倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.93「夫がハワイで見たもの」
漫画家の倉田真由美さんは、在宅医療を活用しながら夫を自宅で看取った経緯を新著『夫が『家で死ぬ』と決めた日 「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』にまとめた。著書の中では「夫をハワイ旅行に連れて行ってあげればよかった」という後悔も綴られている。そんな叶井さんのハワイにまつわるエピソード。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』ほか、著書多数。
夫の旧友から連絡が
まったく名前に覚えないAさんというかたからDMが届きました。
開いてみると、夫の旧友のかたでした。
「俊太郎とは10代の頃よく一緒に遊んでいました。葬式に行けなかったので、線香あげに行きたいのですが」
という内容でした。実はうちには夫の骨壷はあるけど仏壇はありません。その旨お伝えしてやり取りしている中で、夫のハワイ時代の話が出てきました。
夫は20代前半の頃、2年間ほどハワイにいました。理由は「東京ではないところで遊びたいから」。
当時はバブルで夫の父親の懐事情もよく(後年、夫と同じように破産したと聞きました)、夫のわがままが通って留学費用を出してもらったそうです。ハワイでは専門学校のようなところに通ったそうですが、日本人の遊び仲間とばかりつるんでいて、英語はほとんど習得できないままでした。実際、夫は私と外国映画を観る時も字幕は必須でした。
夫が友達とハワイで見たもの
「ハワイに遊びに行った時、俊太郎に案内してもらったんですよ。UFOも見に行きました」
「UFO!?その話、夫から聞いたことあります!」
夫と結婚して間もない頃、過去の四方山話を聞く中に、
「俺、UFO見たことあるよ」
というのがありました。私は幽霊やUFOといった存在が曖昧なものをあまり信じていないので、「それは何かを見間違ったんだよ」と否定的な言葉で返しましたが、夫は「いや、あれは間違いなくUFOだった」と譲りませんでした。
「UFO、見たんですか?」
Aさんにメールで尋ねたところ、「見ましたよ」と返信がありました。どうしても詳細を知りたくて、「その話、詳しく聞かせてくださいませんか」とお願いすると、
「もちろん、いいですよ」
ご快諾いただき、お茶を飲みながら話をしていただくことになりました。
夫から聞いたUFOの話は随分前なのと、私は存在を信じていないから話半分で聞いていたのとで、今となってはどんな状況だったかよく分からなくなってしまっていました。
「夫がハワイでUFOを見た話」は、もう二度と詳細を知れない、でも知りたかった話の一つです。
写真や動画でもそうですが、「自分が撮ったもの」は、たとえ時を経て記憶が薄れても見返すことでその時の様子が瑞々しく蘇ります。夫はメディアに出ることもある人だったのでネット上を探せば私の知らない写真や動画はあるでしょうが、それよりも自分が撮ったもののほうが私にとってはずっと価値があります。元々記憶の中にあるものだから、懐かしむことができるから。その頃に浸ることができるから。
今回、Aさんに是非話を聞かせてもらいたいと思ったのも、UFOを見た話は夫から聞いたことがあったから。昔確かに聞いた、でも詳細は思い出せない。だからこそ、この機会を逃さず聞かせてもらうことにしました。
他にも知りたい、夫に聞き直したい話はいくつかあるんだけど、Aさん知らないかな…と思いながら、指定された川沿いの喫茶店に行きました。(次回につづく)