あちこち痛い!の正体は“筋肉のトリガーポイント”? 痛みを緩和するセルフケア方法を専門家が解説
年を重ねるごとに腰、首、肩、ひざと体のあちこちに痛みやしびれが出てくる。年齢のせいだと諦めてしまいがちだが、「それらの痛みはすべて自力で改善できます」と言う医師がいる。痛みの見極め方と改善する方法をお伝えする。
教えてくれた人
北原雅樹さん/横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科(※)「痛み外来」部長・診療教授
※かかりつけの医療機関からの紹介とファックス受付による完全予約制。
推定2000万人が悩む「慢性痛」
「痛み難民の駆け込み寺」と呼ばれる横浜市立大学附属市民総合医療センターペインクリニック内科で「痛み外来」の部長・診療教授を務め、日本の痛み治療の第一人者と称されるのが北原雅樹医師だ。
『あちこち痛い! が自分で治せる! 一生役立つ痛みほぐし地図大全』(文響社)の著書を持ち、数多くの患者の痛みに向き合ってきた北原医師はこう語る。
「全身の各部位で長期にわたって痛みが続く『慢性痛』に悩む患者は推定2000万人と言われています。本来、適切に対処すれば痛みを改善できるのですが、時に間違った診断をされることもあり、辛い痛みを抱えたまま生活している」
鎮痛薬をずっと飲んでいるのに痛みが引かない、治療は終わったのに痛みが長引くといった場合、対策を間違えている可能性が高いという。
「慢性的な腰痛を抱えた人が整形外科などで画像検査をすると高確率で『腰部脊柱管狭窄症』や『椎間板ヘルニア』と診断されますが、それが本当の痛みの原因ではないことが少なくない。
ある研究では、腰痛がない60才にMRI検査をしたところ60%の確率でヘルニアが見つかったと報告されています。つまり、ヘルニアを抱えていてもそれが痛みの原因とは限らず他の原因を探らなければならないのですが、残念ながら日本の医療現場では徹底されていない」(以下、「」内は北原医師)
痛みの原因を知るためには、まず急性の痛みなのか慢性的な痛みなのかを見極めることだ。
「急性痛はケガや火傷、胃炎、胃潰瘍や虫垂炎、ぎっくり腰のように急激に痛み、夜も眠れないような苦しみを抱えるケースがあるのが特徴です。大抵の場合、血液検査で組織の損傷など痛みの原因を特定できる。対して慢性痛はケガや治療が完了していても原因不明のまま痛みが3か月以上続くのが特徴。火災報知器にたとえると、火元は消火しているのに警報音だけが鳴り響いている状態です。長期的な体の痛みは、基本的にこの慢性痛に該当します」
急性痛と慢性痛を自分で見分けるポイント
【急性痛の特徴】
ジンジン、ズキズキ痛む
<ポイント>
骨折やケガなど原因が明確で鋭い痛みが走る
夜眠れなくなるほど痛む
<ポイント>
睡眠薬を飲んでも眠れないこともあり、その場合は大病が隠れている可能性もあるので病院に行く
数日から数週間で痛みが治まる
<ポイント>
長引いても2週間ほどで痛みが取れる
鎮痛薬が効く
<ポイント>
ロキソプロフェンなどの鎮痛薬で痛みが一時的に治まる
【慢性痛の特徴】
3か月以上あちこち痛い
<ポイント>
ずっと何となく痛む、眠れないほどではないが体のあちこちが痛いと感じる
ケガや病気の治療をしても痛みが取れない
<ポイント>
ケガの炎症が治ってもだらだらとケガの周辺が痛む。湿布や飲み薬なども効果がない
温めたりストレッチをすると少し楽になる
<ポイント>
痛む場所を手で押さえたり温めると痛みが一時的に治まる
ズーンと重い痛みを感じる
<ポイント>
体が重い、こっているような鈍い痛みを感じる
トリガーポイントをほぐして痛みを改善
慢性痛は長年にわたる体への負担を原因として、その痛みが様々な箇所に現われることだと北原医師は言う。
「近年、慢性痛の約8割が『筋・筋膜性疼痛(とうつう)』が原因であることが分かってきました。筋肉や内臓を覆う薄い膜である『筋膜』は全身タイツのように全身の筋肉と骨、筋肉と神経を繋ぎます。長年のデスクワークや重い物を担ぐ動作などを通して筋肉がこり固まると筋肉や筋膜に索状物(しこり)ができ、これが痛みを生じさせます。ストレスや不安も痛みの原因になることが分かっています。
痛みは神経を通して広がり、しこりの周囲に『放散痛』、しこりから遠い場所に『関連痛』と呼ばれる痛みやしびれを生じさせるため、“あちこち痛い”状態を生むのです」
この筋・筋膜性疼痛は自力で改善できると北原医師。
「筋膜や筋肉のしこりは『トリガーポイント』と呼ばれ、体の痛む箇所から逆算して特定できます。これをストレッチやマッサージでほぐすことであちこちに広がった痛みを改善できるのです。ストレッチやマッサージでは届かない深い場所にできたしこりは鍼治療や注射で対応します」
自力でトリガーポイントを突くにはどうすればいいのか。
「しこりを手指で押さえて離すを繰り返す『押圧ほぐし』を左右1分ずつ1セットとして1日3セット行ないます。手が届きにくい場所はテニスボールやマッサージローラーを使うと効果的です」
“あちこち痛い”慢性痛を自力で解消する方法
<トリガーポイントのほぐし方>
【1】トリガーポイント(痛みの発生源)を指で探す
【2】トリガーポイントを押すとツンとした痛みを感じるのでそれが目印になる
【3】親指や中指で押す・離すを左右1セット1分ずつ行なう(1日3セット)
【4】こぶしや手のひら、テニスボールを使って行なってもいい
<効果的なほぐし方1>手が届かない場所はテニスボールを使う
背中などの手が届かない場所はテニスボールを壁で挟んで行なうと効果的
<効果的なほぐし方2>効率的に行なうならマッサージローラー
マッサージローラーを使うと広く効率的に押すことができる
イラスト/河南好美
※週刊ポスト2025年10月17日・24日号
