオアンチゲン免疫療法|専門医が明かす最新がん治療
「がんの3大治療法」への疑問
外科手術、放射線治療と並んで「がんの3大療法」と称せられる化学療法、すなわち抗がん剤治療も、危険を伴う場合があると近藤さんは語る。
現在、主として使われる抗がん剤は細胞が分裂する過程に作用するタイプ。がん細胞を増殖させないことが狙いだ。ところが正常な細胞にも同様に作用してしまうため、副作用が起きるという弱点がある。がん細胞と同じく増殖の速い血液や口の粘膜、毛根の細胞などが影響を受けやすい。
「抗がん剤は病原菌と闘う白血球をも破壊するため、体の免疫力を極度に低下させ、ウイルスにも感染しやすくなります。しかも抗がん剤の作用は全身に回るため、一時的ですが体力もかなり落ちてしまう。一方、放射線治療であれば、照射中に通過する血液中の白血球が死滅する程度。体全体の血液量からすればわずかで、影響は少ない」
近藤さんに相談する患者の多くは抗がん剤の副作用に苦しんでいる。ところが治療をやめた結果、がんが小さくなったという人すらいるという。
「がん細胞を小さくすることが治療目的のはずが、逆の結果になってしまうケースもある。これは、体にもともと備わっている“抵抗力”が、抗がん剤の副作用によって失われてしまったことが原因だと考えられる。つまり、がん細胞が大きくならないようにブレーキをかけているのは抵抗力であり、もしがんになったとしても、この“抵抗力”が落ちないようにつきあっていけば、がんが大きくならずに済むのです」
抵抗力をつける方法とは?
がんになっても、それを進行させないほどの威力のある“抵抗力”。手に入れるためにはどうすればいいのだろうか。
●適度な栄養を摂り、運動をして自分の体をちょうどいい状態にする
「抵抗力とは、“健康な人が持つ体力のようなもの”と言い換えることができます。適度な栄養を摂り、運動をして自分の体をちょうどいい状態に保つことが重要になります」
特に、栄養状態は抵抗力と大きく関係するという。2011年4月に55才の若さで亡くなった元キャンディーズの「スーちゃん」こと田中好子さんの例をあげて近藤さんが説明する。
「1992年に乳がんが見つかった田中さんは手術を受け、19年間も元気に過ごしていた。ところが2011年2月にがん細胞が急激に増え、肺や肝臓にがんが転移して亡くなった。これは推測ですが、前年に十二指腸潰瘍になった際に行った絶食治療のせいではないか。体の中に栄養が行き渡らずに、やせ細って体力がなくなり、抵抗力が損なわれた結果、潜んでいたがんが大きくなったのではと考えています」
●過度なダイエットに要注意
コロナ太り解消のために食事制限をしている人もいるはずだが、極端に食べないダイエットは“抵抗力”を損なう可能性があるというわけだ。
「糖質制限や菜食、玄米食など、過度な節制はよくない。そのときに体が欲するものが必要なものなので、それに従って食べるべき。なかでも卵、牛乳は積極的に摂ってほしい食材です」
卵はヒヨコが生まれる前段階であり、牛乳は牛が育つほどの“完全栄養食”であることが理由で、これらを摂る人が長寿だという米国の研究もあると近藤さんは言う。加えて、近藤さんが医師でありながら重要視するのは“医療と距離を取ること”。
「神経質に健康に留意しすぎると、過剰に健診を受けたりストレスを感じたりして、新たな病気を生む可能性があるため、病院に頼りすぎるのは自滅の道ともいえる。不快感や日常生活で不便を感じることがあれば、そのつど通院すればいい。治療のしすぎは“抵抗力”を弱めます」
型破りの医師が発するアドバイス。心して受け止めたい。
教えてくれた人
近藤誠さん/1948年東京都生まれ。1973年に慶應義塾大学医学部卒業後、1983年より同大学医学部放射線科講師。2014年に退職し「近藤誠がん研究所・セカンドオピニオン外来」にてがん治療に携わる。『世界一ラクな「がん治療」』(小学館)をはじめとして著書多数。
※女性セブン2020年7月30日・8月6日号
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