「家族の介護が突然必要になったとき」介護保険サービスは認定前でも使える? 仕組み・注意点・流れまでを専門家が徹底解説
家族の介護が突然必要になったとき、介護保険サービスを利用するには「要介護認定」を受けていなければならない。しかし、まだ申請をしていない場合、「介護保険サービスを使えないまま介護が始まってしまうのでは」と不安を感じるかたも多いでしょう。介護職員・ケアマネジャーの経験をもつ中谷ミホさんは「認定前でも護保険サービスを利用することは可能」だと話します。中谷さんに詳しい話を伺った。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
介護保険サービスを利用するために必要な「要介護認定」
まず初めに介護保険サービスを利用するためには、市区町村に「要介護認定」を申請し、「要介護度」を判定してもらう必要があります。
→介護が始まる前に知っておきたい【要介護認定の申請方法】サービス開始までの流れを解説
申請を受理した市区町村は、30日以内に認定結果を通知することになっていますが、認定調査に手間取ったり、申請が一時的に集中したりすると、通知が遅れることもあります。そのような場合、認定結果を待たずに介護サービスを利用することはできるのでしょうか?
「認定結果が出る前に父親の退院が決まってしまった」という女性のケースをもとに対処法を解説していきます。
要介護認定の申請はしたが、退院までに認定が間に合わない!
「父の退院日が決まったのですが、要介護認定の結果がまだ出ていないんです」
そう不安を口にするのは、前川誠子さん(仮名・53才・会社員)です。
入院中の父親(83才)の病状は安定したものの、今回の入院をきっかけにトイレや入浴に介助が必要な状態になりました。父親は「自宅へ戻りたい」と話しており、誠子さんも介護サービスを利用しながら父親の介護と仕事を両立したいと考え、役所に要介護認定を申請しました。
ところが、認定結果が出る前に退院することになったのです。誠子さんは「介護サービスを使えないまま、在宅介護が始まってしまうのか」と不安を感じていました。
結論、認定前でも介護サービスは利用できる
実は、こうしたケースでは、暫定的に介護保険サービスを利用することが可能です。
というのも、介護保険法 では「要介護認定の効力は申請日にさかのぼる」と定められているからです。これは、最終的に要介護(または要支援)と認定されれば「申請した日から介護保険が適用される」※という仕組みです。
これにより、認定結果を待つことなく、介護保険サービスの利用を開始することができます。
※介護保険法(第27条第8項)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82998034&dataType=0&pageNo=1
認定前のサービス利用手順
認定結果を待たずに介護サービスを利用したい場合の進め方は以下の通りです。
ステップ1.地域包括支援センターに相談
まず親御さんが住む地域の「地域包括支援センター」に相談。センターの職員に状況を伝え、ケアマネジャー(介護支援専門員)を紹介してもらう。
ステップ2.ケアマネジャーが「暫定ケアプラン」を作成
担当のケアマネジャーがご本人の状態を確認し、予測される要介護度をもとに「暫定ケアプラン(仮のケアプラン)」を作成。介護サービス事業者との調整も行う。
ステップ3. 必要な介護サービスの利用開始
暫定ケアプランに沿って、訪問介護やデイサービス、福祉用具のレンタルといった必要な介護サービスの利用がスタートする。
このように、退院日までに要介護認定の結果が通知されない場合でも、ケアマネジャーに「暫定ケアプラン」を作成してもらえば、必要な介護サービスをすぐに利用できます。
つまり、誠子さんが不安に感じていた「認定結果が出るまで介護サービスを使えないのでは」という心配は不要で、退院直後から安心して在宅介護を始められるのです。
認定前に介護サービスを利用する際の注意点
暫定ケアプランにより、認定結果を待つことなく介護サービスを受けられるのは安心ですが、自己負担額が増えてしまうケースがあります。以下の2点に注意しましょう。
<1>認定結果が「非該当」だった
「非該当(自立)」と判定された場合、介護保険が適用されません。そのため、暫定ケアプランで利用した介護サービスの利用料は全額(10割)自己負担となります。
たとえば、1万円分の介護サービスを利用した場合、認定を受けていれば、介護保険の自己負担は収入に応じて1〜3割であるため、1,000〜3,000円の自己負担で済むところが、1万円全額を支払うことになります。
<2>想定より低い介護度だった
介護保険のサービスは、要介護度ごとに1か月あたりの利用限度額(支給限度基準額)が決められています。
もし「要介護2」を想定してサービスを利用していたのに、実際の認定結果が「要介護1」だった場合、要介護1の利用限度額(167,650円)を超えたサービス利用料は保険適用外となり、全額(10割)自己負担となります。
こうしたリスクを避けるため、暫定ケアプランで利用するサービスは、必要最小限に留めておくのが安心です。正確な認定結果が出たあとにケアマネジャーと相談しながら必要に応じてサービスを追加することをおすすめします。
以下は、要介護度別の支給限度基準額の一覧です。
(※この金額を超えてサービスを利用した場合、超えた分の利用料は全額(10割)自己負担となります。)
区分 支給限度基準額(円) 利用限度単位数 (1単位=10円の場合)
要支援1 50,320円 5,032単位/月
要支援2 105,310円 10,531単位/月
要介護1 167,650円 5,032単位/月
要介護2 197,050円 5,032単位/月
要介護3 50,320円 5,032単位/月
要介護4 362,170円 36,217単位/月
参考:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
入院後、介護が必要になりそうなら早めの申請&相談を
要介護認定の結果通知には約1か月かかるため、退院直前に申請しても間に合いません。市区町村の都合で遅れることもあるので、余裕を持ったスケジュールが必要です。
入院後、主治医から今後の治療方針や退院の見通しについて説明を受け「介護が必要になりそう」と予測できる状況であれば、要介護認定の申請を検討しましょう。早めの申請により、退院前に認定結果が通知される可能性が高まります。
もし、申請のタイミングについて迷ったら、地域包括支援センターや入院先の医療ソーシャルワーカーに相談してみると良いでしょう。
また「遠方に住んでいる」「仕事が忙しく申請に行く時間が取れない」といった理由で、家族が申請手続きを行うのが困難な場合は、地域包括支援センターに申請の代行を依頼することもできます。
早めの相談と申請をしておくことで、ケアプラン作成や介護サービス利用開始がスムーズに進み、安心して在宅生活を始められるでしょう。
介護サービス開始までの流れを確認
最後に、介護サービス開始までの一般的な流れを確認しておきましょう。
1. 要介護認定の申請をする
市区町村の介護保険担当窓口で要介護認定を申請します。本人または家族が申請できるほか、地域包括支援センターによる代行申請も可能です。
2. 認定調査を受ける・主治医意見書
市区町村の調査員が自宅や病院を訪問し、心身の状況について調査を行います。同時に、主治医が心身の状況について意見書を作成します。
3. 認定結果が届く
介護認定審査会で審査が行われ、申請から約1か月で認定結果が通知されます。要支援1・2、要介護1~5、非該当のいずれかで認定されます。
4. ケアプラン作成
認定結果に基づいて、ケアマネジャーがケアプランを作成します。本人や家族の希望を聞きながら、必要なサービスを組み立てていきます。
5. 介護サービス事業者と契約
利用するサービスごとに、各事業者と個別に契約を結びます。契約時には重要事項の説明を受け、サービス内容や料金について確認します。
6. 介護サービス利用開始
契約手続きが完了すれば、いよいよサービス利用開始です。定期的にケアマネジャーと状況を確認し、必要に応じてプランを見直していきます。
認定前にサービスを利用したい場合は、2番の認定調査と並行して4〜6番の手続きを進めることになります。
* * *
入院中に介護が必要になりそうだと分かったら、できるだけ早く要介護認定の申請を始めましょう。
入院に限らず、ケガなどをきっかけに介護が必要になる場合は多々あります。安心して速やかに介護サービスを受けることができるように、要介護認定の申請方法を知っておくことは大切です。
もし認定結果が退院までに間に合わなくても、暫定ケアプランを作成すれば、認定前からサービスを利用することも可能です。地域包括支援センターや医療ソーシャルワーカーに相談して、早めに準備を進めることで、安心して自宅での生活を始められるでしょう。