聞こえにくさを放置すると難聴や認知症に|耳かきやストレスが原因の場合も
なんだか最近、耳が遠くなった気がする…。老化のせいだからしょうがない、と思っていませんか?実は、“耳かきのしすぎ”や“ストレス”、“薬の副作用”など聞こえづらさの原因には、さまざまあるといいます。そして、きちんと対処しないと、認知症やうつ病を招くことになるといいます。
聞こえづらくなったらどのようにすればいいのか、どんな病気の可能性があるのか、専門医が答えてくれました。
40~60代の難聴は高確率で認知症を招く
嗅覚と同様に、聴覚も老化とともに衰える。北里大学医療衛生学部教授の佐野肇さんが、老人性難聴が起こる2つの原因を解説する。
「1つは、音の振動を脳に伝える『有毛細胞(ゆうもうさいぼう)』が加齢とともに減少するから。内耳(ないじ)にあるこの細胞が減ると、『聴神経』への刺激が減少するので、音が聞き取りにくくなります。その聴神経も、年齢とともに減っていくので、だんだん難聴になっていきます」
難聴の人は国内に1400万人いるといわれる。そして難聴は認知症のリスクを高めることがわかっている。
「難聴になると、音による脳への刺激や情報量が少なくなる上、人とのコミュニケーションが取りづらくなります。それによって孤立した生活が続くと、脳の萎縮や神経細胞の衰えが進んでしまう。難聴によって、うつ病になりやすくなる傾向もあります」(佐野さん)
補聴器でアルツハイマー予防効果も
2017年のアルツハイマー病協会国際会議では、「予防できる要因の中で、難聴は最も大きい危険因子」と指摘された。高血圧や視力障害、糖尿病といった病気よりも認知症に影響するというのだ。
JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長の石井正則さんが説明する。
「40~60代で難聴が始まった場合、放置すると、将来的に高確率で認知症を患ってしまう。40~60代で難聴が起きた人は、迷わず補聴器をつけることをおすすめします」(石井さん)
一度減ってしまった有毛細胞と聴神経は増やせないが、補聴器を使って聞こえる音を増やせば、聴神経への刺激になる。それによって老人性難聴の進行を遅らせ、認知症を予防することは可能だ。
「高齢者の中には、『補聴器を使うと耳が悪くなる』と嫌がる人もいますが、むしろ逆。ただし、きちんと調整されていない補聴器を使うと耳に必要以上の負担をかけてしまうので、病院か認定補聴器技能者のいるお店で購入した方がいいでしょう」(佐野さん)
補聴器は1万円程度のものから50万円以上するものまであるが、おすすめは10万円程度のものだという。
難聴の原因は日常生活に潜んでいる
また、難聴の原因は加齢だけではない。「外耳道真菌症(がいじどうしんきんしょう)」という、耳の入り口から鼓膜までの間にカビが感染して炎症を起こす病気は、耳掃除のしすぎが主な原因だ。鼓膜の奥に液体がたまる「滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)」は、小さな子供に多くみられるが、高齢者にも起こることがある。これらの症状は、病院で適切な治療を行えば、問題なく聞こえるようになる。
一方で、治療をしてもよくならない難聴もある。
「突然耳が聞こえにくくなる『突発性難聴』は年齢にかかわらず発症する病気です。ストレスや睡眠不足が関係しているといわれますが、原因がはっきりしておらず、治療をしても治癒率は40%程度です。ある日突然、低い音が聞こえにくくなる『低音障害型感音難聴』は、改善率は高いものの再発することが多い病気です」(佐野さん)
ヘッドホンの着用やパチンコ店の騒音のように、大きな音を長時間聞き続けることで発症する「騒音性難聴」も、聴力の回復は困難だ。
「一定以上の大きさの音を1日8時間以上、5~10年聞いていると、聴力が落ちていきます。コンサート会場の爆音によって一時的に難聴になり、そのまま治らないというケースもあります」(佐野さん)
うるさいと感じる場所では、耳栓を利用したい。さらに、薬を服用している人は、その種類によって耳に影響が及ぶことがある。耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長の井上泰宏さんが言う。
「利尿剤、解熱鎮痛剤の成分であるアスピリンなどの薬が聴神経にダメージを与えるといわれています。多くの場合は服用をやめれば元に戻りますが、アミノグリコシドというタイプの抗生物質、白金製剤を使っている抗がん剤に至っては戻らなくなることもあります」
聴力をキープするためにできること
耳のためにできる最善策は、いまの聴覚を維持すること。生活スタイルや健康状態が、耳を傷める原因になっていないか気に留めたい。それでも難しいのは、鼻や耳は、「手入れ」が逆効果になることだ。歯は毎日磨くが、鼻や耳はよけいな手入れが病気を招く。
「鼻毛は異物であるほこりや細菌、ウイルスをキャッチして外に出すフィルターなので、抜かない方がいい。鼻毛を抜いたことで毛穴から細菌が入り、炎症を起こす人もいます」(日本耳鼻咽喉科学会専門医・木村聡子さん)
耳掃除に関しても、日本耳鼻咽喉科学会は「不必要」と言い切っている。放置せず、構いすぎない。適度な距離感が長生きのコツだ。
教えてくれた人
佐野肇さん/北里大学医療衛生学部教授。
石井正則さん/JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長。
井上泰宏さん/耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長。
※女性セブン2020年4月23日号
https://josei7.com/
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