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毒蝮三太夫「二枚目じゃないんだから、笑顔は惜しみなく!が大事」【第9回 妻へのハガキ】

 ひとつ年上の妻・みさをさんとの結婚生活は、今年で59年目。なんとまむしさんは1か月に1~2回、奥様宛てにハガキを書いてポストに投函しているという。「63円で機嫌がよくなるんだから安いもんだ」とテレながら笑うが、もらった側はどんなに嬉しいことか。愛妻への想いや行動を通じて、身近にいる大切な人とのコミュニケーションの取り方を考えてみよう。(聞き手・石原壮一郎)

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ウチの冷蔵庫には俺が出したハガキが何枚も貼ってある

 べつに人に勧めようとかじゃなくて、あくまで俺は顔に似合わずこんなことしてるっていう話なんだけど、カミさんに宛てて月に1回か2回、ハガキを出してるんだ。たいしたことは書いてないよ。「あなたは夏が苦手だけど、もうすぐ過ごしやすい秋がやってきますね。からだには気をつけてください」とか「転ばない、風邪ひかないを守って、お互い元気に過ごしましょう」とか、たあいもないことかな。

 始めたのは、そうだなあ、15年ぐらい前かな。年賀状が一枚余ってて、そういえば身近な人からハガキもらうなんてことはないから、俺からカミさんに出したら喜ぶかなと思ったんだよ。もちろん、ちゃんとポストに投函する。差出人のところに「世田谷の皇太子より」なんて書いてさ。

「ほらよ」って手渡しすればよさそうなもんだけど、やっぱり消印が押されてたほうが気分が出るじゃない。でも、以前その差出人の名前が雨でにじんでいて、カミさんは「あれ、世田谷の明太子?」って読んでさ。それでもうれしそうだったよ。

 最近、ハガキが届いてもカミさんは何にも言わないけど、何枚かは冷蔵庫の横にマグネットで貼ってあるから、俺も「ああ、読んだんだな」ってわかる。ハガキの効果は予想以上だった。届くとしばらく機嫌がいいんだよね。63円にしちゃあ上出来だよ。あと50、60円分の切手を余計に貼っても惜しくないな。

60年近く連れ添う妻には感謝しかない

 こんな俺と60年近く連れ添ってくれてるカミさんには、本当に感謝しかない。料理や洗濯はもちろん、お金のことやいろんな付き合いも、みんなやってくれている。オヤジやおふくろの最後のほうは、病院に泊まりがけで介護してくれた。頭が上がらないよ。

 でも「お前には心から感謝してるよ。俺はいいカミさんをもらったよ」なんて、面と向かってなかなか言えないじゃない。なんか今際(いまわ)のきわみたいになっちゃうしさ。だからまあ、間接的に感謝の気持ちが伝わればいいなと思って、とりとめのないことを書いたハガキを送ってるんだけどね。たぶん気持ちは伝わってるんじゃないかな。

 夫婦だけじゃなくて親子の関係も同じだけど、人ってのは身近にいる大事な相手ほど、つい粗雑に扱う傾向があるよね。とくに男はそうだ。お茶を淹れてもらっても、黙ったままで顔も上げないとかね。口に出して「ありがとう」とか「うまいお茶だな」なんて言わなくても、わかってくれるだろう、許されるだろうっていう甘えがあるんだろうな。

 だけど、お茶を淹れてもらった上に、こっちの気持ちまで想像しろっていうのは、そりゃ図々しいってもんだ。こっちが高倉健や石原裕次郎ぐらいの二枚目だったら相手も文句ないかもしれないけど、ただのジジイだからな。何をしてもらっても当たり前のような顔して、自分に関心を持とうともしない相手に、愛情なんて持ち続けてくれるわけがない。

 身近にいる相手ほど、手抜きしないで、意識してちゃんとコミュニケーションを取ることが大事なんだ。何かしてもらったら「ありがとう」、手の込んだ料理が出てきたら、たとえ口に合わなくても「なかなかの味だね」とか。ちょっとしたことだけど、効果あると思うよ。あとは笑顔を出し惜しみしないことだな。笑顔はタダなんだから。

 こんなこと言うと、「そこまでしてあんなヤツのご機嫌を取りたくない」なんて言ってくるジジイがいる。ババアもいるな。違うんだよ。相手のために「やってあげてる」わけじゃないんだ。身近な相手が機嫌よくしてくれてたら、こっちだって気分よく毎日を過ごせる。結局は自分のためなんだよ。情けと同じで、気づかいや笑顔は人のためならず、ってな。夫婦でも親子でも、お互い様なんだよ。

■今回の極意

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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう) 

1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からTBSラジオの「ミュージックプレゼント」でパーソナリティを務めている。83歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など幅広く活躍中。

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう) 

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではまむしさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。

撮影/政川慎治

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このシリーズを読む

第1回 ありがたい存在
第2回 ヨイショ
第3回 みんな図書館
第4回 戦争体験
第5回 高齢者との付き合い方
第6回 日野原重明さんに教えてもらった大切なこと
第7回 親との正月
第8回 寅さんと俺

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