お風呂は「40℃で10分間」 健康効果を高める“究極の入浴法”を温泉療法専門医が指南
入浴は健康に役立つ習慣だが、入浴効果を高めるにはポイントがある。そんな「究極の入浴法」を指南しているのが、『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』(アスコム)を上梓した、温泉療法専門医の早坂信哉さん。「究極の入浴法」のやり方と、入浴時間を楽しくするためのアイデアを教えてもらった。
教えてくれた人
早坂信哉さん/温泉療法専門医
はやさか・しんや。温泉療法専門医、博士(医学)、東京都市大学教授。自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。自治医科大学大学院医学研究科修了後、浜松医科大学医学部准教授、大東文化大学スポーツ・健康科学部教授などを経て現職。7万人を超える入浴習慣を医学的に調査してきた”入浴のスペシャリスト”で、日本健康開発財団温泉医科学研究所所長、日本銭湯文化協会理事、中央温泉研究所理事、日本温泉気候物理医学会理事、日本入浴協会理事も務める。著書に、『入浴 それは、世界一簡単な健康習慣』(アスコム)など。
「40℃で10分間」浸かるのが最もおすすめ
健康に良い「お風呂」だが、早坂さんによると、究極の入浴法の指標があるという。それは「40℃で10分間」浸かることだ。お湯の温度によって体への作用は異なるが、40℃は温熱作用をしっかり得ることができ、かつ安全に入浴ができる絶妙な温度であるためだ。
また、「10分」は、深部体温をしっかり上げるのに必要で、かつ熱中症を避けられる時間となる。
「10分を超える長風呂は深部体温が上がりすぎて、熱中症のリスクが高まるため注意が必要です。ちなみに、10分は長すぎる!という方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心ください。『合計で10分』なので5分浸かったら体を洗って、また5分、という入り方でも構いません」(早坂さん・以下同)
全身浴は効率よく体が温まる
湯船に浸かる際は、肩までしっかり浸かる「全身浴」がおすすめだ。体を効率よく温め、血流を促進する温熱作用がしっかり得られるためだ。お湯の圧力によって血液やリンパの流れが整ううえ、浮力で関節や腰への負担も軽減されるため、体のだるさも引いていく。
「みぞおちまで浸かる『半身浴』は、心臓や肺への負担が少ないので、全身浴で息苦しくなる方にはおすすめです。ただ、肩や背中が湯に浸からない分、体の深部まで温まりにくく、温熱作用が十分に得られません」
具体的な「究極の入浴法」
さらに、より具体的な「究極の入浴法」も教えてもらった。
《究極の入浴法》
【1】コップ1杯(200~300ml)の水分を取る
【2】手桶で10杯ほどのお湯を手足の先にかけ、次に全身にかける
【3】体や髪を洗う
【4】40℃のお湯に10分間、肩まで浸かる
【5】ゆっくり湯船から上がり、すばやく水滴を拭き取り保温をする
【6】コップ1杯(200~300ml)の水分を取る
【7】10~15分休憩する
「湯船に浸かっていて顔や額が汗ばんできたら、深部体温がしっかり上がったサインです。温泉などで温度を測れない場合は『額が汗ばんだら湯船から出る』を目安にします」
週に3回以上入るのがおすすめ
基本的には、入浴回数は増えれば増えるほど効果が出やすい。早坂さんが過去に行った研究でも、入浴回数が週2回以下だとあまり効果がなく、週に3回を超えると効果が出始めるそうだ。
「シャワーだけで済まさずに、できる限り湯船に浸かっていただきたいのですが、平日は帰宅が遅くなって入浴がおっくうかもしれません。そんな方は、週末だけでも湯船に全身を浸すことをおすすめします」
10分間浸かるのが大変な場合の対処法
40℃で10分浸かるのが「究極の入浴法」だが、10分間ずっと浸かるのが大変、という人もいるだろう。その理由がもし「熱い」「のぼせる」といったものなら、連続で10分浸かるのではなく、合計で10分間浸かる形でも問題ない。5分浸かったあと、体を洗い、再度5分浸かるようにすれば、のぼせてしまうリスクも小さくなる。
「大事なのは、合計で10分浸かることです。5分ずつというように、分割してもよいでしょう」
一方、退屈で10分間浸かるのがつらい場合は、入浴を楽しくするアイデアを採り入れるのがおすすめだ。
歌で呼吸筋強化の時間に
最初に紹介したいアイデアは「湯船で歌うこと」だ。何もしない10分間は退屈だが、歌であれば、3~4曲歌っているうちに10分間をクリアできる。さらに、湯船で歌うことには呼吸筋を鍛えられるというメリットもある。呼吸筋は肺の機能を支えている大事な筋肉だが、トレーニングが難しく、弱っても気づきにくい。一方で、湯船で歌うと呼吸筋を鍛えることにつながるという。
「湯船に浸かっているとき、体には水圧がかかっています。特に胸まわりは外から押されるように圧迫され、その状態で歌うと、呼吸筋に負荷がかかります。ですから、ただ気持ちよく歌っているだけで、無理なく呼吸筋を鍛えることができるわけです」
フルーツやドリンクを持ち込む
お風呂にフルーツやドリンクを持ち込むのもおすすめだ。お気に入りの一杯を持ち込めば、入浴時間が楽しくなるうえ、水分補給もでき、脱水も防ぐことができる。また、フルーツを食べることも水分補給になる。特に、スイカや梨、みかんやオレンジなど水分の豊富なフルーツがおすすめだ。
「入浴中は皮膚の血流が増える一方で、内臓への血流は減少するため、消化の悪い固形物を食べると胃腸に負担がかかってしまいます。その点、水分量の多いフルーツなら安心です。ただし、フルーツは果糖が多く、夜に食べすぎると脂肪として蓄積されやすくなるので、あくまでちょっとした楽しみとして取り入れてみてください」
「マインドフロネス」の時間に
どんな音が聞こえるか、今自分の体は何に触れているか、「今、この瞬間に自分が感じていること」に意識を集中させる心のトレーニングを「マインドフルネス」というが、早坂さんはこれを入浴中に行う「マインドフロネス」をすすめている。マインドフルネスには心を落ち着かせ、ストレスを和らげる効果があるが、浴室は誰からも話しかけられることはなく、生活音も少ないため、最適な空間だ。
「ポタッ、ポタッという、蛇口からしたたる水の音だけに意識を集中させて、ほかのことは考えないようにします。すると、しだいに余計なことを考えなくなり、気持ちがスッと落ち着いていくでしょう」
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