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暮らし

認知症を患う親の介護施設問題「認知症<可>の施設から入所を断られた」事例と対処法を専門家が解説

 高齢の親の認知症が進み、在宅介護が難しくなってきたので施設介護に切り替えたい――。そんなとき、介護施設を選ぶには注意すべきポイントがある。「認知症受け入れ可能」という条件を掲げている施設でも、入所を断られてしまうケースがあるという。そこで、ケアマネ・介護職員の経験をもつ中谷ミホさんに、入所を断られるケースとその対処法を教えてもらった。

この記事を執筆した専門家

中谷ミホさん

福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703

認知症対応可能だったのに施設に入所を断られた!

「高齢の親が認知症で排泄の失敗が増えてきて、在宅介護がしんどくなりました。近くの特別養護老人ホーム(特養)に申し込んだところ、すぐに『受け入れの方向』と返事をもらったのですが、入所の準備を進めていた矢先に『検討したが受け入れられません』と断られてしまいました。認知症対応可能だと聞いていたのに…」(Aさん、50代女性)

 このように、せっかく認知症の家族のために見つけた「認知症対応可能」の施設ですが、あっさりと断られてしまった経験を持つかたも少なくないようです。

 この記事では、「認知症対応可能」の施設なのに入所を断られた事例や、断られた際の対処法について解説していきます。

 認知症を受け入れている高齢者施設は、要介護3から入所できる「特養」や、医療ケアが手厚い「老人保健施設(老健)」、認知症ケアに特化した「グループホーム」、民間が運営する「介護付有料老人ホーム」など、さまざまな種類がありますが、認知症の人の受け入れ基準は、どうなっているのでしょうか。

入所を断られるケース

ケース1「認知症の症状が重い」

「認知症対応可能」とうたう施設であっても、受け入れ基準は施設ごとに異なります

 そのため、軽度の認知症のみ受け入れ可能としている施設では、症状が重いかたの入所を断ることがあります。

 たとえば、以下のような認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が見られるなどのケースです。

●幻覚や妄想があり、他者を泥棒扱いする

●異食があり、食べ物でないものを口にする

●徘徊の症状があり、一人で施設の外に出て行ってしまう可能性がある

●奇声を上げて暴れる、暴力を振るうなどの症状・行為がある

●廊下などトイレ以外の場所で排泄する

 軽度の認知症のみ受け入れ可能としている施設では、これらの症状があるかたをケアするスタッフの体制や建物の間取り、セキュリティ体制などが十分に整えられていない場合があります。

 そのため、施設側が「本人の身の安全を保証できない」あるいは「ほかの入所者との間でトラブルが起きる可能性がある」などと判断したケースは、入所を断ることがあるのです。

 冒頭のAさんのケースは、排泄の問題がネックとなっていたのかもしれません。

 Aさんのケースは、排泄の問題がほかの入居者に迷惑をかける可能性があることから、共同生活が難しいと判断され、入居を断られた可能性があります。

ケース2 「医療のサポートが必要」

 持病により、医療のサポートが必要な場合も入所を断られることがあります。

 たとえば、以下のようなケースです

●糖尿病で1日に複数回のインスリン注射が必要だが、認知症のために自己注射ができない

●在宅酸素が必要だが、認知症のために、自身で在宅酸素の管理ができない

 インスリン注射や在宅酸素の管理は医療行為となるため、介護スタッフは行えず、看護師が実施します。

 しかし、高齢者向け施設には、看護師が配置されていない施設も少なくありません。また、看護師が常駐する施設であっても、夜間や早朝は不在で、医療行為が行えるのは日中のみというところもあります。

 そのような施設では、24時間体制で医療のサポートを行えないため、日常的に医療行為が必要な方の入所を断ることがあるのです。

入所を断られた場合の対処法

 希望していた施設に入所を断られたら、どう対処すればよいのでしょうか?

1.まずは入所できない理由を確認する

 まずは、入所を断られた具体的な理由を施設側に説明してもらいましょう。

 その理由が正当なものであれば、施設側がネックに感じている部分を改善することで、入所を許可してもらえる可能性があります。

 たとえば、施設が対応できない医療行為がネックになっているのなら、主治医に相談して、施設が対応可能な治療方法に変更してもらうと良いでしょう。

 一方、納得できない理由で入所を断られた場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談すると解決に向けてサポートしてもらえる可能性があります。

2.認知症ケアに特化した施設などを探す

 ほかの施設であれば、受け入れてもらえる場合もあるため、施設を探すことも有効な対処法です。

 認知症の症状が重いことを理由に断られたケースでは、認知症のかたを専門的に受け入れている施設であれば、すんなりと受け入れてもらえる可能性があります。

 施設の種類を具体的に挙げると、公的な施設であれば認知症専門フロアのある特養や老健、民間の施設では、認知症ケアに積極的に取り組む有料老人ホームなどがおすすめです。

 これらの施設では、認知症ケアの知識と経験豊富な職員が、24時間体制で入所者を見守り、安全面に配慮した生活環境を提供しています。適切な対応を受けることで症状の緩和も期待できます。

 また、医療的なサポートが必要なことを理由に断られたケースでは、医療体制の整った以下のような施設を探すと良いでしょう。

 公的施設であれば夜間や早朝でも医療行為を受けられる、介護老人保健施設や介護医療院を検討してみましょう。

 民間施設であれば、24時間看護師が常駐する有料老人ホームが選択肢です。民間施設は高額なイメージがありますが、リーズナブルな金額で入所できる有料老人ホームもあるため、探してみるといいでしょう。

 なお、グループホームも認知症ケアに特化した施設です。しかし、「少人数で共同生活を送る」という施設の性質上、暴力行為がある、奇声を上げるなどの症状が見られるかたは、施設側に「他の入居者との共同生活に支障がある」と判断され、入居できない場合があります。

3.地域包括支援センターやケアマネに相談する

 なお、入所希望者の状況に合う施設を家族だけで探すのは時間がかかり、効率的ではありません。

 施設への入所を検討している段階で、地域包括支援センターや担当のケアマネジャーに相談することをおすすめします。地域の介護施設や老人ホームの情報を持っているので、効率よく施設を探すことができるでしょう。

まとめ

「認知症対応可能」とうたう施設であっても、入所希望者の状態によっては、対応が難しいと判断され、入所を断られるケースがあります。

 そのような場合にはこの記事を参考に慌てずに対処しましょう。どうしたら良いか困った場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談して、スムーズに施設入所できるようにサポートしてもらうといいでしょう。

※参考

厚生労働省「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000663498.pdf

厚生労働省「介護老人保健施設」第183回(R2.8.27)
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000672494.pdf

厚生労働省「介護医療院公式サイト」
https://www.mhlw.go.jp/kaigoiryouin/about/

※実例は取材をもとに一部設定を変更しています。

写真/イメージマート

●認知症の母に「最期まで自宅で暮らして欲しい」と願う息子が10年ぶりに介護施設を見学した理由

●介護専門弁護士が明かす「こんな介護施設は危険」|実例で学ぶ「ブラック老人ホーム」の見極め方

●「こんな介護施設は避けるべき」6つのポイントをベテランケアマネが座談会で提言!

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