嗅覚に異常を感じたら?「鼻づまり」は重病の予兆かも|危ない鼻づまりとは?
お笑いトリオ・森三中の黒沢かずこは、発熱から回復し、仕事に復帰した後、「におい」に異変を感じたという。新型コロナウイルスの検査を受けたところ、「陽性」だった。嗅覚の違和感はいま、緊急事態を知る重要なサインになっている。読めばきっと、鼻の異変を放置できなくなる――。
ただの鼻づまりと放置しないで
国内のほとんどの地域で、スギ花粉のピークが過ぎた。しかし、今度は入れ替わりでヒノキ花粉の飛散が本格化し、4月中旬頃にピークを迎えると予測されている。
この時期、頻繁に鼻水が出たり鼻づまりを感じていても、「花粉症だから仕方ない」「春は鼻がつまっているのが普通」と、あきらめている人もいるだろう。山崎千恵子さん(仮名・59才)も、鼻づまりに悩まされていたが、まさか危険な病気のサインだとは思わず、軽く考えていたという。
「2月にかぜをひいて、ドロドロした鼻水が頻繁に出ていたんです。体調が落ち着いてからも鼻水や鼻づまりが続いていましたが、今年は花粉の飛散が早かったので、そのせいだと思って気にしませんでした。ですが、日に日に、目の奥がズキズキと痛むようになって、だんだん目が見えづらくなってきたんです…」(山崎さん)
日本耳鼻咽喉科学会専門医の木村聡子さんは、「危ない症状だ」と警告する。
「かぜをきっかけに副鼻腔(ふくびくう)に膿(うみ)がたまることがありますが、その場所によって、目の神経にダメージを与えることがあります。悪化すれば失明する可能性もゼロではありません」
細菌が脳に入って炎症を起こす
副鼻腔とは鼻の周辺にある空洞で、左右にそれぞれ4対、合計8か所ある。その役割はまだ解明されておらず、頭の重さの軽減や、顔面を保護するためではないかと考えられている。
「鼻腔の奥にある副鼻腔は、普段は空気がたまっていて換気されています。しかし、かぜなどをひいて鼻の粘膜が腫れるとその換気がうまくいかなくなり、感染を起こすと膿がたまって、炎症を起こす。その状態が『副鼻腔炎』です」(木村さん・以下同)
30日未満で治る場合は「急性副鼻腔炎」といい、3か月以上続いたり、何度も繰り返す場合は「慢性副鼻腔炎」や「蓄膿症(ちくのうしよう)」と呼ぶ。
●副鼻腔炎で視力に異常を感じた場合は手術になることも
副鼻腔炎の症状は、炎症を起こす場所により変わってくる。目の奥に痛みがあり、視力に異常を感じた山崎さんは、目の間にある「篩骨洞(しこつどう)」が炎症を起こした可能性が高い。
「視力に異常が出た場合は、たまっている膿を内視鏡で取り除く緊急手術を行います。そのまま放置して視神経が傷つくと、視力が元に戻らなくなることもあります」
花粉症などのアレルギー性鼻炎やかぜの初期症状では、透明でサラサラした鼻水が出るのに対し、副鼻腔炎は、粘り気があり、黄色や緑っぽい鼻水が出る特徴がある。鼻水は出ないが、ドロドロした黄色い痰(たん)が3か月以上出るという人も、慢性副鼻腔炎の疑いがある。
「ですが、なかには鼻水も痰も出ず、人間ドックで脳のCTやMRIを撮ったときに初めて慢性副鼻腔炎だとわかる人もいます」
症状がなければ、放置しても構わないと思うかもしれない。しかし、命を脅かす事態につながることもある。耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長の井上泰宏さんは言う。
●重症化した慢性副鼻腔炎は、命にかかわる病気につながることも
「慢性副鼻腔炎が重症化すると、細菌が脳に及んで炎症を起こし、髄膜炎(ずいまくえん)や脳膿瘍(のうのうよう)など命にかかわる病気になることもまれに起こります」
さらに、長期間続く鼻づまりは、がんの疑いもある。JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則さんが説明する。
「非常に珍しいケースですが、いきなり片側の鼻だけがつまって鼻血が出る場合は、上顎洞(じようがくどう)がんや悪性リンパ腫の可能性があります。腫瘍によって鼻がつまり、その腫瘍から出血している状態です。ただし、体の成長とともに少しずつ鼻の中央の骨が曲がる『鼻中隔弯曲症(びちゆうかくわんきよくしよう)』の人も片側の鼻がつまりやすい。その場合は、鼻のかみすぎや乾燥で症状が出ることが多いのが特徴です」
→聞こえにくさを放置すると難聴や認知症に|耳かきやストレスが原因の場合も
「嗅覚」の異常が気になるとき
鼻の異常というと、やはりいま気になるのは、「におい」に関することだろう。
新型コロナウイルスに感染した阪神タイガースの藤浪晋太郎投手(25才)や、お笑いトリオ・森三中の黒沢かずこ(41才)は、「嗅覚」の異変を訴えたという。そうしたニュースによって、現在、耳鼻科の外来には患者が殺到しており、石井さんは冷静な行動を求める。
●耳鼻科では新型コロナの検査はできない
「新型コロナに限らず、かぜやインフルエンザに感染しても嗅覚障害は起こります。しかし急に嗅覚や味覚がなくなっても、耳鼻科では新型コロナの検査はできない。現時点では耳鼻科へは行かず、『帰国者・接触者相談センター』へ相談してほしいと日本耳鼻咽喉科学会も呼びかけています」(石井さん)
軽率な行動は、医療崩壊を招きかねない。37.5℃以上の発熱が4日以上続く、倦怠感や息苦しさがあるなど、厚生労働省が公表している新型コロナ感染症についての相談・受診の目安を参考にしてほしい。
●嗅覚は加齢とともに衰える
体調不良とは関係なく、嗅覚は加齢とともに衰弱する。一般的に60代前後からにおいを感じにくくなるというが、早ければ40代でも起こる。
「鼻にはにおいを感知する細胞がありますが、老化とともに減少します。また、細胞に栄養を送る毛細血管も減っていくため、程度の差はありますが、どんなに健康な人でも嗅覚が衰えていくのは避けられません」(木村さん・以下同)
●嗅覚障害が起こる病気の種類
嗅覚は、敏感であり続ける人ほど長生きするといわれている。ただしそれは、健康にハイリスクな喫煙習慣や糖尿病などの病気が嗅覚を衰えさせる一因になるからであり、嗅覚と寿命の直接的な関連性はまだ明らかになっていない。
「腎臓病や肝臓病の人も、嗅覚障害が起きやすい。パーキンソン病やアルツハイマー病のような脳神経系の病気でも、初期症状として嗅覚障害が起こるとされます」
慢性副鼻腔炎が原因で、「鼻茸(はなたけ)」と呼ばれるポリープができて、においを感じにくくなっている場合もあるという。自覚症状は鼻づまりがいちばん多く、粘り気のある鼻水が出てくる。
「副鼻腔内にできたポリープが、鼻腔まで顔を出しているような状態です。手術で副鼻腔をきれいにしてポリープを切除すれば、嗅覚が戻ることもありますが、そのまま放置していると、嗅神経の細胞が衰え、元のように嗅覚が戻らないこともあります」
また、交通事故や転倒などの頭部外傷によって突然においを感じなくなった人は、脳の嗅神経が損傷している恐れがあるので注意が必要だ。
さまざまなにおいを嗅いで嗅神経の活性化を
残念ながら、加齢による嗅覚の衰えを改善させる方法はいまのところない。できるのは、トレーニングによって嗅覚の衰えを予防することだ。
「花やコーヒー、腐ったにおいや焦げたにおいなど、さまざまなにおいを嗅いで、定期的に嗅覚に刺激を与えると、嗅神経の活性化になります」
臭いものに蓋(ふた)ばかりしていると、老化が進行しやすくなるので改めたい。
教えてくれた人
木村聡子さん/日本耳鼻咽喉科学会専門医。
石井正則さん/JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。
井上泰宏さん/耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長。
※女性セブン2020年4月23日号
https://josei7.com/
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