実はトラブルが多い!老人ホームの「入居一時金」転居や退去時に戻ってくる?倒産したらどうなる?【専門家解説】
「実は、老人ホームに関するトラブルの中で多いのが、入居一時金の返還に関することです」と話すのは相談員、ケアマネのキャリアを持つ中谷ミホさん。入居一時金は、転居や退去時には戻ってくるのか?倒産したらどうなるのか――。グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と有料老人ホームのケース別に、入居一時金の取り扱いについて解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
施設の転居・退去時「入居一時金は戻ってくる?」「倒産したらどうなる?」
多くの民間の老人ホームでは、入所時に「一時金」の支払いが必要です。しかし、この一時金が施設を転居・退去する際にどのように扱われるのか、よく知らないかたもいるのではないでしょうか。
実は、老人ホームに関するトラブルの中で多いのが、入居一時金の返還に関することです。そこで、今回は、入所時に初期費用を支払うことが多いグループホーム、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と有料老人ホームのケースに分けて、施設退去時の費用負担や入居一時金の取り扱いについて、ケース別に詳しく見ていきましょう。
グループホーム・サ高住の場合
グループホームやサ高住(一般型)に入所する際は、初期費用として敷金(保証金)を支払うのが一般的です。
敷金は、あくまで施設側に預けているお金のため、毎月の利用料を滞納していなければ、基本的には退去時に、原状回復費用を差し引いた金額が戻ってきます。
原状回復費用とは、入所していた部屋を元の状態に戻すために必要な費用のことです。例えば、入所者が負担する原状回復費用には以下のようなものがあります。
(例)
●引越し作業や車椅子などによるフローリングの傷
●物をかけるためにあけた壁の釘穴
入所者が負担するのは、故意・過失によって生じたもののみです。通常の使い方で、年月を経たことによる壁紙やフローリングの汚れなどは、施設側の負担となるため入所者側が負担する必要はありません。
なお、入所期間が長い場合や居室の使用状況により大規模な修繕が必要となると、ほとんど返金されない場合もあります。
原状回復の範囲や費用については、入所時の契約書に明記されているため、どのような場合にどの程度の費用がかかるのか、あらかじめ確認しておきましょう。
有料老人ホームの場合
有料老人ホームに支払う「入居一時金」は「前払金」とも呼ばれています。
この入居一時金は、入所時に20〜40%程度が初期償却されます。残りの金額は、施設に入所した期間(償却期間)に応じて償却されていきます。償却期間を超えて居住する場合、入居一時金は全て償却したことになるため、退去時の返還はありません。
例えば【入居一時金:500万円、初期償却率:20%、償却期間:5年のケース】では、入所した時点で100万円が初期償却され、残りの400万円を5年かけて償却することになります。
5年以内に死亡または退去した場合は、未償却分が返還されますが、5年を超えていれば、退去時の返還金はありません。
契約後90日以内の解約なら、全額戻る制度も
入居一時金のある有料老人ホームなどでは「短期解約特例制度(クーリング・オフ制度)」が導入されています。
この制度は、契約から90日以内であれば、居住した期間の利用料などを除く入居一時金を返還してもらうことができるというものです。
90日を1日でも過ぎると、この制度の適用外となり返還額が減少してしまうため、入所後に「施設に馴染めない」と感じた場合は、早めに決断することをおすすめします。返還金を他の施設への転居費用に充てることができるでしょう。
施設が倒産したら入居一時金はどうなる?
民間企業などが運営する老人ホームは、経営難に陥り倒産する可能性もゼロではありません。
そのようなリスクに備えて、2006年4月以降に開設された有料老人ホームやサ高住では、「入居一時金の保全措置」が法律で義務付けられています。
この制度により、万が一施設が倒産し、入居一時金の未償却分を入所者に返還できない場合でも、銀行や損害保険会社、公益社団法人有料老人ホーム協会などが代わりに、未償却金を上限500万円まで補償します。
保全措置をとっているか必ず確認を
ただし、2006年4月以前に開設した施設のなかには、保全措置をとっていないところもあるので、契約時には保全措置の有無を必ず確認しましょう。
退去時の原状回復費用や入居一時金の償却、返還金、クーリング・オフなどに関する詳細は、「契約書」や契約時に確認する「重要事項説明書」に記載されています。
退去するときになって「そんなことが書いてあったの?」と後悔しないよう、契約前にしっかりと内容を読み込み、十分に理解しておくことが重要です。
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