認知症グループホームで働く60代ベテラン職員の「不適切な対応」昔の常識は今の非常識?
認知症グループホームで働いた経験を発信する作家の畑江ちか子さん。30年以上のキャリアをもつ職員が、ホームの利用者さんにした対応に「えっ!」と仰天…。若手職員が見た、ベテラン職員の驚きの行動とは。【前・後編の前編】
執筆者/作家・畑江ちか子さん
1990年生まれ。大好きだった祖父が認知症を患いグループホームに入所、看取りまでお世話になった経験から介護業界に興味を抱き、転職。介護職員として働きながら書きためたエピソードが編集者の目にとまり、書籍『気がつけば認知症介護の沼にいた もしくは推し活ヲトメの極私的物語』(古書みつけ)を出版。趣味は乙女ゲーム。
※記事中の人物は仮名。実例を元に一部設定を変更しています。
60代のベテラン職員の言動
ある日、私が台所で夕食の準備をしていると、フロアで80代の男性利用者、山田次郎さんの声がしました。
「ああー、ああー」
次郎さんは認知症の進行により言葉が出ないかたです。加えて、ご自身で立ち上がることはできるものの、数歩歩きだせばすぐにバランスを崩し転んでしまわれるため、立ち上がりが見られた場合はすぐに職員が駆けつけ、したいことを汲み取ってあげなければなりません。
もしかすると、お手洗いかなーそんなふうに予想しながら私が台所を出ようとしたとき、サッと駆けつけてくれた人がいました。
60代のベテラン職員、太田浩二さんでした。
「はいはいはーい、どうしたの?」
太田さんは立ち上がろうとする次郎さんに声をかけました。
「ああ、ああー」
「オッケイオッケイ、ちょっと落ち着いて」
見ていると、そのまま歩き出す次郎さんに付き添い、リビングの一人がけソファへと誘導し、そこへ次郎さんを座らせました。そして座っている体勢をロックするようにテーブルをグッと近づけたのです。
「よし、これでオッケイ!」
次郎さんに向かって、ビシッと親指を立てて見せる太田さん…おいおいおい、ひとつもオッケイじゃないっつーの! 私は慌てて台所を出ました。
「太田さん、それダメですよ!」
「えっ? なんで?」
「なんでって、太田さんはこのかたに対して、今なぜこのようにしたんですか?」
「勝手に立って歩き出したら危ないでしょ。だから、自分じゃ立ち上がりづらい座面の低いソファに座ってもらって、すぐに動けないようにテーブルを体の前に置いたんだけど…」
「それは身体拘束にあたるのでアウトです。この前社内の研修でもやったじゃないですか」
「えぇ? そうだっけ? あっはっは、ごめんごめん」
太田さんの気持ちは正直めちゃくちゃわかるけど…と内心思いつつ、私はテーブルをどかし、次郎さんを立ち上がらせ、お手洗いに連れていきました。
案の定、尿取りパッドが濡れており、便器にも多量の排尿がありました。そしてお手洗いの後は、元通りご自身の席に案内しました。
介護現場の常識は日々アップデートされる
職員主体の介護から、利用者主体の介護へ。
介護現場の常識は、日々目まぐるしく変わっていっています。〇〇は身体拘束にあたるので禁止、△△は利用者の意思を尊重できていないので不適切、など、研修のたびに新しい常識を学ばなければなりません。
中には「そんなこと言ってたら仕事にならない」「それもダメなの?」「うちの現場に実際来てみてくれ」と言いたくなるようなものもありますが、施設職員としては、研修で学んだことを、できる限り活かしながら働いていくしかないのです。
けれど、そうして自身の常識を変えてゆける職員ばかりではありません。太田さんは介護職のキャリアが30年以上あるせいか、昔のやり方が染みついてしまっているように思えます。
もちろん、キャリアが長くても柔軟に考え方を変えられる職員は大勢いますが、そのあたりは私たちも人間。個人差があっても仕方ないというのが、私の正直な感想です(私自身、他の職員から注意を受けることもあります)。
そもそも私たちは「利用者のこれまでの生活や、それに伴う考え方を大切にし、寄り添った介護を」と指導されています。昔の常識(これまでの生活)が染みついている職員の言動を、あっさりと否定してしまっていいのでしょうか。「あの人は古いから…」と白い目で見たくない、という思いもあります。
――私がこんな考えに至ったのには、ある出来事がありました。(後編につづく)
イラスト/たばやん
畑江のつぶやき
昔のやり方が染みついたベテラン職員の発言や行動に考えさせられることもあります