介護される側になることも考えるようになりました|あっけらかん×しれっと 人気介護ブロガー対談【第3回】
人気介護ブロガーの工藤広伸(くどひろ)さんとなとみみわさんによる対談の最終回は、自分たちが介護される将来のことにまで話が及んだ。とはいえ、2人とも介護される立場になることや老いを遠い将来のこととは捉えていなかった。介護経験があるからこそ老いや死を身近に感じられるようになったという2人からの大切なメッセージを受け取ってほしい。
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遺された妻のために遺言を作成
――お2人は自分が介護される側になったときのことを考えることはありますか?
なとみさん(以下、敬称略) いつも考えていますよ。ばあさんの姿を見ていたから、優しいおばあちゃんになろうと思っています。もしも介護をしてくれる人から「オムツにしたほうが…」なんて言われたら、自分から率先してはきますから! そのほうが介護する人が楽だから。ただし、息子のことは1ミリもアテにしていません。
工藤さん(以下、敬称略) 今20代の息子さんが30代、40代になったときには全然違う考え方になっているかもしれませんよ。自分たちだって、若い頃とは全然違うじゃないですか。
なとみ うちの息子はどうなんだろう。くどひろさんは、将来のことって考えます?
工藤 うちは子どもがいないので、最近遺言を作りました。公証役場に行って10万円くらいかかりました。
なとみ まだ若いのに遺言?
工藤 僕の父も遺言を作ろうとしていたのですが、遺言を書き始めた2日後、僕が東京に戻っている間に亡くなってしまった。それで結局書き切れなかったので、歳をとってからでは遅いと思ったのです。それに、今僕が亡くなると相続するのは奥さんと母親なんですが、母親は認知症なので後見人を立ててさまざまな手続きをしなければいけません。僕も後見人手続きをやったことがありますが、あの面倒な手続きを奥さんにさせるのはあまりに気の毒で。今遺言を残しておけば奥さんに手間をかけることなく、全てを奥さんに遺すことができるので今やりました。
なとみ 愛ですねぇ。
工藤 そんな風に自分が亡くなった後のことを考えるようになったのは、やっぱり介護を経験したからだと思います。
時間は有限だと知っているから今が大事
なとみ 私は、自分が死ぬまで後どれくらい時間があるだろうかと考えるようになりました。たぶん終活に入っているんだと思います。だからといってマイナスなイメージじゃない。たぶん遺言もそうですよね。
工藤 そうです、そうです。時間は有限だという意識がすごく強くなった。
なとみ 私もそれはすごく思います。ばあさんは急に亡くなってしまったし、私は父親も早くに亡くしているので、人って意外とあっけないと思っています。こちらがどんなに死なないでほしいと思っても絶対にそれは無理で、死んじゃうときは死んじゃう。
工藤 そうなんですよ。だから、時間を大切にしなければということはすごく強く思っています。最近は、朝起きると「あ、今日も目が覚めた!起きられて良かった」と思う。
なとみ ますます神様っぽい(笑い)。
工藤 朝起きて、スマホで盛岡の母親の様子をチェックして「あ、母親も起きてる」と思うだけで、今日もいいなと思える。何か明確なきっかけがあったわけではないけれど、たぶん祖母と父を看取ったことは影響していると思います。若い人が亡くなったニュースに接することも多いですし、人ってあっけなく死ぬんだとどこかで思っているのでしょうね。
なとみ ばあさんは軽い脳梗塞で倒れて入院したけれど、そろそろ大丈夫そうだからと退院のカンファレンスも終わって、家で介護するつもりで全部揃えてあったのに退院する日の夜中に亡くなってしまった。こちらは「さあ、来い!」と待っていたのに。そんな風に急にいなくなってしまったので、「え?死んじゃうの?」ってかなり焦りました。そう思うと、自分だって何があるかわからないですよ。
工藤 でも、介護が始まるまでは他人事ですよね。本の中でも「他人事ではなく、40代後半から50代で始まるぞ」と繰り返し書いていますけれど、なかなか響かないようです。
なとみ ところが、50歳くらいになると誰でも介護が始まっていて、みんな困っている。そういう人たちが集まって飲み会をすると、めちゃくちゃ楽しい。そういえば、くどひろさんとも介護飲み会をしましたよね?
工藤 そうでしたね。すごい楽しかった。
老いも死も当たり前。介護は恥ずかしいことじゃない
――最後に、今現在介護で苦しんでいる人たちに伝えたいことはありますか?
工藤 認知症の人とその家族が気軽に立ち寄れる“介護カフェ”“認知症カフェ”というものがあって、そういうところを利用するのはおすすめです。でも、そういうカフェの情報を得られない人も多いので、僕の本の中ではおすすめできるカフェや行かない方がいいカフェの見分け方を紹介しています。例えば、何十年と介護をしている “介護戦士”と呼ばれる人がいるようなカフェは避けたほうがいいですね。彼らはすごい知識と経験があるんですけれど、自分がしゃべるばかりでこちらの話なんて聞かないですから。わざわざカフェに行ったりしなくても、ツイッターもフェイスブックといったSNSやネット情報も有効だと思います。ネット上には役立つ介護情報が飛び交っていて、顔も知らないけれど相談し合える仲間がたくさんできますよ。
なとみ 私は「自分1人で抱え込まないで!」と言いたい。特にそう伝えたいのは、最近母と同居を始めた姉です。うちの母は要支援1ですが、その範囲で使えるサービスは全て使って、わからないところはプロの意見を聞いて、できるだけ自分の負担を減らしてほしい。特にうちの母はすごい人なので(笑い)、ちょっとでも母と姉の様子を見に行って、できることがあればお手伝いしたいなぁ。私も介護のプロではないので、何ができるかはわかりませんけどね。そんな姉に「母の漫画を描くからね」って言ったら「え〜、恥ずかしい」って言われまして。そうか、恥ずかしいのか……と。
工藤 「介護をしている、介護を受けているなんて恥ずかしい」という声は本当にあるあるです。最初は恥ずかしいと言っていても、ちょっと話してみたら「うちも、うちも」となって「うちだけじゃない」とわかるはずです。でも、お姉さんのことは今このタイミングで気づいて良かったんじゃないでしょうか。
なとみ だって、ちっとも恥ずかしいことじゃないですからね。介護とか言ってしまうと大事になってしまうけれど、老いて死ぬのは当たり前のことで、そのときに家族として一緒にいられるのはすごくいいことじゃないですか。だから、私たちも「みんなやるから大丈夫」ということを発信していけるといいかもしれない。
工藤 そう。完璧でない僕たちだってやっていると思ってもらえればいいですね。
なとみ それで、くどひろさんみたいに、朝起きて「生きてる」って思える毎日がいいな。私も明日から真似しますね。
工藤 それで毎日ちょっと幸せに感じるのでおすすめです。
なとみみわ
イラストレーター、漫画家。雑誌、書籍、ムック、広告等を中心に活躍するほか、オリジナルキャラクターの制作も行う。義母“ばあさん”や家族との日々や離れて暮らす実母との関係を綴ったブログ「あっけらかん」が人気。著書は『まいにちが、あっけらかん。――高齢になった母の気持ちと行動が納得できる心得帖』(つちや書店・佐藤眞一監修。
ブログ「あっけらかん」https://ameblo.jp/akkerakan/
オフィシャルサイト http://www002.upp.so-net.ne.jp/natomi/index.html
工藤広伸(くどう・ひろのぶ)
40歳のときに祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護を始め、2013年3月に介護退職。祖母死去後、現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。著書は『認知症介護を後悔しないための54の心得』『認知症介護で倒れないための55の心得』(廣済堂出版)など。
ブログ「40歳からの遠距離介護」 https://40kaigo.net/
撮影/松本幸子 取材・文/牛島美笛