光免疫療法、ネオアンチゲン免疫療法|専門医が明かす最新がん治療
いま新たながん治療法として期待されているのが、人間の持つ免疫力を応用した「免疫療法」だ。将来的にはがん撲滅も期待ができるのか?
革命的がん治療ともいわれる「免疫療法」の最新事情について、医療ガバナンス研究所理事長・医学博士の上昌広さんが解説する。
「免疫チェックポイント阻害薬」保険対象拡大か
「ウイルスなど外からの異物の侵入を防ぐだけでなく、体内で発生したがん細胞を異物として判断し、排除するのも免疫の役目です。これまでのがん治療は、がん自体を取り除く治療法でしたが、免疫療法では、自分の持つ免疫の力を強めることでがん細胞を排除します」(上さん・以下同)
すでに実用化されているのが、「免疫チェックポイント阻害薬」だ。
私たちの体には免疫力だけでなく、免疫が過剰に働いて体を傷つけないように抑制するシステムも備わっている。がん細胞はそれを“悪用”し、免疫にブレーキをかけることで、免疫の攻撃から逃げようとしている。
「そのブレーキをかける仕組みを阻害し、がん細胞に対する免疫の攻撃を持続させるのが、免疫チェックポイント阻害薬です。現在、肺がん、腎がん、頭頸部がん、胃がん、直腸がんなど多くのがんに保険診療が認められています。それ以外のがんにも効く可能性が高いので、今後、保険の対象になるがんの種類は増えていくのではないでしょうか」
免疫療法で期待される「CAR-T療法」
「免疫チェックポイント阻害薬」とならぶもう1つの有望な免疫療法が「CAR-T療法」だ。
現在、白血病、リンパ腫など血液系のがん治療に使われている。がん細胞を攻撃する「キラーT細胞」を患者自身から取り出し、がん細胞の目印を見分ける遺伝子を組み入れ、増やしてから再び患者の体内に戻す方法だ。
「T細胞のがん細胞に対する攻撃能力を非常に高くする治療法。ほかのがんにも効く可能性はありますが、まだ結果は出ていません。ただし、この治療は4000万~5000万円と高額な費用がかかる(※)ので、最後の手段として行われることが多い」
「光免疫療法」はがん治療の切り札に?
現在は研究段階だが、近い将来、切り札になることが期待される治療法もある。その1つが「光免疫療法」だ。
がんの表面にある「EGFR(上皮成長因子受容体)」という抗体に、遠赤外線光に対して反応を起こす化学物質(光感受性物質)をつけ、静脈注射で体内に入れる。
「EGFRはがん細胞まで届いて結合します。そこをめがけて遠赤外線光を照射すると、光感受性物質が化学反応を起こし、がん細胞が破壊される。がん細胞だけをピンポイントで壊すことができるため副作用が少なく、大きな注目を浴びている。ただし、深い臓器には届かないのではないかともいわれています」
進行がんに「ネオアンチゲン免疫療法」
「ネオアンチゲン免疫療法」は、粘膜下の筋層まで達した進行がんに対する効果も期待されている。
「がん患者それぞれの遺伝子変異を調べ、変異に合わせた“オーダーメード”のワクチンを打って、免疫細胞に攻撃させる。ゲノム研究が進み、がんの遺伝子を詳しく読めるようになったことで可能になった、革命的な治療法です。アメリカや中国ではすでに治験が進んでおり、5年後には実現可能なのではないか」
これらの最新の免疫療法は、がんを撲滅する夢の治療法になり得るのだろうか。
「よく効くし、人によっては副作用も少ないというメリットもある。ただし、ものによっては免疫を強めることで、がん細胞以外にも効いてしまう可能性や、過剰反応が起こってしまうこともあり得る。例えば、がん細胞以外の正常な組織を壊してしまうことによってリウマチのような症状が出ることも考えられます」
では、いざ自分が免疫療法を試したいと思ったら、どうすればいいのか。
「ネットにはさまざまな情報があふれていますが、素人判断は禁物です。まず主治医か、あるいは信頼できる医師に相談しましょう。例えば、臨床試験中だからエビデンス(証拠)がない薬と、たくさん実験を重ねたけれどエビデンスがない薬では、訳が違います。海外事情も含めて、詳しいことは専門家にしかわかりません」
治療法に免疫を取り入れることで、がん治療が格段に進みつつあることだけは確かなようだ。
※医療費が高額の場合、被保険者の所得や年齢に応じた自己負担額を超えて支払うことはない。
教えてくれた人
上昌広さん/医学博士 医療ガバナンス研究所理事長。
※女性セブン2020年3月12日号
https://josei7.com/
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