がんを予防する食事|抗がん剤の権威が教える野菜スープが最強な理由
10年前に乳がんを患い、手術、抗がん剤治療、ホルモン剤治療等を行った女性セブン記者(59才・その後、再発はなし)。彼女が、各種治療とともに真剣に取り組み、確信に至ったのが「食生活の見直しで体は必ず変わる」ということ。自らの体験を踏まえつつ、記者が「がんに克つ食事」をレポートします。
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食を見直せば、がんを60%予防することができる!
がんは手強い病気である。現在の最新医学をもってしても100%予防することはできない。しかし、食習慣を改善することで60%は予防でき、がんになっても寿命を延ばすことができる、と多くの研究者たちが口をそろえる。
記者も10年前に乳がんを発症。手術、抗がん剤治療などを経験した後、食習慣を根本的に見直し、健康を取り戻した1人だ。その経験も踏まえ、病気の根絶に挑むさまざまな専門家たちを取材。「がんに克つ食事」を聞いた。
今回ご紹介するのは医科学者の前田浩さん。抗がん剤研究の世界的権威で、副作用のない薬の開発を目指し、ノーベル賞候補にも挙がったかただ。そんな化学者の目に留まったのが野菜である。果たして、野菜は人類の救世主になり得るか。
●国立がん研究センター推奨のがんを予防する食事
【1】1日あたり野菜を350g取る。目安は、果物と野菜を合わせて、野菜を小鉢で5皿ぶん、果物は1皿ぶん、合計400g程度を毎日食べる。
【2】熱い飲み物や食べ物は、冷ましてから取る。
【3】食塩摂取量の目安は、男性8g未満、女性は7g未満。
ノーベル賞候補にも挙がった抗がん剤の世界的医科学者が詳説
─―成人の2人に1人ががんになる時代といわれていますが、がんになる原因は何なのでしょうか。
前田:私は長年、抗がん剤の研究を続けてきましたが、その中で、がんの発生において、化学発がん剤と炎症(細菌やウイルス感染)、放射線暴露による発がんは、いずれも「活性酸素」がかかわっていることがわかってきました。活性酸素とは、簡単に言うと私たちが普段吸っている空気中の酸素分子の一部が暴れ者に変化した毒性物質です。例えば「鉄」を考えてみてください。空気に触れている鉄は塩害や紫外線などを浴び続けることでさびますよね。それを「酸化」というのですが、人間もそれと同じ現象が起きているんです。
─―人間にとっては必要不可欠な酸素が毒性物質に変化して、がん化する?
前田:そうです。がんは3つの段階を経て時間をかけて悪性化します。
【1】まず、紫外線、たばこ、排ガスなどの発がん性物質、食品添加物や農薬などの化学物質、多量の飲酒、細菌やウイルスなどの感染による炎症が「活性酸素(毒性物質)」を発生させて、がんの芽ができます。
【2】次に、がんを促進させる活性酸素や発がん性物質、ホルモン、炎症因子などの影響で、がんの芽を成長させます。ストレスで免疫系の抵抗力が弱っている人は特にがんが成長します。
【3】この環境になると、がん細胞は増殖し悪性化してしまうのです。
野菜スープは、がんを予防する特効薬
─―たばこや食品添加物、農薬など、がんの誘引物を避けるのも大切ですね。
前田:食習慣を改善すると60%は、がんを予防できるといわれています。そこで、私ががん予防の基礎研究をしていた時に注目したのが、植物です。日々紫外線を浴びている“植物”が、「なぜ紫外線を浴び続けているのに、がんにならないのだろう」と。
─―植物は、がんにならないと?
前田:はい。一年中、紫外線を浴びて活性酸素の猛攻を受けているにもかかわらず、がんにならないのが、野菜などの植物なんです。私はこの謎を解くために40年ほど前から野菜の研究もしてきました。そして、野菜に大量に含まれるファイトケミカルに、がんを抑制する効果があることに注目したのです。
─―ファイトケミカルとは?
前田:ファイトケミカルとは、植物が紫外線や害虫から身を守るために作り出す色素や香り、渋み、アクなどの、化合物の総称です。例えば緑茶のカテキンやトマトのリコピン、にんじんやかぼちゃのカロテノイドなど。これが、がん予防に威力を発揮するんです。
野菜をスープやみそ汁にすると効果が10~100倍アップ
前田:ファイトケミカルには、がんのもととなる活性酸素を消去する強力な抗酸化作用があります。植物は、そのファイトケミカルを大量に含んでいることで紫外線を浴び続けても、がんにかからないんです。ならば、「人間もファイトケミカルを大量に摂取すれば、がんを予防できるのではないか」。そう考えました。
─―野菜を大量に食べることで、がんを予防することができると?
前田:野菜といっても「熱を加えた野菜」の方が抜群にいいんです。実はサラダなど生野菜をそのまま食べてもファイトケミカルはわずかしか吸収できません。理由は、野菜の細胞を包む細胞壁を人間の消化液では消化できないからです。そこで野菜を煮込んで実験してみると、植物の細胞壁が簡単に壊れ、中のファイトケミカルを容易に体に摂取できることがわかったのです。特に野菜スープやみそ汁にすると、実に生野菜の10~100倍の抗酸化力が強くなるものもあることがわかりました。このようにファイトケミカルがスープに溶け出すと、より体に吸収しやすくなります。生野菜を大量に食べるのは大変でも、スープにすれば簡単に補給できますからね。
─―ただ、ビタミンCは熱に弱い…というのが定説になっていますが。
前田:それにはかなり誤解があります。例えば実験室でビタミンCを結晶化させ、それを加熱するとビタミンCは90%以上なくなります。これはビタミンCが酸化することを示しています。ところが、野菜を加熱しても、野菜に含まれるさまざまなファイトケミカルの働きで、酸化が抑えられ、ビタミンCはほとんど壊れません。野菜は加熱した方がファイトケミカルなどが体に吸収されやすくなるんです。これまで料理家のかたをはじめ、多くの人が誤解している点だと思います。
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がん予防には緑の濃い野菜がいい
─―がん予防には、どんな野菜が適していますか?
前田:まずは緑色の濃い野菜。同じ白菜やキャベツでも、内側の白い部分よりも外側の緑の濃い部分がはるかに抗酸化力が高いんです。大根やにんじんは根の部分より、葉っぱの方が50~100倍も高い。またハウスものより紫外線をたくさん浴びた露地野菜の方が効果があります。なるべく農薬量が少ない野菜を選んで食べることも大切です。現在、がん治療中のかたも野菜のスープを飲むことにより、抗がん剤治療で発生する活性酸素を防御する力も持っているので、副作用の軽減にもつながるといえます。さらに免疫力アップや、腸内細菌のうちの善玉菌を増やし加勢します。また、化学療法の後や術後の体力回復、再発防止対策としてもお勧めします。
がんを抑える抗酸化力の高い野菜
抗酸化力の高い順に、赤じそ、青じそ、にんじんの葉、三つ葉、菜の花、春菊、小松菜、レタス。
茹でた赤じそやよもぎは、実験した野菜の中で最も強い抗酸化力を発揮。
根菜類ではさつまいも、里いも、じゃがいもが上級。活性酸素の毒力の消去に効果がある。玉ねぎ、にんにく、しょうがなどもよい。
大根やにんじん、かぶなどの葉は最強のがん予防薬。寒い時期にストレスを受けて育った野菜の方が栄養も豊富で抗酸化力も高い。
野菜の切れ端はファイトケミカルの宝庫
前田:野菜の調理で大切なのが、できるだけ多くの種類の野菜を使うことです。ファイトケミカルにはさまざまな作用があるので、複数合わせることで効果が高まります。例えば、ブロッコリーやケールなどアブラナ科の野菜は、発がん性物質を解毒する酵素を助けます。トマト、ほうれん草に含まれるファイトケミカルのリコピン、ルテインは紫外線が作る活性酸素を消去します。この活性酸素は日焼けやシミ、皮膚がんなどの原因になります。こうした複数の野菜を取り入れることで、がんや、成人病の高コレステロール血症、糖尿病などを予防できるわけです。
─―効力が高い野菜の組み合わせはありますか?
前田:普段捨ててしまう野菜の外側の葉、茎、種などを煮込んだスープは最強です。いわゆる野菜くずですが、これらにも抗酸化物質が豊富に含まれています。作ったスープは冷凍して保存し、みそ汁やスープ、鍋物などのだしとして利用するとよいでしょう。
─―最後に、乳がんや子宮がんなど、女性に多いがんの予防で、気をつけなければならない点を教えてください。
前田:なるべく出所がわかっている国産物の野菜や、オーガニックの材料を選ぶことをお勧めします。なぜなら出所がわからない輸入野菜の中には、女性ホルモン作用を誘発する農薬を使っているものもあります。一部の米国産や中国産の牛肉にも、極めて高い女性ホルモンが含まれていることも知られています。これらホルモンは生産効率を上げるために使用されますが、乳がんなど、女性に多いがんを誘発する原因にもなります。食べ続ければいつかは男性が女性化する恐れもある残留農薬もあり、これは深刻な問題です。これからは食に対する消費者の厳しい目が、がん予防や成人病、慢性疾患の予防の鍵となっていくでしょう。
教えてくれた人
前田浩さん/医科学者・熊本大学名誉教授。1938年、兵庫県生まれ。抗がん薬研究の第一人者。熊本大学名誉教授、大阪大学招聘教授、東北大学特任教授、バイオダイナミックス研究所所長。2016年、抗がん剤の研究でノーベル賞候補に挙がる。著書『最強の野菜スープ』など。
撮影/茶山浩
※女性セブン2019年4月4日号