帰省時にチェックしておきたい高齢の親の違和感「少し痩せた?」「冷蔵庫にマヨネーズが5本も」支援が必要なサインと対策【専門家解説】
久しぶりの帰省で「なんだか様子が違う」と感じることはないだろうか。小さな違和感が「介護が始まる前兆だった」というケースもあり、早めの対策が必須だと介護職員・ケアマネジャーの経験をもつ中谷ミホさんは語る。親の変化を見極めるポイントは主に3つ「日常生活」「心身の状態」「金銭管理」。各チェックポイントと家族が取るべき対策について中谷さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
帰省時に感じる小さな違和感「支援が必要なサインかも?」
お盆や年末年始など、久しぶりに実家に帰省した際、親の様子や家の中の変化に「あれ?」と感じることがあるでしょう。
帰省は親の今の状態を直接確認できる貴重な機会です。小さな違和感は「支援が必要なサイン」かもしれません。見過ごしてしまうと、ケガや火災などの思わぬ事故につながる恐れもあります。
今年ももうすぐ帰省の時期、帰省時に確認しておきたいポイントについて、実例をもとに解説します。
実例/84才でひとり暮らしの母親「なんだか痩せた?」
新井良子さん(仮名・58才・会社員)は、半年ぶりに一人暮らしをしている母親(84才)のもとへ帰省しました。電話ではいつも元気な声を聞いていたのですが、久しぶりに会った母は、以前より少し痩せていました。
家の中にも、これまでと違う様子がありました。きれい好きで几帳面な母なのに、部屋は散らかり、ゴミ袋がいくつも置きっぱなしになっていたのです。冷蔵庫を開けると、賞味期限か数か月前に切れた食品があり、同じメーカーのマヨネーズが5本も入っていました。
「お母さん、どうしたんだろう。もしかして、認知症の始まりでは…」と、電話での様子とのギャップに、新井さんは不安を覚えました。
新井さんのように、親と離れて暮らしていると、日々の小さな変化には気づきにくいものです。帰省した時の違和感が、「要支援のサイン」「要介護につながる予兆」だったというケースも少なくありません。
せっかくの帰省、実家でゆっくり過ごしたいところですが、少しだけ時間をとって、「日常生活」「心身の状態」「金銭管理」の3つの視点から、親御さんの様子を確認してみてください。
【Check1】日常生活の変化
まずは家の中の様子をチェックしましょう。これまでできていたことができなくなっていたり、生活のリズムが乱れていたりする場合、何らかの心身の変化が起きているサインかもしれません。
□台所・冷蔵庫の中身
賞味期限が切れた食品が増えていないでしょうか。また、同じ調味料や食材をいくつも買い足してしまっていないかも確認ポイントです。「何を買ったか忘れる」「冷蔵庫の中身を把握できない」といった変化は、日常の記憶や判断に影響が出始めているサインかもしれません。
□身だしなみ・衛生面
入浴を面倒がるようになったり、同じ服ばかり着ていたりしないでしょうか。身だしなみへの関心が薄れるのは、体力の低下だけでなく、気力や意欲が湧かなくなっているサインの可能性があります。
□服薬管理
処方された薬が大量に残っていないでしょうか。飲み忘れや飲み間違いは、持病の悪化につながる恐れがあります。お薬カレンダーがきちんと使えているかも確認しましょう。
□火の元
鍋や、やかんに焦げ跡がある場合、注意が必要です。火の消し忘れなどの不始末は、命に関わる事故につながりかねません。ボヤ騒ぎになる前に対応が必要です。
□ゴミ出し
「室内にゴミが溜まっている」「ゴミを出す曜日を間違える」といったことが増えていませんか。 体力が落ちて重いゴミを運べなくなっていたり、ゴミ出しのルールを把握しきれなくなっていたりする可能性があります。
【Check2】心身の状態の変化
親の話し方やふるまいに、以前とは違うと感じる点はないでしょうか。
□会話・記憶
同じ話や質問を繰り返すだけでなく「つじつまが合わない話」が増えていないでしょうか。 約束の日時や場所を間違えるなど、「時間や場所の感覚(見当識)」が曖昧になるのも、注意すべきサインの一つです。
□性格・感情のコントロール
以前より怒りっぽくなった、頑固になったと感じる場合も注意が必要です。特に、これまで穏やかだった親が些細なことで怒り出すようになった場合は、認知症の初期症状の可能性があります。
□歩行・運動機能
歩く速度が遅くなった、小さな段差でつまずくといった様子は、転倒リスクが高まっているサインです。
【Check3】金銭管理の変化
お金の管理は、判断力の変化が表れやすく、トラブルにもつながりやすい項目です。
□支払い・管理状況
家賃や公共料金の支払いが滞っていないでしょうか。通帳や印鑑などの保管場所が分からなくなることが増えていないかも確認してください。支払いを忘れたり、大切なものの保管場所が分からなくなったりする状況は、判断力や記憶力に変化が起きているサインかもしれません。
□不要な契約・散財
不要と思われる高額な商品を購入していたり、未開封の健康食品が家に溜まっていたりしないでしょうか。このような状態は、すでに判断力がかなり低下しており、詐欺被害などのリスクも高まっています。早急に家族や専門職のサポートが必要です。
サインに気づいたら家族が取るべき対策
「もしかして認知症かも?」「このまま一人にしておくのは心配だ」と不安になっても、「しっかりしてよ!」「こんなに買い込んで!」などと問い詰めるのは逆効果です。まずは親の話にじっくり耳を傾け、必要に応じて専門家の力を借りましょう。
STEP1.さりげなく、「困りごと」を聞き出す
「何か困っていることはない?」とストレートに聞いても、親はなかなか本音を話してくれないかもしれません。
「心配をかけたくない」「まだ自分でできる」「迷惑をかけたくない」などさまざまな思いがあるからです。そのため、何気ない会話の中でさりげなく様子をうかがうのがポイントです。
たとえば、一緒に食事をしている時に「最近、買い物はどうしているの?」と何気なく聞いてみましょう。
もし「重い荷物を持ち帰るのが大変で…」と話してくれたら「今はネットスーパーや便利な宅配サービスもあるみたいだよ」と提案できます。
「食事の準備が面倒で…」という話が出れば「試しに配食サービスを頼んでみない?」と切り出すなど、会話の流れで一緒に解決策を考えやすくなります。
STEP2:専門家に早めに相談する
親の変化が「加齢によるもの」なのか「認知症や病気の症状」なのかは、家族だけでは判断が難しいものです。不安を感じたら、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
・相談先/地域包括支援センター
市区町村が設置する「介護の総合相談窓口」です。保健師・社会福祉士・ケアマネジャーなどの専門職が無料で相談に応じてくれます。
よく「親を連れて行かないと相談できないのでは?」と心配するかたもいますが、家族だけで相談に行っても問題ありません。電話での相談も可能です。親の様子で少しでも心配なことがあれば気軽に相談してみましょう。
親の住む地域のセンターがどこにあるかわからない場合は、役所のホームページや電話で確認できます。
・相談先/かかりつけ医
親が普段から信頼している、かかりつけ医に相談しましょう。もし受診を嫌がる場合、無理強いは避けましょう。
「市(区)の健康診断の案内が来ていたよ。せっかくだから一緒に行こう」と、あくまで一般的な検診として誘ってみるのも一つの手です。その際には、あらかじめ病院に連絡して「最近気になる症状があるので診てもらいたい」と事情を説明しておくとスムーズです。
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冒頭でご紹介した新井さんは、母親のかかりつけ医に相談し、認知症専門医の受診につなげることができました。「早めに相談してよかった」と、新井さんは振り返ります。
久しぶりの帰省は、親の「要介護のサイン」に気づける貴重な機会です。「あれ?」と思うことがあっても、見て見ぬふりをしてしまうと、ケガや火災、詐欺被害など、思わぬトラブルにつながることもあります。
親の様子で心配な点があれば、まずは地域包括支援センターやかかりつけ医に相談することをおすすめします。早めの行動が、親の安全と家族の安心につながります。
