「腎臓に持病があってカリウム制限が必要」《とろみ調整食品》を使っても大丈夫?【管理栄養士の健康相談事例】
厚生労働省「腎疾患対策」の検討会によると、腎臓に疾患を抱える患者は年齢が上がるほど増え、75才の3人に1人が慢性腎臓病ともいわれている。管理栄養士の川鍋仁美さんは、高齢者から栄養相談を長年受ける中で、最近「腎臓に持病があり、カリウム制限しているが、市販のとろみ調整商品を使っても大丈夫でしょうか?」という質問を繰り返し受けたという。とろみ調整食品に含まれるカリウムや正しい活用法について川鍋さんに解説いただいた。
教えてくれた人/管理栄養士・川鍋仁美さん
管理栄養士。2児の母。大学卒業後、総合病院に勤務。介護食・嚥下食などの献立作成や栄養相談など行ってきた経験を活かし、現在はデイサービスで高齢者の栄養サポートなどを行う。介護する人もされる人も笑顔になれる「介護食作り」を目指し、活動中。「管理栄養士が伝授!いちばんやさしい介護食ガイド」の運営・執筆も手がける。https://eiyousupport.com/
腎臓に持病「とろみ剤を使っていい?」
高齢のかたたちの栄養相談を受けていると、なんらかの持病を抱えていて、食事制限が必要なかたもいらっしゃいます。腎臓に持病があるかたの場合、「カリウム制限がある」ケースがあります。
カリウムとは、体内の塩分を排出する働きがあるミネラルの一種。体内の水分バランスや神経・筋肉の働きに関わる重要な成分で、バナナやスイカ、キュウリなど果物や野菜に豊富に含まれています。
腎機能が低下すると、カリウムの排出がスムーズにできなくなり、高カリウム血症などを引き起こすため、カリウムの制限を医師から指示されるケースがあります。
一方で、高齢になり、嚥下機能が衰えると飲み物や食べ物に「とろみ」が必要になることも。腎疾患を患っていたとしても、嚥下機能が衰えてきたら、とろみづけが必要になります。そこで気になるのが、とろみ調整食品のカリウムの含有量です。
ここ最近の栄養相談でご相談が多かったのが、カリウム制限中のかたやご家族から「とろみ調整食品を使って大丈夫なの?」と心配されるケースです。一般にはあまり知られていないかもしれませんが、市販のとろみ調整食品には、カリウムが含まれています。まずは、とろみ調整食品の成分について考えてみましょう。
とろみ調整食品に含まれるカリウムはそうれほど問題ない
市販のとろみ調整食品の主な原材料は、キサンタンガムやグアーガム、でんぷんなどの増粘多糖類です。原材料自体にカリウムが含まれている場合や、とろみを安定させる目的でカリウム化合物が使用される場合もあり、多くの商品にはカリウムが少なからず含まれています。
「腎疾患がある場合、とろみ調整食品に含まれるカリウムは大丈夫なのか」というご相談ですが、結論からいうと、普段の食事でとろみ調整食品を少量使用する程度であれば、大きな問題にはなりにくいといえます。
心配な場合は、カリウムの含有量は、商品に記載されている「栄養成分表示」で確認しておきましょう。
カリウムは、成人女性の場合1日2,000mg以上の摂取が目安とされています。一方、腎機能が低下している場合は、体内にカリウムが蓄積しやすくなるため、病状に応じて摂取量の調整が必要になることがあります(病状にもよりますが、1日1,500~2,000㎎以下が目安になることが多いです)。
一般的なとろみ調整食品では、1回の使用量は約2.5g(小さじ1杯弱)で、カリウム含有量も数mg程度の商品が多く、飲み物1杯にとろみをつける程度であれば、飲み物一杯にとろみをつけるレベルであれば、それほど問題ない量といえます。
ただし、製品によっては原材料に「塩化カリウム」が使用されている場合があります。塩化カリウムは食品中にも利用されるカリウム化合物です。厳格なカリウム制限が必要な方は、原材料表示や栄養成分表示も確認しておくと安心です。
また、腎臓に持病があるかたの場合、カリウムのほか「リン」も制限されるケースがあるので合わせてチェックしておきましょう。厳密な食事制限が必要な場合は、市販のとろみ調整食品を使用する前に、管理栄養士や医師に相談してみてください。
カリウム制限が必要な人がとろみをつける「飲み物」の正しい選び方
健康な人の場合、食事から摂ったカリウムは尿として排出されますが、一度に大量に摂取してしまうと、腎機能の低下につながる恐れも。また、高齢期や介護が必要なかたも、カリウムの摂りすぎは体の不調を招きかねません。
カリウム制限が必要なかたはもちろん、健康なかたでも、注意したいのは、とろみ調整食品よりも「とろみをつける食べ物や飲み物」自体に含まれるカリウムの量です。
カリウムを多く含む飲料には、果汁100%のジュースや野菜ジュース、青汁、スポーツ飲料などがあります。人参やトマトが主原料の野菜ジュースはとくにカリウムが豊富。このほか、コーヒーや牛乳、緑茶にもカリウムが意外と含まれている点に注意が必要です。健康によさそうだからと選んだ飲料が、意外にもカリウムが多いということもあるのです。
カリウム制限が必要な人は、飲料によって量や頻度を減らす調整が必要になります。水分補給が目的なら、カリウムをほとんど含まない麦茶や水がおすすめです。
飲み物に含まれるカリウム量(100gあたり)
・野菜ジュース(通常タイプ)…約250mg ※濃縮タイプやトマトジュースはさらにくなる。
・青汁…200mg前後 ※商品によって差がかなりある。
・オレンジジュース(果汁100%)…180mg
・グレープフルーツジュース(果汁100%)…140mg
・牛乳…150mg
・コーヒー(ブラック)…65mg
・緑茶…27mg ※濃いお茶や抹茶粉末が含まれるとさらに高くなる。
・スポーツドリンク…26mg
とろみ調整食品は使用量を守って
とろみ調整食品を使用すると、含まれている成分の影響やとろみがつくことで、風味や口当たりが変化することもあるため、「いつもと味が違う」と感じるかたもいらっしゃるようです。
また、とろみ調整食品を必要以上に多く使用すると、とろみが強くなりすぎて飲み込みにくくなったり、口の中に残りやすくなったりすることがあります。さらに、食べ物や飲み物本来のおいしさを感じにくくなってしまう恐れもあります。飲み込みやすさとおいしさの両方を保つためにも、使用する際は製品ごとの使用方法を確認し、適切な量を使うことを心がけてください。
高齢者にとってムセ予防は必要不可欠
嚥下機能が落ちているのに、「カリウムの摂りすぎが心配だから」と、自己判断でとろみ調整食品の使用量を減らしたり、やめたりしてしまうのは非常に危険です。
前述のように、とろみ調整食品のカリウム量は適切な量を守れば大きな問題にはなりません。それよりも、嚥下の状態にあっていないものを飲むことで、ムセや誤嚥を引き起こしてしまうほうが心配です。
「ムセるのが怖いから飲まない」と水分補給ができなくなってしまっては、脱水や食欲低下を招いてしまいます。誤嚥や脱水症は命に直結する危険があります。
飲み込みに不安がある高齢者にとって、とろみをつけることは「安全に水分をとる」ために必要なことであり、「一人ひとりの状態に合ったとろみの種類や量を選ぶ」ことが大切です。不安なことは、かかりつけ医や管理栄養士に相談してみてください。
とろみ調整食品の特性を知り、賢く活用しながら毎日の水分や栄養補給を続けて欲しいと思います。
