介護経験者600人の介護実態明らかに|5人に1人が「多重介護」経験、8割が心身共に負担
介護している一般の人がどのような状況にあり、どう感じ、実際にどういったサービスを利用しているのかなど「介護に関するアンケート調査」を民間企業が行った。その結果、「5人に1人は要介護の家族を複数抱えた経験がある」、「8割の人が心身両面で負担を感じている」などの実態が浮かび上がった。
心身ともに負担を感じている人が8割いる
今回の調査で対象となったのは、全国の40~70代以上の介護経験者616人。主に介護生活の実態と金銭面に関することを、インターネットを通じて回答してもらっている。アンケートを実施したのは介護資格学校「日本総合福祉アカデミー」を運営する株式会社ガネット(本社・東京都渋谷区)。
アンケート結果から浮かび上がってきたのは、介護を行っている人たちにのしかかっている負担が非常に大きいという点。驚くのは回答者の5人に1人が、「多重介護」(複数の人を介護すること)を経験していること。さらに、ほとんどの人が「介護は心身の負担になった」と感じている。こうした状況を軽減するために介護サービスが存在するが、施設やサービスの利用率は高いものの、給付金制度などについてはまだ認知度が低いという結果となった。
それでは、個々の質問についてくわしく見ていこう。
まず「最大で、同時に何人の介護をしていますか、またはしていましたか」という質問への答えをまとめたものが、以下のグラフ。
回答で最も多かったのは「1人」(77.3%)だ。一方で、2人以上を同時に介護していた人は22.7%。これは5人に1人が、2人以上を同時に介護していたことになる。意外なほど多いのではないか。中には4人以上という過酷な状況の人も複数いた。
介護が発生すると、介護保険の申請、デイサービスなどへの送迎、介護食作り、入浴やトイレなど多くの作業が必要となる。複数人の介護を同時に行う場合の負担の大きさは想像に難くない。
介護にかかる費用もかなりの額になると考えられる。生命保険文化センターがまとめた「生命保険に関する全国実態調査(平成30年度)」では、介護の平均期間である54.5か月で介護費用を算出すると、1人あたりの総額は約500万円。要介護の家族が複数いれば、作業だけでなく費用も人数分だけ増えていくことになる。
実際、「介護をしている中で、身体的・精神的にどのくらい負担を感じましたか」という質問には、8割の人が「負担を感じている」という回答があった。
「ストレス介護」「疲労介護」…など介護者の思い
さらに、「介護の際に感じる不安」についての質問には、「自分の健康状態が悪化するかもしれない不安」(43.0%)、「介護と仕事の両立ができるか不安」(41.8%)、「資金などの準備ができるか不安」(38.0%)という回答結果(複数回答)となった。
不安を抱えながら介護をしている人の多さが改めて浮き彫りになっている。
また、自身の介護状況を『○○介護』という言葉で表すと、どのようになるかという質問に「ストレス介護」「疲労介護」「疲弊介護」といった、ネガティブな表現が多く見受けられ、介護する側の辛い状況を物語っている。
介護の公的支援はまだ認知度の低いサービスも
介護による負担を軽減するために、各種のサービスや公的制度が用意されている。それらがどれくらい利用されているかの調査も行われた。「介護サービスで知っているものを全て選んでください」「実際に利用したことがある、利用する予定があるものを全て選んでください」という2つの質問(複数回答)に対する回答は以下の通りだ。
グラフ右側が「利用したことがある」、左が「知っている」の数値。項目は左から「訪問介護」「デイサービス」「ショートステイ」「老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」「費用負担を緩和する助成金」「介護休業給付金」「地域包括支援センター」について。
多く認知されている介護サービスは「デイサービス」、「ショートステイ」、「訪問介護」など。施設関係では「老人ホーム」、「サービス付き高齢者向け住宅」といったものがあがった。特にデイサービスと訪問介護は、ほぼ全員が利用するほど利用率が高かった。
しかし「費用負担緩和の助成金」、「介護休業給付金」といった、資金面のサービスについては認知度が3~4割と低い傾向が見られた。利用率も低く、「費用負担を緩和する助成金」は9.7%、「介護休暇給付金」にいたってはわずか2.4%だった。
仕事との両立や家計の負担減のためにも、様々な制度の利用は役立つはずだが、必要な人に周知されていないというのが現状だ。
自分自身の介護の備えはどうしているか?
では、介護をしてきた人たちは、自身の介護に対し備えているのだろうか。介護される側になったときのための貯蓄に関する質問には、約6割が「自分の老後に向けて貯蓄をしている」と回答があった。
また、貯蓄額についての回答は以下のグラフの通り。
「2000万円以上」と回答した人は約3割。
同社ではこの結果について「多くの介護経験者が介護の不安として資金面の不安を挙げていたことから、自身の将来に向けて貯蓄をしている人が多い傾向にあるといえそう」と分析している。
多重介護と介護疲れ、費用の問題など、超高齢社会の日本の介護の現状は、まだまだ課題が山積だ。
取材・文/介護ポストセブン