介護に必要な福祉用具「レンタルか購入か」選択制になった3アイテムの賢い活用法を福祉用具専門相談員が解説
介護が始まると手すりや車いすなど「福祉用具」が必要になることも。要介護認定を受けることで、福祉用具は介護保険を使ってレンタルまたは購入が可能になる。昨年の制度の改正により活用法が一部変更となった。改めて改正の内容と最新の活用法について、福祉用具の専門家に教えてもらった。
教えてくれた人
福祉用具専門相談員・山上智史さん
東京・新宿区の介護事業所K-WORKERに勤務。福祉用具専門相談員・住環境コーディネーター2級・介護福祉士、行動心理士などの資格をいかし、「高齢者の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした環境作り」を実践。https://k-worker.co.jp/
選択制導入で利用しやすくなった福祉用具3種
介護に使用する「福祉用具」は、介護保険を使って購入・レンタルできる。2024年の制度改定により、これまでレンタルしかできなかった3品目「スロープ」「歩行器」「歩行補助つえ」について、レンタルか購入かを選べる「選択制」が導入された。
福祉用具専門相談員で介護福祉士の資格ももつ、山上智史さんによると、
「レンタルや購入の選択肢が増えることで、利用者はより自分の身体の状況や利用頻度、料金などを照らし合わせて、最善のものを利用できるようになります」
とのこと。
改正から1年経ち、介護現場ではどんな変化が起きているのだろうか?
「利用者のかたにとっては、レンタル・購入の選択の幅が広がりました。例えば固定式スロープを1割負担のかたが購入を選択すると、金額的には長期にレンタルするよりもお得になるケースもあります。
しかし、金額面だけでなく、ほかにもメリット・デメリットについての情報をきちんと知ってから選択することが重要です」(山上さん、以下同)
購入できる特定福祉用具
腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部分、排泄予測支援機器、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部分
選択制(レンタル・購入)が導入された福祉用具(2024年~)
スロープ、歩行器、歩行補助つえ(松葉杖を除く)
レンタルできる福祉用具
車椅子、車椅子付属品、特殊寝台(介護用ベッド)、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト(つり具部分を除く)、自動排泄処理装置
選択制の3品目「レンタル・購入」のメリット・デメリット
選択制の対象となった3品目の活用法や、レンタルと購入のメリットとデメリットなどを教えてもらった。
【1】スロープ
選択制の対象となったのは、部屋内の段差などを解消するためのスロープで、取り付けに工事を伴わないもの。
「室内で車いすを自分でこぐときに、段差で止まってしまい移動できないなどを防ぐために、置いて使います」
★活用の注意ポイント
「今回の選択制の対象になっているスロープは、室内外の小さな段差で使用するものです。携帯用スロープや、玄関の外やマンションのエントランスにあるようなセメントで作るスロープとは別のものになります。
部屋のちょっとした段差にスロープを配置することで、車いすなどの移動がしやすくなります。また、これがないと室内で車いすを自分でこぐときに、段差に車輪が突っかかって止まってしまうことがあります。置くだけなので使いやすいと思います」
【2】歩行器(歩行車は除く)
歩行が困難な利用者の歩行機能を補う機能があり、移動時に体重を支える構造がある四脚のもの。上肢で持って移動できるもの。
★活用の注意ポイント
「四脚の先にゴムがついてしっかりと立つためのサポートをしてくれます。歩行器は、リハビリに使うことが多いですね。ただし、腕の力が弱くなったかたや片麻痺があるかた、腕の変形などがあるかたは使うことは難しいので、医師や福祉用具専門相談員に相談してください」
【3】歩行補助つえ
改正により4タイプの杖がレンタルと購入から選べる選択制の対象となった。
「介護が必要なかたが増え、一本杖では歩行を支えきれない人が使う多点杖などの4種類の杖が選択制の対象になりました」
選択制に該当する杖のタイプは、『ロフストランド・クラッチ』『カナディアン・クラッチ』『プラットホームクラッチ』『多点杖』。なお、松葉杖は対象外となる。
●ロフストランド・クラッチ(前腕固定型つえ)は、カフと呼ばれる前腕を支える輪が付いていて、握力の弱い人でも身体を支えやすくなっている。
●カナディアン・クラッチ…ロフストランドに似ているが、カフの位置が肘の上にある。
●プラットホームクラッチ…前腕支持部に腕をのせて体重を支える。グリップは、手を添える程度でも可。角度も調整ができる。リウマチなどでグリップを握ることが難しい人に適している。
●多点杖…多脚杖とも呼ばれ、床面に接する杖の先端が3~5脚に分かれ、安定感がある杖。バランスの悪い人でも使いやすい。
「多点杖は、4点が主流ですが、3点や5点もあります。3点はコンパクトで扱いやすく、5点はより安定性があります。利用者の身体的状況や歩行能力に合わせて選んでいただけたらと思います」
活用の注意ポイント
「一本杖(1点杖)と多点杖は、つき方がそもそも全く違います。一本杖はリズムよく、先について身体を押し出す感じで使います。
一方、多点杖は、腕で持ちあげて、地にしっかりつくイメージです。一本杖で軽快に歩けるかたが多点杖を使うと、かえって機能低下につながる可能性もありますので注意が必要です。
自分の身体に合ったふさわしい杖を使うことで、歩行能力が回復し、杖を卒業して軽快に歩けるようになったかもいらっしゃいますよ」
「選択制」の利用方法
介護保険を使ってレンタルや購入の幅が広がったこれらのアイテムを活用するには、福祉用具専門相談員などの専門家に相談することが大切だ。
「福祉用具は、身体の状態や体型の変化により、そのときの状況に合ったものを使うことが重要です。合わないものを使っていると、不便なだけではなく、かえって身体能力を衰えさせてしまうことがあります。ですから、定期的な見直しが必要なのです。
福祉用具専門相談員は、半年に一度、福祉用具が合っているか、壊れているなどの不具合がないかモニタリングをするように定められています。必要に応じて、適切に道具が使われているか、医師や理学療法士、ケアマネジャー(ケアマネ)などと情報共有もしています」
レンタルか購入か?メリット・デメリット
福祉用具のレンタル・購入のメリット・デメリットを教えてもらった。
レンタルのメリット・デメリット
メリット/経済的負担が軽い。定期的なメンテナンスをしてもらえる。お試しができる。身体に合わせて交換できる。
デメリット/新品ではない。取り扱いに注意する必要がある(修理費などがかかる場合も)。長期利用しても自分の物にはならない。
購入のメリット・デメリット
メリット/長期的にみると経済的。自分の物になる。
デメリット/調整はしてもらえるが、定期的なメンテナンスはしてもらえない。不要になった場合、置き場所の問題や、処分に手間やコストがかかる。
「レンタル・購入」どちらが適しているのか?
「レンタルの場合は、経済的な負担が軽くなりますが、一番は身体に合わせて交換できることが最大のメリットです。
3品目の中では、「スロープ」は段差の高さが変化しないという観点から購入に適していると思います。レンタルだと規定の仕様しか選べませんが、購入の場合にはご自宅の環境にフィットしたものを選べ、気兼ねなく使えます。
一方、歩行器や杖は、体の変化に合わせてお使いいただいた方がいいので、レンタルをおすすめすることが多いですね。
2年以上長期に使う見込みのあるかたは、金額的には安くすむので購入を選ぶかたもいます。
選択制について気になるかたは、ケアマネさんや福祉用具専門相談員に相談してみてください。メリット・デメリットを踏まえて、どんな道具が最適なのか理解した上で判断してほしいと思います」
写真提供/山上智史さん 取材・文/本上夕貴