現役最高齢の日本料理研究家“ばぁば”の「夏ごはん」7つの知恵
“ばぁば”こと日本料理研究家鈴木登紀子さん(94)の手仕事は目からウロコな知恵がいっぱい。「キャベツはゆでてたっぷりと」「卵は手早くざっくり炒める」…etc.。
ばぁばの知恵がつまった、旬のかつおや夏野菜、ふんわり卵や豚肉などを使った愛情たっぷり料理で、酷暑にへたらない体づくりを!
かつおは蒸してなまりぶしに。野菜や薬味とアレンジは無限大
「今の時期のかつおはさっぱりとした味わいが身上。大きなさくがお安いのもうれしいわね。特売で新鮮なものを見つけたら、迷わずいちばん大きいのをお買いなさい(笑い)。まず刺身で食べて、残りは蒸してなまりぶしにすれば冷蔵庫で4~5日は保存がききます。
それからお肉も、きくらげを一緒にふわふわ卵と炒めるといいのよ。食欲がない時でも、鮮やかな色合いに、思わず目が『いただきます!』ってなりますから」(ばぁば)
蒸すことで旨みが凝縮され、保存もきくかつおのなまりぶしは使い勝手が最強。常備しておけば、とりあえずの酒菜やプラスおかずで大活躍すること間違いなし!
ばぁばの知恵 その1:かつおは新鮮なうちになまりぶしに
「昔は魚も一尾買いでしたから、かつおも立派なものを母のお千代さんは買っていました。まずはお刺身にして、父の酒菜や晩ご飯のごちそうに。そうして残りもあますところなく、たたきやなまりぶしにし、血合いのところも甘辛く炊いていました。捨てるところがなかったわね。
直火で炙ってたたきにするのももちろん素晴らしいのですが、なまりぶしにしておけば、さまざまなお料理に使えます。今回は手軽な和えものにしましたが、お野菜と炊き合わせてもよし、お吸いものに入れてもよし、酢飯と混ぜて手こね寿司にしてもよし。お料理したくない時にも重宝します。
気を配っていただきたいのは、なまりぶしと合わせるお野菜の支度です。みょうがやきゅうりは厚みが揃った薄切りにして氷水に放し、シャキッとさせること。歯ざわりのよさが涼味を引き立てます。器もしっかり冷やしたものに盛りつけてくださいね」(ばぁば)
●とっても簡単!なまりぶしの作り方
<作り方>(2~3人分)
新鮮な刺身用のかつおのさく200gに塩少量、酒大さじ3をふり、皮目を上にして蒸し器に入れ、小ぶりなものなら20分、大きめなら30分蒸す。
「かつおが蒸し上がったら、まず熱々を大根おろしとしょうがじょうゆで召し上がれ。格別のおいしさですよ。あとは冷めるのを待って、手で大ぶりに裂きます」(ばぁば)
ばぁばの知恵 その2:しょうがじょうゆは夏の万能選手
●しょうがじょうゆ和え
<作り方>(作りやすい量)
【1】なまりぶし200gは食べやすく裂く。
【2】しょうがのみじん切り大さじ1、酒小さじ1、薄口しょうゆ大さじ1を混ぜ合わせておく。
【3】きゅうり1本は薄切りにして立て塩(塩分濃度3%くらいの塩水につけること。水1カップに対して塩小さじ1が目安)でしんなりさせ、布巾に包んで水気を絞っておく。ラディッシュ1個は薄切りにして氷水に放し、水気を切っておく。
【4】ボウルになまりぶし、きゅうりとラディッシュを入れ、菜箸と手でざっくりと混ぜる。【2】のしょうがじょうゆをかけ、白ごま少量をふってさらに和える。器に盛り、ラディッシュを見栄えよくあしらう。
ばぁばの知恵 その3:せん切り野菜は大きさ、厚みを均一に揃える
●みょうがとわかめの和えもの
<作り方>(作りやすい量)
【1】みょうが3本は根の部分を切って縦に2等分し、薄切りにし氷水に放して水気を切る。水で戻したわかめ20gは筋を除いて湯通し、氷水に取って水気を切る。
【2】ボウルにだし大さじ3、酢大さじ2、薄口しょうゆ大さじ1、塩小さじ1を合わせて混ぜる。手で裂いたなまりぶし200gと【1】を入れてざっくりと混ぜる。
【3】器に【2】を盛りつける。大葉2枚はせん切りにして氷水に放して絞り、天盛りにする。
ばぁばの知恵その4:豚肉を漬け汁に長く浸さないこと
キャベツの仕事
キャベツはゆでることでかさが減り、歯ごたえは残しつつもしんなりと食べやすくなる。これを南蛮酢に漬けたものは、ステーキと合わせてもよし、豚肉のしょうが焼きにもぴったり。長時間放置すると色が落ちるので、なるべく早く食べるのがおすすめ。豚肉のしょうが焼きと好相性!おやつ代わりにそのままつまんでもおいしい。
●豚ロース肉のしょうが焼き
<作り方>(2人分)
【1】ボウルに酒大さじ2、しょうゆ大さじ3、すりおろししょうが30gを混ぜ合わせる。
【2】軽く筋切りした豚ロース薄切り肉200gを【1】に入れ、全体にたれをよく絡ませる。そのまましばらく置く。
【3】フライパンを熱してサラダ油少量をひき、豚肉をたれごと入れて焼く。
ばぁばの知恵 その5:たくさん食べたい野菜は加熱してかさを減らす
●キャベツの南蛮酢
<作り方>(2人分)
【1】ボウルにだし汁・酢各1/4カップ、砂糖大さじ1、薄口しょうゆ大さじ1/2、塩少量、鷹の爪の輪切り適量を加えて味を見る。
【2】大きめの鍋に湯を沸かし、塩をひとつまみ入れてざく切りにしたキャベツ4~5枚(約300g)を加える。ひと煮立ちしたらざるに上げて【1】に入れる。
【3】手早く混ぜて、なるべく早く食べる。
ばぁばの知恵 その6:卵はいじらず、ふんわりざっくりと
●木犀肉(ムシューロウ)
〈作り方〉(2~3人分)
【1】たけのこの水煮150gは、天地を少し落として形を整え、大きめのひと口大に切り揃える。きくらげ70gは水で戻して食べやすい大きさに切っておく。ねぎ1/2本はななめ薄切りにする。豚バラ薄切り肉200gはひと口大に切る。
【2】卵を炒める。卵3個をボウルに割り入れてカラザを除く。菜箸で白身を切りながら混ぜる。
【3】中華鍋を強火で熱し、煙が立ったらサラダ油大さじ2を入れて卵を一気に流し入れる。底が固まってきたら下から大きく返して、ざっくりと熱を通してバットにあける。
【4】同じ中華鍋にサラダ油大さじ1を入れ、豚バラ肉をほぐしながら加える。色が変わったら、たけのこ、きくらげ、ねぎを順に炒め、酒・砂糖各大さじ3、みりん大さじ2、しょうゆ大さじ2強を入れて全体に炒める。
【5】卵を中華鍋に戻し、さっと合わせて器に盛る。
ばぁばの知恵 その7:中華おかずは強火で手早く!
「木犀肉は30年前、パパ(夫の清佐さん。故人)と訪れた台湾で、『おいしいから食べてごらん』とすすめられて食べたらとてもおいしかったの。卵を金木犀の黄色い花に見立てた、目にも鮮やかなひと皿です」(ばぁば)
口の中で違和感が出ないよう、たけのこは形、大きさを切り揃える。卵は多めの油を熱した中華鍋に一気に流し入れて、ふんわりと厚みが出たら、下からざっくり返してすぐバットにあける。カチャカチャと混ぜて炒り卵にならないよう注意。
料理は恋愛と一緒。まずは相手(材料)を知ることから
「お料理は学問ではないの。材料の切り方や煮炊きの時間、調味料の分量はレシピに書いてありますけれども、その通りにしたら必ずおいしくなるわけではないし、失敗しないわけでもありません。
そもそもそのレシピだって、たとえば、ばぁばが『おいしい』と思うさじ加減。あなたにはちょっともの足りなかったり、しょっぱかったりして当たり前なの。レシピはあくまで、そのひと皿を“あなたの料理”にするためのお手本にすぎません。何度も作ってみて、あなたやご家族が『おいしい』と思うさじ加減、火加減を見つけるためのものなのです。
お料理はね、恋愛と一緒よ。まず相手(材料)を知り、真剣に相手と向き合ってちょうどいい接し方を体得していく。そうすれば、『今日は機嫌がいいな(生きがいい)』『ちょっとご機嫌ななめだわ(ちょっと鮮度が落ちている/あまり質がよくない)』‥‥と、勘でわかるようになりますから、料理もしやすくなるでしょう?
とにかく、失敗を恐れないことです。お料理を続けていれば、必ずあなたにとっての“ちょうどいい塩梅”が見つかりますし、お相手のことも、目で見て手にとってすぐにわかります。煮ても焼いても食えないものもピン!と来ますから、時間を無駄にすることもなくなります(笑い)」(ばぁば)
教えてくれたのは 鈴木登紀子さん
現役最高齢、94才の日本料理研究家。鈴木登紀子料理教室主宰。『きょうの料理』(NHK Eテレ)への出演は約50年を数える。『ばぁば 92年目の隠し味』ほか著書多数。女性のための暮らし応援サイト「kufura」(https://kufura.jp/)にて、ばぁばの料理動画を絶賛公開中!
撮影/近藤篤
※女性セブン2019年7月18日号
●94才の“ばぁば”鈴木登紀子さん、「長生きのヒミツ」を告白