倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.90「世界で一番信用していること」
漫画家の倉田真由美さんが夫の叶井俊太郎さんを自宅で看取った経緯を綴った書籍がまもなく発売となる。新著では最期の日々を漫画にも描いているが、ペンを入れる作業は「涙が溢れた」という。叶井さん自身、とても漫画が好きな人だった。彼の遺した膨大な漫画を目の前に、今想うこととは。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。著書『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)など多数。最新著『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』が9月26日に刊行。9月30日には「本屋 B&B」にて発売記念イベントを開催予定。https://bookandbeer.com/event/20250930_hed/
本棚を整理していたときのこと
久しぶりに本棚を整理していたら、二重になった本の奥の方に、夫が好きだった漫画が1巻から最終巻まで、ずらりと出てきました。
夫と結婚した当初から10年以上住んでいた家を出て、今の家に引っ越したのは5年ほど前。その時に、お互いの蔵書をかなり処分しました。前の部屋よりずっと狭く、たくさんある漫画や小説などの本を三分の一以下にしようと決めて、「どうしても手放せないもの」以外は売ったり人にあげたりしました。
夫とは漫画や本の趣味がかなり似ていて、「二人とも読めるもの」が大半を占めます。結婚当初、これは嬉しい驚きでした。重なっているタイトルがいくつもあったから。その時もダブったものは処分しました。
引っ越しでは、夫か私どちらかしか読まないもの、二人とも読めるけど優先度の低いものの中から選別して処分を決めていきました。何千冊もあったので、結構手間はかかりました。
「これ処分していい?」
「いや、だめ」
「これは?」
「うーん…まあ、いいか」
と、お互いの合意が得られないものは処分できなかったので、結局三分の一までは無理でしたが、それでもダンボール10箱以上は減らせました。
とはいえ、引っ越し後いざ本を並べてみると、減らした本棚から溢れてしまい、更に新しく買うのでどんどん本は増えていきました。夫も私も「紙で読みたい派」なのです。
読んでいない人気漫画が…
昨年2月、夫がいなくなり、夫しか読まないものは徐々に処分しました。いかにも夫の趣味、夫らしい本はそれでも手放せませんが、私が読めないものは基本的に家には置きません。スペースの問題もありますが、私は本も漫画も好きだから、好みじゃないものを好きなものの中に混ぜておきたくないのです。夫がいた時は、まったく気にしていませんでしたが。
今回出てきたのは、30年以上前に少年誌で連載されていた人気漫画。でも絵が私の趣味ではなくて、読んでいないタイトルでした。
「これは処分するよね?」
夫に尋ねたのを覚えています。すると夫は、
「しないよ、これめちゃくちゃ面白いんだよ!」
と、力説していました。その時の風景、前の家の一番大きな本棚の前での風景を、漫画のタイトルを目にした瞬間に思い出しました。
夫の漫画や映画のセンスは、私は世界で一番信用していますが、その時は「じゃあ、読んでみようかな」とはなりませんでした。そして新しい本棚の奥にしまわれたまま、今日久しぶりに表に出てくることになったのです。
――読んでみようかな。
あの夫が褒めちぎった漫画、表紙を見る限り好みの絵ではないけど、夫のセンスを信じて読んでみることにします。
倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」を1話から読む
倉田真由美さんの連載が一冊の本になりました!『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』(9月26日発売)。お求めはお近くの書店まで。