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「イマドキの料理の“センセイ”にちょっと言わせて」ばぁば×松田美智子さん対談

 46才で料理研究家としてデビューして以来、50年近くにもわたってテレビ、雑誌などで活躍を続ける”ばぁば”こと鈴木登紀子さんと人気の料理教室を主宰し、大学の講師も務める松田美智子さん。女性セブン誌上でもおなじみのお二人が、「普通の主婦」だった頃を振り返りながら、お料理作りの心構え、心意気を語り合います。

  * * *

松田:鈴木先生、お目にかかれて光栄です。

鈴木:こちらこそ、本日はお手柔らかにお願いします。

松田:鈴木先生はお料理教室を主宰されてかれこれ50年と聞いております。そしてずっと、毎年末はおせち料理を教えていらっしゃると。

鈴木:ええ、毎年ね、23品を11月と12月の2か月にわたって作っています。

松田:23品! 悲しいかな、おせちは元来、家庭で作るものだということを知らない日本人も増えている昨今、それは本当に貴重なお稽古ですね。

鈴木:いえ、昔の人でも、全品作るのは無理ですとおっしゃいますよ(笑い)。また、せっかく作っても子供たちがお煮しめやなますに興味がなかったりもしますでしょう?全部作らなくてもいいの。田作り、数の子、黒豆の祝肴3種にお雑煮で充分と申し上げています。でも、おせちにはどんなお料理と意味があって、どんなお味なのかを知っておくことが大事なのね。

松田:同感です。

鈴木:とはいえ面白いのは、みなさん、ちゃんと密閉容器を持参されて、ご自宅にお持ち帰りになるのね。そうするといちばん最初に味の違いに気づくのは子供たちなんですって(笑い)。「ちゃんとばぁばのように作れば、子供でも“おいしい”と食べることがわかりました」と。もちろん、同じようにはできないかも知れませんが、作ってみようと思うことが大事なのよ。

効率を上げることと手を抜くことは別物

松田:鈴木先生、そこなんです。私も祖母や母から、お料理は「手を抜いたら手を抜いただけのお味になる」と教えられて育ちました。

鈴木:当然ながら“ラクチン”“簡単”は、お味もそれなりでしょう。手抜きとか時短が流行っているようですが、そもそも正しいお料理法を知らずして、どうやって手を抜くのかしらと思うわね。

松田:効率を上げることと手を抜くことはまったくの別物。そこを混同している気がします。

松田:料理教室を始めて26年になるんですが、私はまだ未熟者で、鈴木先生のように達観できないといいますか、時折、イラッとすることがあるんです。

鈴木:あら、そんなの私もしょっちゅうよ。忘れちゃうだけ(笑い)。あなたのお教室は、生徒さんが実習するスタイルなのですか?

松田:はい、みなさんに作っていただいております。

鈴木 ああ、だから余計に。

松田:「どうしてこのかたにはわからないのだろう。教え方が悪いのかしら」と悩みます。

鈴木:違うのよ。お料理を任せたりしたら、とんでもないことになるに決まっているの(笑い)。だから私は、実習はしません。お教室ではあらかじめお献立と作り方を書いたものを渡しておき、「私の手元をよく見ておきなさい」と申し上げております。

松田:インスタとかフェイスブック流行りで、ずーっと写真や動画を撮っている生徒さんも多いんじゃないですか?

鈴木:ええ、いますよ。でも大抵は、すぐにおやめになるようよ(笑い)。

松田:きっと今頃“料理研究家”を名乗り、鈴木先生のお料理をラクチンにリメークして、とんでもない日本料理を教えているかもしれませんよ(笑い)。

鈴木:まあ、よろしいわよ。そういうかたは所詮、そういうかたですから。

普通のサラリーマンの妻が『きょうの料理』に

松田:鈴木先生が『きょうの料理』でデビューなさったのは、46才のときと伺っておりますが‥‥。

鈴木:そうですよ。当時、今でいう“ママ友”たちとお料理会みたいのをやっていましてね。それから、ご近所に体の不自由なおばあさまがいらして、うちの子供たちがよくご自宅の庭先を走り回ったりしていたので、大晦日の夜には、お礼代わりにバラの花を一輪とおせち料理をちょっとお届けしたりしていたの。

松田:まあ、素敵なお話。そして鈴木先生の評判が、『きょうの料理』のプロデューサーの耳に届いたと。

鈴木:ええ、最初は2か月連続でご飯ものの特集記事を担当しました。

松田:私はお料理が大好きで、人さまに食べていただくのがただうれしくて。“料理研究家”という肩書でメディアのお仕事をするとは考えていませんでした。

鈴木:私も普通のサラリーマンの妻で、3人の子を持つ専業主婦でした。いちばん下の娘の久美子がようやく小学2〜3年生になった頃で、お料理を仕事にするなんて想像すらしていませんでした。あなたはご結婚なさっていたの?

松田:はい。でも、夫は私に仕事をしてほしくない人で反対されましたし、両親も「料理が上手程度で、教えるだけならよいけれど、お金をもらったり、生業にしてはいけない」と叱られました。

鈴木:うちのパパは、何も言わなかったからよかったわ。

松田:うらやましいです。理解があったんですね。

鈴木:どうなのかしら。もともと無口な人でしたけれど、昭和22年に結婚して初めてひとりでおせち料理を作っているときに、「料理は楽しいかい?」と聞かれて。「ええ、楽しいわよ」と答えたら「そうか」と言ったきり、後は一切口を出さなかったわね。

松田:叱られるといえば、『きょうの料理』も番組プロデューサーをはじめ、昔はとても厳しい現場でしたよね。私が初めて出演させていただいたとき、当時の担当プロデューサーのお招きで、アシスタントと計3人で、まずスタジオの見学に行ったんです。そしたら開口一番、「あなたたちね、ここは仕事場なんだから、そんなにエレガントな格好で来ないでちょうだいね!」。私たちは、「NHKだとやっぱりスカートかしらねえ」と気を使ったつもりだったんですが、「その服装は働く格好には見えないわよ」と叱られて、「はいっ、本番ではきちっとしてまいります!」と泣きべそでした。

鈴木:助手さんも怖いかたがいたわねえ。私、絶対にそばに行かなかった(笑い)。

松田:いました、いました! 本番時に「じゃあ、(料理の)材料出してください」と言われて(*『きょうの料理』では食材や調味料は料理する側が持参する)並べ始めたら、「あら、ねぎのみじん切りがまだなんですね」とピシャリ。せっかくジーンズと運動靴で気合入れてきたのに、今度はねぎでダメ出し!?…と、アシスタントと2人でボロボロ泣きました。

「あんなお箸の持ち方で『きょうの料理』に 出ちゃっていいのかしら?」

鈴木:たしかに厳しかったけれど、普通の主婦を“料理研究家”へと育ててくれたプロフェッショナルたちでしたね。

松田:おっしゃる通りです。だからこそ、最近の『きょうの料理』を見ていると、すごく心配になります。お箸をちゃんと持てない“料理研究家”が、料理を教えているんです。

鈴木:あらまあ、そうなの?

松田:愕然としました。まず、お箸は正しく持てないと‥‥と、同業者として寂しくなります。所作が正しくないまま放送されてしまってよいのかしら、とも。一体、どうなっちゃっているんでしょう。

鈴木:今はね、フォークやナイフは使えても、お箸をちゃんと持てない若い人たちが増えていますからね。だからうちのお教室では、まずお箸と器の持ち方、順番を教えるの。

松田:私の教室では、外国人の生徒さんの方が、日本人よりもお箸を使えますもの。

鈴木:そうそう! この間、麻布十番(東京都港区)のおそば屋さんに行ったら、外国のかたが、とても上手に美しくおそばを食べていたわ。

松田:たんなるお箸の話ではなくて、これは日本人としての作法、世間を渡る上でのマナーにつながる、とても重要なことだと思うんです。

鈴木:うちの若い生徒さんでも、まず、きちんとしたご挨拶ができないわね。私の前を、挨拶代わりなのか、あごをツンと引いて通り過ぎていきますからね。だから「ちょっとお待ちなさい」って止めるんですけどね(笑い)。

松田:まあ、恐ろしい(笑い)。でもきっと、知らないんですよね、挨拶の仕方を。 鈴木 親御さんに教えられていないし、自分から学んでもいない。どんなにきれいでも高名でも、不作法な女性は魅力半減。そのお料理も推して知るべし、でしょうね。

鈴木登紀子(すずきときこ)

日本料理研究家。46才で料理研究家としてデビュー。東京・武蔵野市の自宅で料理教室を主宰するかたわら、テレビ、雑誌等で広く活躍。『きょうの料理』(NHK・Eテレ)への出演は、50年近くになる。『ばぁば 92年目の隠し味』(小学館)はじめ著書多数。

松田美智子 (まつだみちこ)

1955年東京生まれ。1993年から「松田美智子料理教室」を主宰。テーブルコーディネーター、女子美術大学講師、日本雑穀協会理事も務める。使いやすさにこだわったオリジナル調理ブランド「松田美智子の自在道具」も好評。http://www.m-cooking.com/

撮影/鍋島徳恭、坂本道浩

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