ファイトケミカルスープの効果は? 作り方とアレンジレシピ|麻布医院 高橋弘さん
野菜の持つ力を最大限にいかした”ファイトケミカルスープ”。免疫力を高めるほか、がんや糖尿病予防などさまざまな効果があると注目されている。ファイトケミカルスープの第一人者であり、『免疫力を上げる! ハーバード大学式 命の野菜スープ 新型コロナウイルスに勝つ!』の著書もある麻布医院院長で医学博士・高橋弘さんに、効果や作り方を指導いただいた。
10年前に乳がんを経験した本誌記者(59才・その後、再発なし)が、各種治療とともに真剣に取り組んだのが「食生活の見直し」。食生活が、がん予防にいかに大切か、自らの体験を踏まえ、”ファイトケミカルスープ”についてレポートする。
ファイトケミカルスープとは?
植物が、紫外線や昆虫などから身を守るために作り出す色素や香り、辛みなどの成分「ファイトケミカル」。この成分が、がんや糖尿病など、さまざまな病気の予防に効果があると注目を集めている。
このファイトケミカルに早くから着目し、医療の現場に取り入れてきたのが、医学博士の高橋弘さんだ。
高橋さんは4種類の野菜(にんじん、玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃ)を使った「ファイトケミカルスープ」を推奨している。その理由を聞いてみた。
ファイトケミカルスープを考案した理由
――ファイトケミカルスープを医療に取り入れたきっかけは何ですか?
高橋さん(以下、敬称略) がんの患者さんや、そのご家族から「何を食べたらいいですか?」とよく質問されたのがきっかけです。私が診る患者さんの多くは体力が落ち、食も細かったので、「液状のものなら食べやすいのではないか」と考えました。
そこでアメリカの国立がん研究所が発表した、がん予防効果がある40種類の植物性食品「デザイナーフーズ・リスト」(表参照)をベースに食材を選び、ファイトケミカルスープを考案したんです。
●がんの予防効果が高い食品「デザイナーフーズ・リスト」
――ハーバード大学で学ばれたことは?
高橋 私はデザイナーフーズ発表の5年前にアメリカのハーバード大学の医学部に留学して、アメリカ人の食生活の劇変を目の当たりにしました。
それまでのアメリカは生活習慣病が蔓延していて、世界での平均寿命が26位という悲惨な状況でした。これに危機感を抱いた米国は、食を科学的に解明する研究をスタートさせ、1977年に「マクガバンレポート」を発表。
がんや心疾患、脳卒中、糖尿病などの病気は、食事や生活習慣が原因であること。その防止には塩分、砂糖を減らし、飽和脂肪酸の過剰摂取をやめて、野菜摂取量を増やすことが必要だということが示されました。
その後、1990年には国家プロジェクトとして、がんを予防する食品を研究し、「デザイナーフーズ・リスト」を発表します。その効果は絶大で、アメリカ人の発がん率、がんの死亡率が減少しました。
一方で日本は発がん率が増え続けている。そこで私はこのリストを取り入れたスープを考えました。
そもそもファイトケミカルとは?
ファイトケミカルが、どんな食べ物に含まれているのか、以下で詳しく解説する。
●ポリフェノール
強力な抗酸化作用があり活性酸素を無毒化する。血液をサラサラにするケルセチンや骨粗しょう症を予防するイソフラボンなどを含む。
・アントシアニン(ブルーベリー)
・イソフラボン(豆腐)
・ケルセチン(玉ねぎ)
●イオウ化合物
アブラナ科やユリ科野菜に多い辛み成分。がん細胞の自滅死を誘導するイソチオシアネートや、がん抑制効果の高いアリインなどを含む。
・アリイン(にんにく)
・イソチオシアネート(キャベツ)
●アミノ酸類
心臓機能強化や肝臓の解毒機能を強化するタウリン(魚介類に多い)、抗酸化作用や解毒作用を持つグルタチオンなどを含む。
・グルタチオン(アスパラガス)
・タウリン(いか)
●カロテノイド
植物の色素成分。抗酸化作用やがん抑制作用の強いα-カロテン、免疫力を高めるβ-カロテン、抗酸化作用の高いリコピンなどを含む。
・リコピン(トマト)
・α-カロテン、β-カロテン(にんじん)
・ルテイン(ほうれん草)
●糖関連物質
抗がん作用や免疫力を高める働きを持つ。便通をよくし、感染症やがんを抑制するβ-グルカン、免疫力を増強させるフコイダンなどを含む。
・フコイダン(昆布)
・ペクチン(柑橘類の皮)
・β-グルカン(しいたけ)
●香気成分
柑橘類に含まれるリモネンは、交感神経を刺激する効果があり、血行を促進させ、ストレスを緩和。免疫力の増強作用も報告されている。
・リモネン(レモン、グレープフルーツ)
ファイトケミカルスープの効果とは
高橋 特にがんの抑制効果の高いキャベツ、にんじん、玉ねぎの3種類に、ビタミンEを多く含むかぼちゃを加えました。
1日に必要な野菜の摂取量は350g以上なので、各100g、合計400gを1日の量とすると、ビタミンA・C・Eなど1日に必要な栄養素がほぼ摂取できます。
免疫力を高める成分も多く含まれ、このスープを患者さんたちにすすめると、これがびっくりするほど効果がありました。今でも治療の一環として推奨しています。
高橋 まず野菜は硬い繊維でできた細胞壁に守られているので、この細胞壁を壊さないとファイトケミカルを効果的に摂取できません。壊す方法としていちばん簡単なのが加熱すること。スープなら簡単に作れて食べやすく、400gの野菜を容易に摂れる。抗酸化力もスープにすると10~100倍に上がるといわれています。
この4種類の野菜で作ると、食物繊維やカリウムも目標量の半分が摂れます。また一年中手に入る食材で作れるのも魅力です。
脂肪肝やダイエットにもいいの?
高橋 効果としては、便秘の解消、体重減少、免疫力の強化、アレルギーや炎症の抑制、血液サラサラ作用、動脈硬化予防、肥満や糖尿病、高脂血症、脂肪肝の改善、血圧を下げる効果、そして、がん抑制効果などがあります。
ファイトケミカルスープには、未病を防ぐ自然の力が秘められています。ただし、その効果を引き出すためには、素材選びが重要です。なるべくオーガニック野菜など安心安全な質のよい食材を選んで作る。それがおいしく食べられて病気を予防する最大の方法だと思います。
ファイトケミカルスープ基本の作り方
●ファイトケミカルスープ4種の野菜の栄養素とは
玉ねぎ
抗酸化作用の高いケルセチンを多く含み、がんを予防し、がん細胞の増殖を抑える働きを持つ。
キャベツ
発がん物質を解毒するイソチオシアネートを多く含む。大腸がん、前立腺がんなどのがん細胞を自滅へ導く効果がある。
にんじん
抗酸化作用の高いα-カロテン、活性酸素を除去して免疫細胞を活性化させるβ-カロテンなどを含む。
かぼちゃ
免疫細胞を活性化させるβ-カロテンや、抗酸化作用のあるビタミンC・Eなどを豊富に含む。
●4種類の野菜で作るファイトケミカルスープのレシピ
4種類の野菜で作るファイトケミカルスープ
<材料>(1人×1日分)
キャベツ……100g
にんじん(皮つき)……100g
玉ねぎ……100g
かぼちゃ(皮つき)……100g
水……1L
<作り方>
【1】材料を一口大(食べやすい大きさ)に切る。芯の部分も細かく刻んで使う。
【2】鍋にキャベツ、にんじん、玉ねぎ、水を入れて約10分ほど煮込む。
【3】かぼちゃを【2】に加えて、さらに20分ほど煮込めば出来上がり。
※調味料は基本的に入れず、野菜の味のみで楽しむ。薄味に慣れていない人は、カレー粉やハーブ類、香辛料などで味を調節するとよい。
ファイトケミカルスープのアレンジレシピ4選
●たらとブロッコリーのスープ
<材料>(1人×1日分)
たらの切り身(白身魚)……1枚
ブロッコリー……3~4房
<A 基本のファイトケミカルスープ>
キャベツ……100g
にんじん(皮つき)……100g
玉ねぎ……100g
かぼちゃ(皮つき)……100g
水……1L
<作り方>
【1】たらの皮目に切り込みを入れる(骨があるものは取り除く)。
【2】Aとブロッコリーを鍋に入れ、ブロッコリーがやわらかくなるまで煮る。
【3】【2】にたらを加え、たらに火が通ったら出来上がり。
●ポタージュ
<材料>(1人×1日分)
粗挽きこしょう……少々
〈A 基本のファイトケミカルスープ〉
キャベツ……100g
にんじん(皮つき)……100g
玉ねぎ……100g
かぼちゃ(皮つき)……100g
水……1L
<作り方>
【1】Aをミキサーにかけてなめらかになるまで撹拌する。
【2】【1】を鍋で温め、こしょうを振れば完成。
●インド風カレースープ
<材料>(1人×1日分)
キャベツ……100g
にんじん(皮つき)……100g
玉ねぎ……100g
トマト……150g
絹さや……70g
にんにく(する)……小さじ1/2
しょうが(する)……小さじ1/2
水……1L
カレー粉……大さじ1
(好みの量で調節)
レモン汁……大さじ1
(好みの量で調節)
<作り方>
【1】キャベツ、にんじん、玉ねぎ、トマトを一口大に切る。
【2】【1】のキャベツ、玉ねぎ、にんじんと、にんにく、しょうが、水を鍋に入れて約5分煮る。
【3】絹さやとトマトを加え約5分煮る。
【4】カレー粉、レモン汁を入れて混ぜ、ひと煮立ちさせれば完成。
●鶏手羽中と野菜のスープ
<材料>(1人×1日分)
キャベツ……100g
にんじん(皮つき)……100g
長ねぎ……1本
しょうが……2かけ
鶏手羽中……6本
柑橘類(グレープフルーツ、温州みかんなど)……100~150g
水……1L
<作り方>
【1】キャベツ、にんじんは細切り。長ねぎは斜め切り、しょうがは薄切りにする。
【2】鶏手羽中をフライパンで軽く焼く。
【3】【1】【2】、水を鍋に入れて10分ほど煮込み、柑橘類の果実を加えてひと煮立ちさせる(※オーガニック果物なら皮も入れて煮込む)。
教えてくれた人
医学博士・高橋弘さん/1951年埼玉県生まれ。東京慈恵会医科大学、同大学大学院博士課程修了。ハーバード大学医学部留学、同大学マサチューセッツ総合病院・助教授を経てハーバード大学医学部内科准教授、東京慈恵会医科大学教授となる。現在、麻布医院院長。著書に『ハーバード大学式 野菜スープで免疫力アップ!がんに負けない!』(マキノ出版)。
撮影/茶山浩 料理協力/新谷君子
※女性セブン2019年8月15日号