【介護のプロ座談会】介護現場で感じる”モノの力”と課題 「困った介護用品・福祉用具」「人とモノとのミスマッチ」「機能性だけではない大事なポイント」|介護マーケティング研究所 by 介護ポストセブン
慢性的な人手不足が指摘される介護現場。 つい、”人の力”だけをフォーカスしてしまいがちだが、介護用品や福祉用具などの“モノ”も、「介護する人」・「介護を受ける人」にとって重要な役割を担っている。介護マーケティング研究所 by 介護ポストセブンでは、介護の専門家である5人に集まっていただき座談会を開催。介護現場で感じる“モノの力”について聞いた。【全3回の第1回】
【5人の介護の専門家】
■管理栄養士 稲山未来さん
東京都出身。Kery栄養パーク代表。「全ての人に食べる喜びを」をモットーに、訪問栄養食事指導に力を注ぐ。認定在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、認知症ケア専門士などの資格をもち、栄養指導や地域栄養講座の開催、管理栄養士の教育なども行う。好きな食べ物は「鮎」。
■皮膚・排泄ケア特定認定看護師 浦田克美さん
東葛クリニック病院看護部主任。皮膚・排泄ケア特定認定看護師としてYouTube「チャンネルはぴなぴ」やセミナーで、健康や排泄についてやおむつの正しい使い方など介護に役立つ情報を発信中。看護師として、介護する人・される人に寄り添った活動を続けている。共著に『褥瘡ケアのプロになる 看護の技とおむつケア』(医学と看護社)など。
■社会福祉士・精神保健福祉士 渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)がある。
■ケアマネジャー・フリーライター 中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。
■福祉用具専門相談員 山上智史さん
東京・新宿区の介護事業所K-WORKERに勤務。福祉用具専門相談員・住環境コーディネーター2級・介護福祉士、行動心理士などの資格をいかし、「高齢者の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした環境作り」を実践。
ここが困った!介護用品・福祉用具
介護現場で多くの人が使用している介護用品や福祉用具。しかし、介護をする側にとって「ここが困った」というモノは多くあるという。まずは、介護する側として困った場面やモノを挙げてもらった。
渋澤:親の介護中に、親が宅配弁当を火にかけてしまったことがあったんですよ。そこで感じたことは、例えば介護用のレトルト食品に「電子レンジ対応可、オーブン対応不可」などと書いてあっても、小さな文字の覚え書きなんて見えないし読まないということです。
浦田:それ、わかります! 紙おむつの場合も、灰色の文字で小さく「前」「後」と書いてあっても、おむつを着用するかたはもちろん、介護する人にもわかりづらいんです。
山上:排泄の場面で思い出したのですが、一部のポータブルトイレは、座る部分から足元にかけての形が床に対してまっすぐになっているものがあるんです。そうしたタイプですと、足を引き込むスペースがないので足を踏ん張れず、座ったり立ったりが難しいという場面もありましたね。以前にくらべ改善されてきてはいるんですが…。
介護現場で人とモノのミスマッチはなぜ起こる?
現場では要介護者とモノのミスマッチが多く発生しているようだ。では、なぜミスマッチは起こってしまうのか? また、介護の専門家はどのようにミスマッチを防いでいるのだろうか。
浦田:介護用品は種類がたくさんあって、選べていない、使い分けられていない、ということを感じています。例えば、紙おむつは病院ですすめられたものを退院した後もずっと使っていることが多い。排泄状況や生活環境は人それぞれなのに、同じものを使い続けているんです。
山上:おっしゃる通りですね。モノは変わらないけど人の身体は変わる。それを本人や家族が認識できていないので、同じものや合っていないものを使い続けてしまうんだと思います。
そこで私は、ミスマッチを防ぐために各介護用品や福祉用具自体のデメリットを、また使用することで生じるデメリットをちゃんと伝え、納得し、自己決定していただけるようにしています。
例えば、車いすのメリットだけを伝えたら「それ買いたい!」になるんですけど、「でも下肢筋力の低下になりますよ」とデメリットも伝えると「もう少し歩行器でがんばってみようかな」という自己決定ができる。納得して使うことが大切だと考えています。
介護を受ける人たちの世代が変わるとモノへの意識も変わる?
専門家たちによると、介護を受ける人たちの世代の変化を感じる中で、機能性と同じくらい重要視していることがあるという。
浦田:デザインの力も信じていますね。戦後を生き抜いてきた人たちは、最低限の機能性を重視した商品を望むかもしれないけれど、次の世代の高齢者は、ある程度、豊かな時代も経験しているので、機能性に加えてデザイン性が高いモノを望むんだろうなと思います。
日本の紙おむつは機能性重視だからカラー展開されているものを目にしません。とくに女性は、おしゃれでいられる杖や靴を身に着けると嬉しそうな表情をするかたも多いんですよ。
渋澤:わかります。私もデザインに、もう少し力を入れてほしいと感じますね。例えば食事用のエプロンに柄やレースをつけるとか、些細なことでもいい。少しでも華やかな気分になるような食事時間にしてほしいな。
寝ながら着られる着物や首まわりだけの着物などもあって、そういうモノを取り入れることによって、自分という存在をアピールできることも大切だと思うんです。
中谷:入所者さんと一緒に買い物に行っても、適切なサイズや色がないんですよね。胴回りが大きい女性に着られる洋服が少ない。ネットショッピングではなく、実物を見て選ぶ楽しみも大切にしてあげたいと感じることが多いですね。
介護現場における“モノの力“とは?
要介護者の自己決定や自立を促したり、尊厳の低下を防いでくれたりするモノの力。では、介護者にとってのモノの力とはどのようなものなのだろうか? AIも普及している現在において、モノとのうまい付き合い方とは?
渋澤:介護者と要介護者とで、win-winの関係が構築できるようなモノがあるといいですね。
稲山:そうそう、win-winの関係で思い出したんですけど、料理を写真で撮ると栄養計算してくれるAIがあるんです。管理栄養士もパソコンを使って栄養計算はできるけど、計算している姿は要介護者には見えない。そういう見えない努力はAIに任せて、余力を利用者に向けられるので、愛(!)が増える可能性はあると思います。
他にも、認知症の人が持つぬいぐるみやロボットもあると思うんですけど、1日誰とも会話しない人にとっては、多少寂しさが和らぐと思うので、対人ではないからといって冷たい感じはしないと思うんですよね。
山上:うんうん、介護現場においてモノの力は重要だと思っています。モノを置いておけば本人の意思やタイミングで行動を起こせることもあるんです。介護者が担うケアとは違うアプローチとして、モノの力はあると思っています。
介護において、介護者とモノは両輪ですね。要介護者の良さを引き出してくれるモノもあるので、便利なモノはもっと知ってほしいし、自分もヘルパーをやっていた時代に知りたかったですね(笑い)。
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要介護者、ひとり一人に合った機能とデザインを持ったモノを使用することは、介護する側の介護現場が抱える負担軽減の鍵になるのかもしれない。
構成・文/介護マーケティング研究所