《施設レク》入居者の家族のリクエストを叶えたら混沌とした状況に・・・認知症グループホーム職員が苦悩を吐露
都内の認知症グループホームで働く介護職員で作家の畑江ちか子さんは「レクリエーション」に悩んでいる。認知症の症状はひとそれぞれであり、なかなか皆が楽しめるものがないという。そんな中、入居者のご家族の意見から、新たなレクに挑戦してみたが――。【前・後編の前編】
執筆者/作家・畑江ちか子さん
1990年生まれ。大好きだった祖父が認知症を患いグループホームに入所、看取りまでお世話になった経験から介護業界に興味を抱き、転職。介護職員として働きながら書きためたエピソードが編集者の目にとまり、書籍『気がつけば認知症介護の沼にいた もしくは推し活ヲトメの極私的物語』(古書みつけ)を出版。趣味は乙女ゲーム。
※記事中の人物は仮名。実例を元に一部設定を変更しています。
施設の「レクリエーション」事情
レクリエーション――それは、単調になりがちな介護施設での生活に、ささやかな彩りを添えるもの。
三大介助(食事・入浴・排泄)とは違い、日常生活を送るうえで必要不可欠というわけではないけれど、ないとやっぱりさみしいもの。
私はこのレクリエーションが、業務の中で一番苦手です。何故ならば、施設の利用者全員が平等に楽しめるものが、なかなかないからです。
認知症の程度、体がどれくらい動くか…そういった事情は、私の担当フロアに入居している9名それぞれがバラバラであり、さらに個々人の好みもあります。
たとえば塗り絵のレクですが、好きで熱心に取り組まれるかたもいらっしゃれば、手指の拘縮により色鉛筆をうまく握れずストレスに感じてしまわれるかた、そもそも塗り絵自体が好きでないかた、塗り絵自体を認識できないかたもいらっしゃいます。
工作、ボール投げ、ペットボトルを使用したボーリング、生け花、園芸、お習字、ボードゲーム、調理…などのレクも同様です。
全介助でリクライニング式の車椅子を使用されているかたは、リビングにいたとしてもレクに参加すること自体が困難です。
そうすると、レクに参加できるのはいつも決まったかたがたになってしまいがち。また、一緒に組んでいる職員の能力により、安全に見守りをしながらレクを進行できるかどうか?という問題もあります。
私が働いている施設は職員の入れ替わりが激しく、言い方は悪いですが「現場に不慣れな新人」がいつも代わる代わるシフトに入っているのが現状です。
人員に余裕がある日は話が別ですが、入居者個々人の条件+その日いる職員の能力を総合して考えると、どんなレクをすればいいのか、頭を抱えてしまう日々なのです。
手の込んだレクはできないけれど…
うちの施設で採用しがちなのが「音楽鑑賞レク」です。
YouTubeで歌詞つきの動画を探し、パソコンをテレビに繋げて流す。一緒に歌いたいかたは歌っていただき、聴きたいだけのかたはそうしていただく。目が不自由なかたや体が動かせないかたも、音楽ならば耳に入ってくるし、耳が遠いかたは補聴器があれば楽しむことができる――曲目は利用者のリクエストにより変動しますが、一番多いのは「昔からある童謡」です。
何故かというと、昔からある童謡はだいたいの利用者が知っているのに加え、回想療法的な面も期待できるからです。
「これ、よく子供に歌ってあげたわ」こんな一言を聞くと、手の込んだレクができないことを申し訳ないと思いつつ、何もしないよりは、ここでの生活を楽しんでもらえているのかな? という気持ちになります。
そんなある日、面会に来たご家族様から、あるご意見を頂戴しました。
入居者のご家族から言われた言葉
「ちょっと、レクリエーションの内容が子供っぽすぎませんか?」
こうおっしゃったのは、田村トシオさん(86才)の息子さんでした。
田村さんは入居されて約2か月。認知症は軽度で、他のかたと比べると、身の回りのことなどはご自身でできることが多いものの、お金や薬の管理が難しく、独居だったため、当施設へ入居されました。
「他には、いつもどんなことをしているんですか?」
息子さんに問われ、私は先述の通り、塗り絵や工作などをやる日もあることをお伝えしました。
「なんかどれもパッとしないですね。まるで幼稚園みたいじゃないですか…」
ため息と共に、息子さんの口からがっかりしたような声が洩れました。
そんなつもりはなかったけれど、ご家族様からはそう見えるのか…。私が言葉に詰まっていると、息子さんはさらに続けられました。
「父は麻雀が好きだったんですけど、さっきも久しぶりにやりたいと言っていました。まあ、台とか用意するのは難しいと思うので、せめてオセロとかトランプとか、そういうちょっと頭を使う遊びをやってもらえませんか?」
私は一旦息子さんのご要望を受け止め、内容を記録に残し職員全員へ共有しました。
息子さんの要望を取り入れてみた
1週間後、息子さんのご要望通り、まずはトランプでババ抜きをやってみることになりました。職員も混ざり、できそうなかただけ参加していただくことになります。
「じゃあ、〇〇さんは△△さんから1枚カードをもらってください。その次、△△さんは、××さんへカードを…」
ルールをすぐに忘れてしまわれるかたもいるため、職員が都度説明しながらゲームを進めていきます。
「お姉さん、ちょっとトイレ行きたいわ」
約1時間の間、頻尿の入居者の対応で、ゲームが中断されること5、6回…。他にも、ゲームに参加されていない利用者(転倒リスク・高)の立ち上がりや、電話対応などに追われ、結局時間内にゲームを終えることはできませんでした。
それならば「オセロならどうだろう?」と新たなレクリエーションを試みたのですが、事態は急展開を迎えることになるのです。(次回につづく)。
イラスト/たばやん
畑江のつぶやき
介護施設のレクを全員のレベルにあわせるのは至難の業…