「新幹線指定席に座る私はぐずる幼子に席を譲るべきだったのか」頭を悩ます相談者に毒蝮三太夫が名回答「あなたの様なタイプは譲るのが正解」その理由とは|「マムちゃんの毒入り相談室」第85回
昨今、新幹線での「座席トラブル」が何かと話題である。トラブルとは言えないが、微妙にモヤモヤする状況に置かれた61歳の男性。「どうすればよかったんだろう」と思い悩んでいるという。マムシさんは「あなたはとっても善人。偉いと思う」と感心しつつ、「また“チャンス”が訪れたときのために備えておこう」とアドバイス。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「私は新幹線で幼い子どもに席を譲るべきだったのか」
よく「マムシさんは梅雨はどう過ごしてるんですか」なんて聞かれるけど、まあいつも通りだよ。たしかにジメジメした日が続くけど、天気や季節に文句言っても仕方ないからね。あるがままを受け止めて、その日その日を自然体で歩いていくのがオレのモットーだ。
考えてみたら天気や季節だけじゃなくて、仕事にせよ何にせよ、いつもそうしてきたかもしれないな。毎日歩き続けていたら、いつの間にか長い年月が経っちゃった。あと何年元気でやれるかわからないけど、これからも同じようにやっていくつもりだ。
今回は、新幹線での出来事を思い出して悩んでいる61歳の男性からの相談だ。
「私は席を譲るべきだったのでしょうか。ずっと悩み続けています。
先日、仕事で新幹線に乗りました。車内は満席で、私は予約した席に座っていましたが、近くに母子連れが立っていました。やがて5歳ぐらいの男の子が『座りたいよー』とぐずり始めます。お母さんは『我慢しなさい』となだめますが、男の子は静かになりません。お母さんはほとほと困っています。車内は自由席も含めて満席というアナウンスがありました。
『どうしようかな』と少し迷いましたが、自分が代金を払った席を譲る筋合いはないと思い、そのまま座っていました。まわりの人も知らん顔でしたが、やがて少し離れた席に座っていた同年代の女性が『よかったら、どうぞ』と席を譲ったのです。
家に帰ってから、この出来事を妻に話したところ『あなた元気なんだから、譲ってあげればいいのに。自分が指定席代を払ったとか何とか、ケチ臭いわね』と責められました。譲らなかった私は間違っていたのでしょうか。だけど、もっと若い人もたくさん乗っていたんだから、譲るならそっちが先じゃないでしょうか」
回答:「あなたのような善人タイプにとっては、譲ったほうがはるかに得」
こうやって悩んでいるあなたは、とっても善人だね。いい人だ。素直に偉いと思う。世界があなたみたいな人ばっかりだったら、戦争は起こらないよ。
今の世の中、あなたみたいな善人は少ないだろうね。「うるせえガキだな」と思って寝たフリする人のほうが多いんじゃないかな。もちろん、自分が取った指定席を他人に譲ってあげる筋合いはない。譲らない人を責めることはできないよ。
ただ、あなたは「どうすればよかったのか」と、ずっと悩んでいる。もっと言えば、つらそうな子どもと困っているお母さんを救えなくて、後悔しているわけだ。その親子も、よっぽどの事情があって、席が取れないまま乗ってきたんだろう。本当は譲ったほうがよかったと思っているけど、とっさに行動を起こせなかったもんだから、あれこれ「譲らなくていい理由」を探しているようにも見える。
オレは今は90歳だから、席を譲ろうかどうか迷う必要はなくなった。もし譲ったら、譲られたほうが気をつかっちゃうよ。だけど、あなたはまだ61歳で元気みたいだから、気をつかわれる心配はない。オレがあなたの年齢だったら、きっと譲っただろうね。
奥さんの言うとおり、指定席の料金を自分が払ったとか何とかは、どうでもいい話だ。自分は立つことになって、指定席の料金が無駄になるが、それは仕方ない。指定席券を持ってる自分が譲りたくて譲ったんだから、厳密に言えばよくないのかもしれないけど、その親子が責められることもないだろう。
あえて損得勘定で言うなら、あなたのように悩んじゃう善人タイプにとっては、譲ったほうがはるかに得だよ。「誰が譲るもんか」と寝たフリができるタイプにとっては、そりゃ譲らないほうが得なんだろう。それはそれでいいさ。
譲っていたら、さぞ感謝されたに違いない。人助けができた喜びも味わえるだろう。お母さんが子どもに「ほら、ちゃんとお礼を言いなさい」なんて言って、子どもも大切なことを学べる。ひいては、親子が「世の中、捨てたもんじゃない」と感じてくれるかもしれない。ちょっと勇気を出して「どうぞ」というだけで、たくさんの幸せがつかめるわけだ。
まあ、過ぎたことを言っても仕方ない。また同じような“チャンス”が訪れたら、今度はサッと立ち上がって「どうぞ」と言えるように、イメージトレーニングを重ねておこう。仮に母親の態度が悪かったとしてもロクにお礼も言えないガキでも、腹を立てる必要はない。自分が後悔しないために、譲りたくて譲ったんだから。
若者が先に譲るべきだとも書いてるけど、ほかの人は関係ないよ。やりたい人、やれる人が行動を起こすのが、人助けの基本だ。自分が譲ることで、若者たちも「こういう人もいるんだ」と何かを感じてくれるかもしれない。いい教育ができたと思えばいいんだ。
それにしても、こういうことがあったと奥さんに話せるあなたも、はっきり叱ってくれる奥さんも、どっちも素晴らしいね。ナイスな夫婦関係だよ。まだまだ人生は長い。これからも奥さんを大事にして、幸せに暮らしてくれ。
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。90歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。最新刊は玉袋筋太郎と熱く語り合った対談集『愛し、愛され。』(KADOKAWA)。毒蝮の「毒」と玉袋の「粋」が熱く融合し、混迷の時代を生きる私たちに勇気と希望を与えてくれる。
YouTubeの「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXXも、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。

石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『昭和人間のトリセツ』(日経プレミアシリーズ)と『大人のための“名言ケア”』(創元社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。