20年ぶり新紙幣発行へ「旧札が使えなくなり新札と交換するので振り込んで」の<高齢者詐欺被害>に要注意!80代女性の実例相談
7月3日から新たなお札が発行される。そこで注意したいのが、高齢者を狙った振り込め詐欺だ。中には、「古い紙幣は使えなくなるの?」という疑問を感じている人も…。新紙幣にまつわる基礎知識と、注意すべきポイントをファイナンシャルプランナーで行政書士の河村修一さんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
河村修一さん/ファイナンシャルプランナー・行政書士
CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、認知症サポーター。兵庫県立神戸商科大学卒業後、内外資系の生命保険会社に勤務。親の遠距離介護の経験をいかし、2011年に介護者専門の事務所を設立。2018年東京・杉並区に「カワムラ行政書士事務所」を開業し、介護から相続手続きまでワンストップで対応。多くのメディアや講演会などで活躍する。https://www.kawamura-fp.com/
20年ぶりに新紙幣が発行される
2024年7月3日、20年ぶりに新紙幣が発行されます。新一万円札には「近代日本経済の父」と呼ばれた渋沢栄一、新五千円札には「女性高等教育の先駆者」である津田梅子、新千円札には「日本における近代医学の父」として知られる北里柴三郎の肖像が選ばれました。
※国立印刷局「新しい日本銀行券特設サイト」より
https://www.npb.go.jp/ja/n_banknote/
財務省によると、近年の紙幣における肖像の選択基準は、「偽造防止の観点から、なるべく精密な写真を入手できること」「肖像彫刻の観点からみて、品格のある紙幣にふさわしい肖像であること」「肖像の人物が国民各層に広く知られており、その業績が広く認められていること」とされています。
ひと昔前は、一万円札といえば、聖徳太子、千円札は伊藤博文などを思い出す人もいるのではないでしょうか。今回のようにお札の絵柄やデザインを変えることを改刷といいますが、偽造を防止するために行われています。なお、改刷の間隔は、まちまちであり、最近は、だいたい20年ごとに行われています。
お札の登場回数が一番多いのは誰?
過去40年では、千円札は夏目漱石から野口英世、五千円札は新渡戸稲造から樋口一葉、一万円札は福沢諭吉で変わっておらず、今では一万円札といえば、福沢諭吉をイメージする人は多いでしょう。
日本銀行券において、過去、お札に登場した人物は、菅原道真、和気清麻呂、武内宿禰、藤原鎌足、聖徳太子、日本武尊、二宮尊徳、岩倉具視、高橋是清、板垣退助、伊藤博文、福沢諭吉、新渡戸稲造、夏目漱石、樋口一葉、野口英世の16名です。一番多いのが聖徳太子です。また、樋口一葉が2004年に初めて女性として採用されています。
参考/国立印刷局「お札の基本情報~過去に発行されたお札~」
https://www.npb.go.jp/product_service/intro/kako.html
新しいお札の特徴
1新しい偽造防止技術
世界初の技術として3Dホログラムの採用。角度を変えると3Dの人物が回転します。また、高精細すき入れ(すかし)では、従来からの人物のすかしに加え、背景に新たに細かいすき入れが入っています。
2ユニバーサルデザイン
額面数字の大型化によりどの種類のお札かが分かりやすくなっています。また、識別マークは、指で触ってどの種類のお札かわかるように、触って分かりやすい形状とお札の種類ごとに違う場所に配置してあります。
3独特な手触り
深凹版(おうはん)印刷は、インクを高く盛り上げる印刷技術のことで、手触りとして「ざらざら」しており、肖像や額面数字、識別マークなどに使われています。
また、お札の用紙は、みつまた、アバカ(マニラ麻)などの植物を使って、伝統的な和紙作りの技法を応用し製造しています。
参考/日本銀行「新しい日本銀行券の特徴」
https://www.boj.or.jp/note_tfjgs/note/n_note/security.htm
このように新たな紙幣にはさまざまな特徴があり楽しみでもありますが、高齢者は特に注意しておかなければならないことも。相談事例をもとに以下で解説していきます。
相談事例「今持っているお札が使えなくなるの?」
「新札が発行されると、今持っているお札は使えなくなるのでしょうか」。ひとり暮らしで要支援の80代後半の女性Aさんからご相談を受けました。
Aさんはテレビ番組の報道で7月からお札が変わると聞いて、今のお札が使えなくなると困ると思ったそうです。
お札は、法律で無制限の強制通用力があると定められています。新札が発行されても、「いままでのお札は使えますよ」と伝えると、ホットされていました。
※日本銀行法 第46条2項
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=409AC0000000089
高齢者を狙った振り込め詐欺に注意
財務省は、新札が発行されるに伴って「現行の日本銀行券が使えなくなる」などを騙(かた)った詐欺行為(振り込め詐欺など)には注意するように呼び掛けています。
※財務省「新しい日本銀行券の発行時期について ご注意ください」
https://www.mof.go.jp/policy/currency/bill/230628.html
特にひとり暮らしの高齢者で、子どもが近くにいない人や、身寄りのいない人などは、少しでも不安なことがあれば、地域包括支援センター、消費者センターなどの公的な機関に積極的に相談してみることをおすすめします。
電話で「古いお札が使えなくなりますよ」などと言われたら、それは詐欺の可能性が大。繰り返しになりますが、新しいお札が出回っても、これまでの紙幣は使えます。
特殊詐欺の被害者は約80%が高齢者
なお、令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等によると65才以上の高齢者被害の件数は14,895件と総件数(法人被害を除く)の78.4%を占めています。
■高齢者被害の割合
高齢者…78%
高齢者以外…22%
オレオレ詐欺は高齢者女性の被害者が多い
また、女性の被害件数は10,661件で高齢者被害の件数の71.6%を占めています。
この結果から、高齢女性は特に注意する必要があるでしょう。なお、手口別の総数では、最も多いのが「オレオレ詐欺」、次に「還付金詐欺」となっています。
■高齢者被害の手口・男女別
オレオレ詐欺…男性 755|女性 2973(件)
預貯金詐欺…男性 230|女性 2487
架空料金請求詐欺…男性 1774|女性 1074
還付金詐欺…男性 1064|女性 2170
その他…男性 101|女性68
※グラフ出典/警察庁「令和5年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)」より
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2023.pdf
※件数は、「認知件数」(犯罪について、被害の届出、告訴、告発その他の端緒により警察等が発生を認知した事件の数)。
新紙幣発行時の注意ポイント【まとめ】
2024年7月3日に新しいお札が発行されます。これは、20年ぶりの改刷となります。
長年親しんできた一万円札の福沢諭吉。新しい一万円札には渋沢栄一、五千円札も樋口一葉から津田梅子へ、千円札は野口英世から北里柴三郎へと変わります。新札の発行は、新しい偽造防止技術やユニバーサルデザイン、独特な手触りなど楽しみでもあります。ただし、「旧札が使えなくなるので新札と交換するので振り込んでください」といった手口の詐欺行為も財務省から注意喚起されています。
とくに高齢者のかたがたは、被害にあわないように、まずは家族や身近な人、地域包括支援センター、消費者センター等の公的機関に、少しでも不安な点があれば、積極的に相談しましょう。
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