映画『八重子のハミング』が話題!主役の高橋洋子が孤独を告白
4月19日、東京・代々木で映画『八重子のハミング』のプレミアム試写会が開かれ、大盛況に終わった。同名ノンフィクション(陽信孝著)を原作にしたこの映画が描くのは、夫婦の極限の愛である。
舞台は山口県萩市。50代前半で若年性アルツハイマーを発症した妻・八重子は、徐々に自我を失い、家族を忘れ、最後は自分の排泄物を食する。かつて音楽教師だった彼女は、言葉を失くした後も、好きな歌をハミングし続けた。
そんな妻を10年以上もの間献身的に介護し続けた夫の誠吾。自身も3度のがんで闘病しながら、赤子に戻る妻を最後まで命がけで支える。劇中で病んでいく妻役を演じた高橋洋子(63才)が思いを語った。
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認知症の演技はこれでいいのかと、もどかしかった
2015年6月に佐々部監督に呼ばれて、東京の自由が丘で会いました。監督はすでに『八重子のハミング』の脚本を手にしていて、私は母親役の出演依頼かなと思ったら、「主役をお願いします」と。
病気の役だというからベッドに伏せているのかと考えていたら、認知症だというんです。難題だなと悩みましたが、病気より夫婦の愛情を描きたい、というのでやってみようと決意したんです。
現場では監督から、「壊れていく過程のなかでもかわいらしい八重子さんを演じてほしい」と言われました。今まで演じた役柄の中でいちばん難しかった。役者は、誰々のことが好きだ嫌いだと感情を吐き出すことが仕事です。
でも認知症を患った八重子さんは自我を忘れ、感情を失っていく。普段の演技とは真逆の、自分の心を粘土で包むような作業で、本当にこれでいいのかなと、もどかしかった。
子供返りをうまく演じるため、自宅で飼っている子猫を観察したこともあります。すごく怖がりでインターホンが鳴るだけで逃げちゃう猫だけど、その時の怯えた目をじっと見つめて“ああ、この目だ”と真似しました。
八重子さんと陽さんのドキュメンタリービデオも何度も見て、両手を叩くシーンなどを参考にしました。私なりに何とか“わからない私”をこしらえていましたね。
みんなのせりふを聞いて段取りよく動かないといけないのだけど、他人の言葉に反応してもいけない。誕生日のシーンで周りが喜んでいても本人は何のことかわからず、誰かにケーキを食べさせてもらっても決して嬉しくない。撮影中は誰も頼れなくてずっと孤独でした。
でも、(夫役の)升毅さんがいつまでも私を抱きとめてくれるような、深い愛を見せてくれたから、最後まで八重子さんを演じることができました。打ち上げで「お父さん」と言ったら、升さん泣いてましたから。
実際の八重子さんを知る地元の人に良かったと言ってもらった
ロケ場所の萩の人々もとても親切で救われました。髪形が似ているせいか、私がしゃがんで松ぼっくりを拾うシーンでは、実際の八重子さんを知っている地元の人が「八重子さんがおるわぁ」と泣いちゃってね…。
山口県で先行ロードショーをした時は、映画を見終わったお客さんが「よかった、よかった」と私に直接言ってくれました。撮影の苦労が報われた瞬間でした。
※女性セブン2017年5月11・18日号
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