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連載

兄がボケました~認知症と介護と老後と「第77回 兄に音楽を聴かせてみたら」

 ライターのツガエマナミコさんの兄は、50代で若年性認知症を発症しました。共に暮らしていたマナミコさんは、8年以上にわたり、自宅で兄のサポートを続けましたが、症状の進んだ兄はてんかん発作を起こしたことがきっかけで歩くことができなくなり寝たきりに・・・。68才の現在、特別養護老人ホームに入所中です。週に1回かかさずに面会に行くマナミコさんが、兄の近況を綴ってくれました。

 * * *

「過去の女性のことでも思い出しているのかしらん?」

 先日、兄の面会に行きましたら、施設職員さまから「お電話しませんでしたが、2日前にまたてんかんの発作がありました」とご報告をいただきました。

 2分ほどで発作は収まり、すぐに呼吸や脈拍などは正常に戻ったとのこと。お薬を増やしてまだ2か月足らずでございます。前途が不安になりましたが、「今後また頻繁に発作が起こるようなら、次回は施設近くの病院で血液検査をして薬の量を検討するようにしましょう」ということになりました。

 タクシーで片道1時間かかる以前の病院へ行くと、1回の診察と往復で3万円もかかってしまうので、近場の病院になれば少し気が楽でございます。

「薬を増やしてもダメなのか」としばらくブルーな気持ちでしたが、わたくしが心配しても兄のてんかん発作を止められないと割り切りまして、あまり考えないことにいたしました。でも、その日の兄は、わたくしのほうに身を乗り出すような仕草が多くみられました。何かいいたいことがあるのかもしれないと思うものの、兄の言葉は言葉になっておらず、それが何かはまったくわかりません。

「うちに帰りたい」と言いたいのかもしれません。でも兄が帰りたい家はきっと父も母もいる昔むかしの団地だと想像します。仮に今のマンションだとしても「じゃ、帰ろう」とは言えないのがわたくしの本音。薄情な妹でございます。

 その罪滅ぼしではございませんが、叔母が施設に入った叔父に「あの人の好きなオペラのCDを聞かせているの」と話していたので、同じ型のポータブルCDラジオを購入して、かつて兄の車にあったCDの束の中から数枚を持って行って流してみました。

 すると聴き入るような、何かを思い出しているような表情がみられ、曲が終わるとパチパチパチと素早い拍手をしました。そして、次の曲が流れるとわたくしの手を引っ張るように掴んで自分の胸の上に置いて放しませんでした。バラードだったので「過去の女性のことでも思い出しているのかしらん?」と要らぬ妄想をしてしまいました。

 少し前にテレビで認知症と音楽の関係を特集しておりました。懐かしい音楽、よく聞いていた音楽には脳が反応するというのです。それを観たときは、「どうせ演出でしょう。そういう人を集めただけでしょう」と穿った見方をしておりましたが、とんでもございませんでした。この日、まさに認知症と音楽の関係を目の当たりにした気がいたしました。

 もっと早くCDを持っていけばよかったと思いました。テレビがあれば退屈しのぎになるだろうと思ったのはただの自己満足でしかなく、早口でまくし立てるテレビの音は兄にとっては雑音でしかなかったかもしれません。

 昔聞いていたCDを流すことが兄にとって本当にいいことなのかどうかはわかりません。でもこれまでと違う反応があったことで、いいことをしたような気分になってしまうわたくしがおります。兄の本音が聞けない限り、どこまでいっても自己満足。それも致し方ございません。

 今週は、確定申告にも行ってまいりました。1か月半前に予約した日がようやく来たわけでございます。20代と思しき女性の方が横についてくださって、スマホで確定申告する手順を教えてくださいました。といっても、言われるがまま操作しただけなので、今後自力でできる気がいたしません。

「ずっとパソコンでe-TAXをしていたのですが、今年は利用者識別番号がなぜか入力できなくて、かくかくしかじか」と訴えると、「マイナンバーカードあり、にしましたか?」とおっしゃるので、「はい」と答えました。よくよく聞いてみると、それが利用者識別番号を入力できなかった要因のようでした。

 来年の確定申告はマイナンバーカードなし、をチェックすればできるかもしれないとのことでしたが、近々システムが少し変わるようなこともつぶやいていらっしゃり、結局よくわからないまま。とにかく今年は無事に還付金請求ができました。

 来年は来年の風が吹くことでございましょう。また予約して若い方にお手伝いいただきながら行うのも悪くないと、すっかり年寄りモードのツガエでございます。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性63才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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